軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第7話 殴られた結果

腫れ上がったまぶたが邪魔をして視界は悪いが、寝かされている僕の隣からは、

「馬鹿か…どこの世界に黙って殴られるヤツがいる…」

と呆れながら手当てをしてくれている男性の声が聞こえる。

声の主は僕を気にかけてくれていた看守の青年である。

あまり看守の方々と話すチャンスは無いが、流石に長くここに居る僕は彼の生い立ちを少し知るぐらいの世間話ぐらいは出来ており、本人の話では彼は貧しい家庭の生まれで金持ちだの貴族だのを嫌っているらしい。

そしてこの収容施設では貴族出身者は魔力が高い者が多い為に魔法などで暴動を起こしたり脱走を企てた場合に速やかに対処する為に囚人番号にて分かる様にしてある事から初めは僕の事も貴族出身者と知り、

『貴族のボンボンが…どうせ威張りちらして喧嘩でもしたんだろう…』

などと思って嫌っていたらしいのであるが、僕がいつまで経ってもここに収容されている事を疑問に思った彼は、

「アイツはいったい何をやらかしたんです?」

など、僕の事をベテラン看守さんなどに聞いた結果、【元貧乏貴族の息子】という事がわかり、僕が親父のやらかしに巻き込まれた事を知ると、

『俺の家も酒好きで、女を作って出て行った親父が居るから…』

などと共感してくれたらしく、最近では、ほぼお兄ちゃんの様に僕の事を気にかけてくれている有難い存在である。

ただ、この施設のルールとして、彼は僕の名前を決して呼ばずに、囚人番号か「お前」などと呼び、僕は彼を「看守のお兄さん」と呼ぶので、彼は僕の本名を知っているだろうが、僕は彼の名前を知らないという微妙な距離感の関係なのである。

まぁ、下手に名前を知られると好かれていない看守さんはお礼参りとして自宅に後日、釈放された囚人の方々が来ちゃうかも知れないから仕方ないルールなのだろう。

そんな看守のお兄さんは、僕のおでこや頬に傷軟膏を塗りながら、

「先週、壁の上で作業していた囚人が落っこちて常備されていたポーションを使いきった時に怪我なんてするから…明日には申請していたポーションが町から届くらしいから、今は軟膏で我慢しておけ…」

などと文句を言っているが、声には彼の優しさが滲み出ており、僕の腫れた場所ひとつひとつに軟膏を丁寧にヌリヌリとしてくれている。

未だに視界が腫れによりふさがり気味で、鏡などという高価で洒落たものも無い為に看守のお兄さんの手をわずらわせているのだが、あまりの僕の顔面の凸凹さ加減に、

「いったい何発殴られりゃ、こんな立派なポタタみたいになるんだよ…」

と心底呆れている声が聞こえる。

僕が、

「3発ゅまでぇしか、数えてぇましぇん」

と腫れた頬で頑張って喋ると、看守のお兄さんは、

「無理して喋るな…少なくとも俺達が駆けつけるまでに十発は殴られてるよ…こりゃあ、高い方のポーションだな」

とタメ息混じりに僕を注意し、その後は「うん」と「ううん」の返事のみで会話する事を指示された。

そして軟膏を塗り終えた看守のお兄さんは、低いトーンで、

「どうする? お前には殴った奴らを訴える権利がある…お前が一発も殴り返していないのは俺が見ているし、あれは喧嘩ではなく襲撃だから…」

と聞いてきたので、訴えるつもりなど無い僕は、

「ううん」

と否定しておいた。

それを聞いた看守のお兄さんは、

「いや、下手すりゃ死んでたかも知れないんだぜ!?」

と、殴った熊耳オジサン達に罰を与える事を僕に薦めてきたのであるが、どうしても僕は彼らを責める気持ちにはなれなくて、頑なに拒否の意識を伝えると、彼は、

「わかったよ…とりあえずお前は治るまで奉仕活動は免除だから…あと、そんな顔でウロウロされたら他の奴らがビビっちまうぜ…飯もここに運んでやるから大人しく寝てろ」

と言って医務室がわりのこの教会の建物から出て行ったのである。

その夜、僕は腫れた箇所が熱を持ち疼くような痛みや、ズキンと響く様な頭痛に襲われ、

『脳内出血とかで死なないかな?』

など不安になりながらも、

『死んでも運ぶ手間はないか…ここって教会だし、隣は墓地だから…あぁ、だから医務室は教会を使ってるのか!』

などと、馬鹿な事を考えながら朝を迎え、

『うん…まだ痛いが死んではないな…』

と安心したりと眠れぬ夜を過ごした。

まぁ、殴られてから半日ほど気絶していたから眠くないという事もあるかも知れないが、痛みと不安でビクビクしていたのが大きいと思う。

そして、腫れたまぶたの隙間から見える室内が少しだけ明るくなり始めた頃、きのうの夜、

「こんなに腫れてちゃ晩飯は無理か…明日の朝飯は何か食べやすそうな物を持ってきてやるから…」

と言っていた看守のお兄さんが、囚人の奉仕活動前の朝ご飯の時間にはまだ少し早い時間だというのに、

「生きてるか? 交代前に町からの荷馬車が到着したから先に持って来た」

とポーションを手に看守のお兄さんが小走りで訪れて、

「朝飯食って腹がパンパンになる前に飲んじまえ」

と僕にポーションを渡してきたのである。

感謝を伝えようと体を起こす僕に彼は、

「良いから、まずは飲め」

とポーションを薦め、そのポーションを開くだけで痛みが走る口に咥えて飲み干すと腫れの熱や疼き、それに頭痛などもスーっと和らぎ、

「ありがとうございます。 高いヤツは効きますね…」

と、お礼と合わせてポーションの効果に感心している僕に、看守のお兄さんは、

「立派なポタタから普通のポタタぐらいにはなったな…」

と安心してくれた様子で、僕の顔を色々な角度から確かめている。

そんな看守のお兄さんの姿もしっかり見えているので、どうやら目の周りの腫れも少し引いたと思われ、

「この感じなら奉仕活動に出られますが…」

と僕が提案すると看守のお兄さんは少し怖い顔をして、

「ダメだ…これは命令だ。まだポタタ顔のお前は最低でも一週間はここで寝てろ」

と言って僕のおでこを人差し指でツンと押し、

「殴った奴らには、【お前が生死の境を彷徨っている】っていう事にして追加の罪に問わない代わりに先輩達がミッチリ説教してくれる事になってるんだからな…」

と教えてくれ、そして悪さをした後のイタズラっ子みたいに、

「もうすぐ朝飯だから大人しく待ってろ」

と笑いながら出て行ったのだった。

それから僕は、教会に置かれたベッドで過ごすこと数日、本当に看守のお兄さんが僕の担当業務の時は、

「回復するのに栄養が必要だろう!」

と食べきれるか少し不安になる量のご飯を届けてくれ、

『食っちゃ寝で太りそうだな…』

と不安になったころ、腰縄をされた四人のオジサンが僕が寝ている教会に連れてこられ、

「坊主…死ななくて良かった」

「本当にすまなかった」

「許してくれ」

と彼らは僕にすがる様に謝罪してくれ、僕をタコ殴りしてきた熊耳のオジサンなどは床に頭を擦り付けて、

「オレぶぁ!ぼんでもまぃガウガウぅぅ…」

と何を言っているのかすら聞き取れない状態で泣き崩れていたのである。

暫く泣いている本人とは会話にならない状態であったが、看守さん達の協力もあり少し時間は掛かったが彼らの素性を知る事が出来た。

どうやら彼等はこの廃墟の町出身の方々で、数年前にウチ町を襲った…というかウチ町に隠れていた親父の手下を追って来た武装集団の一員であり、一度は押し返されこの町を奪われてしまったが、

『娘を取り返す!』

という目的の為に冒険者としてウチの町などに潜入して、盗賊風の奴らを片っ端からシバきあげては、娘の居場所をつきとめようとしていたらしく、本当に親父の配下の下部組織の盗賊団をいくつか壊滅させていた猛者という事であった。

「あぁ、あのクソ親父が領主の仕事をそっちのけで、いつもコソコソと忙しいそうだったのは、もしかしたらオジサン達の潰した部下から情報が漏れてないかビクビクだったからかもね…」

と、僕がオジサン達が活躍していた期間の親父の姿を思い出して納得していると、熊耳オジサンは、

「いつも、締め上げた盗賊達に娘を攫った黒幕の事を聞いても【俺たち下っぱは知らない…】ってのばかりで…オレ達の努力は無駄じゃ無かったんだなぁぁぁ…」

と再び泣き出してしまったのである。

『もうクマ耳オジサンは泣かせておいてあげよう…』

と、ほかの三名のオジサン達メインに話を聞くと、どうやらウチのクソ親父が捕まっても娘さんは帰ってこず、怒りに任せて、

「残党狩りだ!」

と、片っ端から悪そうな奴らをシメて回っていたらしく本当に残党も捕まえたが、ただ素行の悪い一般通過不良冒険者までタコ殴りにして、仲良くチームごとこの収容施設送りになり、

「まぁ、生まれ故郷の復興をするだけだし…」

と、ここにノーダメージで収監されていたのであるが、そこで黒幕の息子の登場となり今に至るのであった。

襲撃後に、僕が違法奴隷の件には全く関わってない事や、

「もしも収監中に逆恨みなどで殺人を起こせば…」

などと散々看守さん達がビビらせていたらしく四人は僕が元気になった事を泣きながら喜んでくれたという流れなのだが、

『お高い方のポーション2本目で、ほぼ回復してしまったんだけど…』

と、クソ痛かったが案外早めに治った事が何とも心苦しく、

「はは…ありがとうございます…」

と、乾いた笑顔で心配してくれた事に感謝するのがやっとな僕であった。

ちなみに彼らは、【お高いポーション2本分】という理由は伏せたまま、

「今回は罰金刑で許してやる。ここを出てから1ヶ月以内に辺境伯領のいずれかの町にて納める様に…さもないと次は追加の罰金も増えて、ここではなくて、借金奴隷として鉱山労働送りだぞ!」

などと脅されていたそうである。

僕としては、かなり痛かったが休暇ももらえ、その後はあの四人が僕の友達の様に接してくれた事により、他の囚人達も遠くからヒソヒソと陰口を言う事もなくなり、

【親父のせいで悲惨な目にあってる先輩子供囚人】

という事が知れ渡ると、皆さん僕を可愛がってくれる様になり、この事件以降は結構過ごしやすい囚人ライフを送れたのであった。