作品タイトル不明
第82話 お手紙の内容
テイカーさんの持ちかえった貴族からの手紙は、マーチンの領主であるフローク子爵様からのものであった。
しかし、知らないお貴族様から、いきなり届いたお手紙が怖くて開けれない僕は、カサール子爵様のお屋敷へと、
「どうしましょう…」
と、もしもの時は助けて欲しくて泣きついてみたのである。
だけど子爵様は、
「どうもこうも…読んでみるしかないであろう…」
と呆れていたので、僕としては仕方なくその場で封を開けて中の手紙を読んでみることにしたのである。
手紙の内容としては、
『国王陛下から我が町に住んでいたバルザックという錬金術師の件で褒美を頂いたのであるが、なにぶん寝耳に水な褒美の為に町の者に聞いて回った結果、貴殿の名前が上り、一度会って話してみたく…』
と、バルザックさんが研究していたゴーレムの件を僕の錬金術の師匠であるエルバート師匠が王都で『彼の偉業』として報告した為に、回り回って、
『本人が死亡しているのなら、せめて墓や石碑にて偉業を…』
と、ご領主であるフローク子爵様に陛下からのお金やら何やらが届いたらしく、まさか自分の領地でそんな事が起こっているとは知らなかったお貴族様が、
『なんでもっと早く教えてくれなかったの?』
という恨み節と、
『新型ゴーレムとかいったね…一緒に我が家も噛ませてよ…』
というお願いなど、複雑な感情が入り乱れた長いお手紙に、僕は、
「どうしましょう?」
とカサール子爵様に改めて相談する。
しかし、カサール子爵様は、
「えぇ~、新型ゴーレムは我が家のだし…」
と少し拗ねてしまい、
「フローク・デル・マーチン子爵殿といったら文部大臣の派閥…ゴーレムで稼ごうなど…」
と、あまり快く思っていない様子に、僕は、
「でも鉱物系のダンジョンが有りますからゴーレムの素材の仕入れ先に仲良くすれば…」
と、提案したのであるがどうやらカサール子爵様はお気に召さないらしく、同席していたクリスト様も、
「同じ派閥だったら最高だったけど…」
と渋っているので、貴族の派閥的にカサール子爵様だけの判断でフローク子爵様とゴーレムの件で業務提携は出来ないらしい。
僕としては、
『仲良くしたら、壊れたゴーレムコアも集め放題なのに…』
とは思うが、そうなればカサール子爵様を経由せずに別ルートから仲良くして、我が家にだけ恩恵が来る様にするだけである。
『だって僕は貴族ではないのだから…』
と、今後の展開を考える僕は、怖がっていたお手紙の内容が『遊びに来て』という招待状だと解ったので、
『ここは一つ我が家の将来の為に先に手を結ぶべき人材をこちらの仲間に引き入れる所から開始するか!』
と、行動を開始した。
そのターゲットはゼルエルガさんであり、何故ゆえ彼女を仲間に引き入れるかというと、
『ラベル先生と同じく王都の学校の先生だった経験があり、文部大臣派閥の貴族に凄く顔が利くから…』
という理由からである。
安全に魔力供給魔道具を使用するのに訓練が必要となる事はラベル先生からも少し聞いていたが、今回のカイン君の件で僕としても十分に理解した。
そこで、ゼルエルガさんを魔力供給魔道具の特別アンバサダーとして、魔力操作の技量について、彼女のお墨付きがないと魔力供給魔道具を販売しない事にすれば、安全かつ必要な人間に早く魔力供給魔道具が行き渡るはずである。
そして我が家も高価な魔道具を買える貴族や商人と人脈ができれば新たな職人の補充や安定した材料の仕入れも可能となるはずである。
『カサールの町のゴーレム作りの為に我が家で使う金属の仕入れ先が近隣に無いって、テイカーさんがボヤいていたもんな…』
などと思いつつ、先ずはゼルエルガさん用の魔力供給魔道具の製作を我が家の職人チームにお任せして、僕はベルも含めた子供達とウチの農場担当のノリスさんとマイラさん夫婦の所に秋の収穫のお手伝いに向かい作物を冬の蓄えまわす。
そして、男の子冒険者チームはDランクに今回の旅で昇格し、女の子チームはベルのDランクとララちゃんとターニャちゃんが町周辺の採取クエストなどでEランク冒険者になったので、
『これなら子供チームも狩りに行けるな…』
と、冬のお肉集めに皆で森におでかけしたりして過ごしたのであった。
そして、冬の食料の準備が完璧に整った我が家の回りでは、現在はカイン君の修行も兼ねて、魔力供給魔道具が完成したゼルエルガさんが師弟で魔法を連発している。
彼女の完成した魔道具は真っ赤な色に染められた革の魔石タンクに、イデアさん達が倒すのを手伝ったお礼に頂いたマーチンの町を襲っていた蛇の鱗などの素材と、タンカランで集めた壊れた金属武器を溶かして作られた魔法耐性が付与されたバラッドさんご自慢の魔合金の腕鎧と、その蛇皮を使った片方だけのマントという何とも見事な出来映えの高級さの中にも女性らしいエレガントさも兼ね備えた魔力供給魔道具である。
我が家の職人は勿論、テイカーさんの商人としての嗅覚にも、
「これは売れますよ!」
と感じる商品を身につけたゼルエルガさんがニョキニョキと師弟でカサールの町の壁の外にある我が家を守る新たな壁を【ストーンウォール】なる土属性魔法で生やしはじめてくれている。
壁を作ってもらい、我が家としては、有難いと同時に、
『この光景を魔法師を目指す若者に見せたいよ…』
と、魔力供給魔道具をアピールするのに宣伝効果抜群の師弟の姿を金持ち達に届けられない事を残念にすら思っていた。
しかもゼルエルガさんは、壁だけではなく、なんと我が家の唯一の魔法ギフト所持者である男の子、デニス君の魔法の師匠にもなってくれ、急遽カイン君と同じように、成長するまでの繋ぎとしての基本タイプの魔力供給魔道具を作り、デニス君とカイン君は同年代の兄弟弟子として毎日楽しく修行に励んでいる。
『本当に有難い限りです』
と、彼女には感謝しかなく、同じような魔力供給魔道具という作品を続けざまに3つも作った我が家の職人達は、昨年の冬に僕たち発明者が知恵を絞っていた様に、今年は職人達が我が家の居間にて、魔力供給魔道具の改良や生産についての会議をしており、
『よし、これならば暫く留守にしても大丈夫だろう…』
と感じた僕は、貴族達の社交のシーズンが本格的になる年始前にチャチャっとマーチンの町に行って、ご挨拶を済ませる事にしたのである。
さて、そうなると問題は旅のお供であるが、魔力供給魔道具をゼルエルガさんやラベル先生経由で売り込む為にライト兄さんを連れて行きたいが、ベーレの一件により王家から護衛まで付けられた兄さんを連れて行く訳にも行かない。
そして、壁作りを始めたゼルエルガさんも無理であり、追放者から冒険者になっただけの僕の後ろ楯が無い状態であるが、後ろ楯として名前を出すのがカサール子爵様では派閥的に角が立ちそうである。
考えた末に僕は、
「まぁ、ライト兄さんとゼルエルガさんの二人から紹介状的な手紙を書いて貰えれば、国家錬金術師と国王陛下も認めている魔法師だし…」
という事で、僕と護衛のバルディオさんとイデアさん、それに商売の話も出るだろうからテイカーさんも行く事は決定したのであるが、ベルが、
「えっ、お兄ちゃんマーチンに行くの?」
と話を聞き付けて、
「アルとバートとデニスの三人だけ旅をしてズルい!」
とタンカランダンジョン方面に修行に行っていた男の子チームを羨ましがっていたララちゃんとターニャちゃんも一緒になり、
「行きたい!」
と騒いでいたので、僕は、
「お勉強もするんだよ」
という事を条件に再びリーグさんを引率に任命して女の子冒険者チームと冬が本格的になる前に弾丸マーチンの町ツアーに出発する事が決まり、男の子チームにベル達が、
「シルフちゃん達の遊び相手とか任せたよ」
と、言って三人でキャッキャウフフと旅の準備を始めたのを見て、
『男の子チームはグラーナで稼げたけどララちゃんとターニャちゃんは自分のマジックバックも持ってないからマーチンで買ってあげよう…あそこのお店はカサールの錬金ギルドよりカバンの種類が多いもんな…』
などと考えつつも、
『イデアさんが折角帰ってきたのにまた連れ出したらライト兄さんションボリするだろうな…紹介状を書いてもらうお礼に、旅の間にそれとなくイデアさんにライト兄さんをオススメするか…』
などと、自分の彼女もいないのを棚に上げまくった僕も、
「では、暫く留守にする事をカサール子爵様とかに報告しに行くよ」
と、メリーさん達伝え、
「帰りにライト兄さんの工房に寄ってお願いしたい事が有るんだけど…そうだバルディオさん、一緒に来てくれないかな? 買いたい物もあるし…」
と、バルディオさんを誘うと、テイカーさんが、
「買い物なら私も…」
と手を上げてくれたのだが、幼い時から僕の事を見ていたメリーさんは、僕が何か企んでいるのに気がついているらしく、彼女は、
「坊っちゃま…外堀から埋める作戦ですね…」
と、僕にだけ聞こえる小声で言ったかと思うと、
「テイカーさんは、冬の薪が足りませんからリーグさんと薪を買ってきて下さいな…」
と、メリーさんはテイカーさんに仕事をお願いをしてから、軽く目配せをこちらにして、
「これは春辺りから楽しくなりそうでございますね」
と呟きウキウキしながら家の掃除を始めたのであった。