作品タイトル不明
第78話 僕だけのだったのに
ベーレでは色々あったが、とりあえず近隣の町を巡って我が家の為に稼いでくれている商人のテイカーさんと、護衛であるバルディオさんとイデアさん親子が迎えに来てくれたので、僕とライト兄さんは踏破も終わりそこそこ稼げて、冒険者としてばっちり経験も積むことが出来たベーレのダンジョンから自宅へと帰る事にした。
あの日、残念ながら常連冒険者チームは欲しかった業火の槍というマジックアイテムは出ずに違う風魔法を出すミスリル製の剣を引き当てたのであるが、先日運良く業火の槍を引き当てた冒険者とのマジックアイテムのトレードが成立し目的を果たせたので僕たちとしても心置きなく帰れるのである。
ベーレの冒険者ギルド前に停まっているウチの馬車は今回の教会との件に参加した冒険者達に囲まれて、
「あれが、国家錬金術師の兄さんの…」
とか、
「確かに、あれは叫びたくなるベッピンだな…」
などと、最近酒場で噂の国家錬金術師であるライト兄さんの想い人であるイデアさんを見学し、満足そうに微笑みながら、
「イデアさんっていうのは姉さんの事だろ? 見せてやりたかったよ…ライトの兄さんが暴れる罪人をピシャリと黙らせた所をよ…」
などと、ライト兄さんの武勇伝を口々にイデアさんに話しており、
「主殿…これは?!」
と僕に不安げに聞く彼女に、
「とりあえず、この町で色々あってね…皆、ライト兄さんが頑張った事をイデアさんに教えたいんだよ…」
と、やんわりと説明したのだが、その後、ベーレの町を離れてなお、馬車の中でイデアさんは、
「何故、皆さんが私の名前を…」
などと不思議がる。
そんな彼女に、ライト兄さんは、
「な、何ででしょうね…」
などと、ここで告白すれば話が早いのに、どうやら一旦しらばっくれる事を選んだ様で、
『ライト兄さんの意気地無し、もう知らない!』
と、僕の心の中ではクララにブチキレるハイジの様に、ライト兄さんをなじった後に走り出したい気分である。
そんな訳にもいかず、ヤキモキしたままの僕が馬車移動の後に到着した我が家は見違えるほど変わっていた。
家を空けたのは一月余りのはずであるが、畑エリアにはすくすくと作物の葉が風にそよぎ、牧場エリアでは牛魔物に加えて羊なのか毛に覆われた生き物がくつろいでおり、そして、
「お兄ちゃんお帰りなさい」
と出迎えてくれたのは、メリーさん愛用のパトラッシュが引く1人乗り荷車でシルフちゃん達をあやすベル達女の子チームなのである。
メリーさんからパトラッシュの操り方を伝授されて荷車を乗りこなしているベルにも十分驚いたのだが、後ろの荷台にララちゃんやターニャちゃんと乗ってはしゃいでいる我が家の最年少コンビのジョイ君とエレナちゃんが、
「おニィちゃん、おかーりっ、どこいたたの?」
と挨拶してくれた事が今回一番の驚きであった。
『単語での会話だったのに…』
と、子供達の成長を喜んでいたのだが、家の中で皆にダンジョンでの話をする前に、町の門兵から連絡が入ったカサール子爵様とクリスト様が我が家を訪問して、
「今回のベーレでの件は申し訳なかった…」
と頭を下げて、ベーレでの事件の真相を教えてくれたのである。
どうやらカルネ男爵家は代々ベーレダンジョンにて細々と稼いでいた教会側に、娘が光属性魔法のギフトを授かったのを機に接触する事になり、
【見た目も性格にも難がある娘に聖女という箔をつけたい父】
と、
【宗派も違いニルバ王国では肩身の狭い教会にニルバ王国貴族のお墨付きというブランドが欲しい神官長】
という利害関係がベストマッチした結果としてダンジョンを私物化してマジックアイテムを横流しするというビジネスが加速化したらしく、カサール子爵様は悔しそうに、
「聖女となった娘が学校を中退してから20年ほどでダンジョンの下層域から冒険者を排除する為にカルネ男爵は教会と一緒になり様々な悪事を行っていたらしい…我が派閥ながら何とも…」
と教えてくれた。
どうやらその派閥の下っ端だったカルネ男爵は、ベーレダンジョンを管理する伯爵様の手下である事を利用して、ベーレで起こった教会絡みの事件を揉み消したりもしており、益々調子に乗ってダンジョンにて稼ぐ教会からの賄賂にて男爵家も潤い、もうお互いにズブズブの関係だったらしい。
「戦争中でそれどころでは無かったとはいえ、身内の悪事に気がつかなかった…」
と、派閥の長である軍務大臣様も悔やんでいたそうで、その尻拭いを僕たちにさせる形になった事をカサール子爵様が頭を下げてくださる。
しかし、
「いや、カサール子爵様が悪い訳ではないですから…」
と、僕やライト兄さんがフォローすると、子爵様は、
「そうか…そうかの、そう言って貰えてホッとした…」
と安堵したかと思うと、カサール子爵様にクリスト様が何やらソワソワしながら、
「では、父上…アレを見てもらいましょう」
と提案すると、カサール子爵様も、
「そうじゃ、アレを先ずはジョン殿に見て貰わんと!」
と、ニコニコしながら僕とライト兄さんを我が家の工場スペースへと連れていくと、そこにはバラッドさんが数名の男性達と作業をしており、
「ガチン、ガチン」
と響く金槌の音の向こうでは、凄く見覚えの有るゴーレムが二体並んでいたのであった。
僕たちに気がついたバラッドさんが、作業の手を止めて、
「おっ、ジョンの旦那のおかげで試作型だった子爵様達のゴーレムの代わりに新型をここまで作れました」
とニコニコしながら工場の作業用テーブルの上の設計図に文鎮がわりに置かれた僕が冬の暇潰しに錬金鉄粘土で作った【僕の考えた最強ゴーレム人形】を指差し、
「ジョン君が居間に残してくれた見本の模型が有って助かりました。 いやぁ、組み立てやら一部関節の動きに苦労しましたが、試作型を作ったこの町の鍛冶職人の皆が手伝ってくれて…」
などと自慢げに説明してくれたのである。
「なんで、僕専用の機体にする予定のデザインを…」
と、唖然とする僕であるが、どうやらライト兄さんはこの件を事前に知っていたらしく、
「えっ、ジョンがなんか凄い武器をつけたゴーレムを作るって言ってたから、てっきりカサール子爵様達のゴーレムの改造計画の為の模型だと思って…」
と、今回の主犯格がアッサリと自供したのであった。
『何故に僕の計画はこうも上手く行かないのか…』
と泣きそうになるが、世界で1つの僕だけの最強ゴーレム君になるはずだったデザインは既にカサール子爵様親子の鋼のボディーを持つゴーレムへとなり、このデザインを元にカサールの町で作る新型ゴーレムは全てこの機体になるそうで、
『こんな量産型になるのなら、もっと手を抜いたデザインにしたのに…』
と、少しこだわり抜いた自分を恨めしく思うが、既に完成間近なゴーレム達を見て、
「ははっ、格好いいですね…」
と僕は引き吊る笑顔で答えるしか出来なかったのであった。
しかし、勝手に人のデザインを使用しただけではなく、ライト兄さんはカサール子爵様達とキッチリ話をつけてくれていたらしく、今後このカサールの町の正規品ゴーレムとして、このタイプのゴーレムボディーを作る度にデザイン料として、僕の口座にも、設計図におこしたバラッドさんの口座にもチャリンとお金が入るらしく、
『まぁ…それならば…』
と今回は大人しく諦める為に、
『ふん、良いモン…僕のはもっと凄いのにしてやる!』
と自分に言い聞かせる。
それから我が家の工場では、試作ゴーレムのフレームを参考にして作られたカサール型という型式に決まった新型ゴーレムフレームにライト兄さんが何日もかけて作業を施し、重量軽減に加えて魔石ライトなどの回路や魔道具の数々を設置する作業へと入り、夏の終わりには背部のハッチから乗り降り出来る男の子心をくすぐり倒すカサール型のゴーレムが完成したのである。
試作型ではクリスト様の機体の両手から打ち出されていたストーンバレットの魔道具をオンブゴーレムの発射機構を参考にして頭部に配置する事によりクリスト様のニュー・ボール号はバラッドさんが鍛えたゴーレム用の武器も扱える様になった。
そして、既に盗賊討伐によりゴーレムとしてのレベルが上がっていたカサール子爵様の愛機であるカサール号は別個体のゴーレムを一体傘下に従える事が出来るらしく、我が家から手に入れたゴーレムコアにて、更なる改良を加えて、カサール号の右手の肩から先を別のゴーレムとして使える様にフレームを調整したのである。
子分のゴーレム君は右手というボディーをクリスト様のゴーレムマスターとしての能力による説明で理解したらしく、新たにコックピットに増設された5つのボタンの【起動】ボタンによりカサール号とのリンクをした状態で右腕の支配譲り受け【つかむ】ボタンにより武器を握り【構える】ボタンで武器を前に突きだし、【振り下ろし】と【薙ぎ払い】により簡単な武器での攻撃も可能となったのである。
ゴーレムマスターの操るゴーレムに比べると動きのパターンはかなり少ないが、これがギフトなしで扱えるのは大きく、カサール子爵様も、
「殴ってばかりだと時間がかかるからランスでも持たせて突進すれば大型の魔物でも蹴散らせるな!」
と大変ご満悦である。
そして、不要となった試作型のゴーレムフレームは我が家へとプレゼントされ、ライト兄さんがオンブゴーレムとして育てたコアと共にゴーレムの新しい魔道具式の武器の開発に使われ、いずれはバルディオさんにも勝てる事を目指すらしいのである。
しかし、僕としては、
『う~ん…なんかライト兄さんが進むべき方向が微妙に違う気がするのは、僕だけだろうか…』
と心配になってしまう。