軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第57話 お兄ちゃん動く

カルセルの町で過ごす事10日、ようやく鍛冶師ギルドも落ち着いたようで、バラッドさんの後任のギルドマスターも決まり引き継ぎが始まったようである。

なぜ、そんな鍛冶師ギルドの事情を知っているかというと、バラッドさん本人が毎晩の様に、

「ベル師匠! 本日は何が召し上がりたいですか?」

などと、ウチのベルちゃんにカルセルの町の案内がてら夕食をご馳走しており、僕は彼に

「いや、バラッドさんにはゴンザさんっていう師匠が居るでしょ…」

と呆れて言うのだが、バラッドさんは、

「アイツのせいで私は大変な日々を送ったんだ…あんなのは師匠では無い!」

などと、ゴンザさんという師匠は解雇したみたいな事を言っているのだ。

まぁ、あの時の1本筋の通ったベルのご両親の格言により気持ちが晴れやかになったのは分かるが、新たなる道しるべにベルを師匠として…というか、実は何年もギルドマスターを辞めるという選択を誰かに背中を押して欲しかった状態であっただけだと思う。

それに、最後の一押しをしてくれたベルに最大限の感謝を示すのに、「師匠」と呼んでいる時点で、バラッドさんにとっての師匠という存在の大きさが伺え、

『アイツってゴンザさんの事を言っているけど、大好きなんだろうな…』

などと、僕はちょっぴり感じるのではある。

そして、そんなバラッドさんの案内で今日もカルセルの名店で夕食を頂き、シメは甘党のバラッドさんのオススメのスイーツというコースなのだろうが、ベルはこのバラッドさんのオススメスイーツのバリエーションの豊富さをいたく気に入っているらしく、彼に安くて美味しい露店スイーツなんかを聞いては、バラッドさんから

「では、明後日はギルドは休みですので朝から屋台等を巡りましょう」

などと、ベルはお誘いをうけている。

ちなみに、この毎晩の様に行われるバラッドさんからベル師匠への接待に僕とリーグさんもついででご馳走されているのであるが、これは、

「馬車を購入したので、町を出る際にタンカランまで乗りますか?」

とお誘いした結果、

「助かります。 ただ、ギルドの引き継ぎで1ヶ月近くかかりますが、待って頂けるのであれば、工房も手放して荷物も結構ありますので…本当にご迷惑で無ければですが…乗り合いなんかだと乗り換えの度に積み降ろしをしなければならないので…」

という事で、僕たちはタンカランまでの馬車を出す代わりに、バラッドさんには滞在中カルセルの町の案内と、晩御飯を奢ってくれる契約になっているのである。

既に外町の市場で購入した馬車は、中古の幌馬車であるが足回りや作りはしっかりした良い物で、現在些かボロボロ過ぎる幌を張り直して、撥水コーティングをバラッドさんの人脈で格安で最高の職人さんに頼めるという特典まで付いている為に、

『タンカランまでの足代以上にこちらが得してるのでは…』

と、申し訳ない気持ちになっている。

そんは感じで馬車の修理も安くなり、僕の口座から引き出したゴーレムコアの残りの代金もかなり余っているので、三等分に分配し、僕はスパイスや珍しい食材などを見て回り、リーグさんは従魔として購入し、【ガー】と命名したコルボザというカラス魔物の飼育セットやら、現在外町にある牧場に預けてある馬魔物のブドウパンとコゲパンの馬具などの購入代金にまわしているらしく、これには、

「旅に必要な馬具は別会計で出すから…」

というも、リーグさんは、

「いえ、自分のわがままで買って頂いた仲間なので、可能な限り自分で…」

と言って聞かないのでお任せしており、そして、多分であるが僕の予想でベルは、

『欲望のまま買い食いするのかな…』

などと考えていたのであるが、滞在が20日を過ぎた頃に、外町の牧場エリアの端の広場にてリーグさんとガーの飛行訓練を眺めている僕のところに休日のバラッドさんと屋台スイーツ巡りをしていたベルが合流したのである。

しかし、到着するなりバラッドさんが物凄く申し訳なさそうに僕に向かい、

「私の不注意で…何とか私の方でも手をまわしますので…」

と頭を下げるのである。

全く話が見えて来ない僕は、

「いや、とりあえず頭を上げて事情を…」

とお願いするのだが、隣のベルは、

「ボク悪くないもん!」

と怒っている…

『これは、なにか面倒事だな…』

とは思ったのであるが案の定、何でも揃うカルセルの外町の市場にはスイーツの露店は勿論の事、奴隷市場もあるらしく、そこで奴隷達の世話をさせられていた犬耳の女性が、

「いつまで洗濯に時間がかかってるんだ、折角リント王国まで行って合法の子供奴隷を買い付けたのにガキが臭いから客が帰っちまったじゃねぇか!」

などと、奴隷商人から怒鳴られて、殴られていたそうで、その女性が、

「子供のオシメが匂うだけで帰るような客に売ってもあの子は幸せにならない…」

みたいな事を言い返して、更に酷い暴力を受けている現場をベルが見てしまい、バラッドさんの制止もむなしくベルの身体能力プラス、ダンジョンの宝箱から入手した跳ね鹿の腕輪により微妙に上昇した脚力から繰り出された助走つきのジャンピングキックにて奴隷商人をそれはそれは見事にキリモミ大回転させてしまったのだそうだ。

町の兵士が集まる中でバラッドさんの仲裁で逮捕は免れたが、相手方がどうやら保護者として僕を呼んでいるらしく、

『最近順調で忘れかけていたが、多分いつものヤツだ…人生が楽しく感じてくると、こうやって何かが起こる…余程前世での行いが悪かったのかな? う~ん、奴隷商人かぁ…フレーズだけでクソ親父がチラつくから嫌なんだけど…』

などと、少しウンザリしている僕に気がついたのか、ベルが、

『やっぱり…ダメな事しちゃったんだ…』

と思ったらしく、初めて涙目になり、

「ごめん…なさい…」

と、間違った事はしていないが、僕には迷惑な事をしてしまったことを謝るので、僕は、

「ベルは謝らなくて良いよ。 お兄ちゃんは奴隷商人ってのに少し嫌な思い出があるだけだから…虐められていた人を助けたベルは何も間違っていないよ…まぁ、いきなりキックしたのはちょっとアレだけど…」

と、やんわりと注意した後に優しく彼女の頭を撫でてから、

「あとはお兄ちゃんに任せとけ!」

と自分の胸をポンと叩いてみせ、リーグさんに、

「ちょっと話をつけに行きますからベルの事をお願いします」

と頼み、バラッドさんには、

「その奴隷商人の所まで案内をお願いします」

と言って、颯爽と歩き出したのではある。

しかし、僕はベル達が遠く見えなくなった辺りでバラッドさんに、

「で、どんな感じですか…相手方は…」

と恐々聞くと、バラッドさんは、

「向こうは軽く怪我をされていますし、ベル師匠がまだ10歳以下なので直接罪に問うよりも保護者から賠償金をせしめた方が金になると考えたみたいで…」

と、言いにくそうに教えてくれたのである。

僕は、青ざめながら、

「賠償金…ですか…幾らぐらいでしょう…」

と、バラッドさんに相場を聞こうとしたのだが、流石にバラッドさんもそんな事はご存じないらしく、僕は震えながら奴隷商人のテントへと向かった。

そして倒置した外町の露店通りの端にある大型のテントでは、包帯グルグル巻きの男が僕たちの前に現れ、

「おう、どうしてくれるんだ!?」

と、こんな傷では仕事にならないから仕事を休んでいる間の売り物の奴隷達の食品や損失分を払えと言っているのだが、あちらから「何日分」とか「幾ら」など具体的な事を全く言ってこないのである。

事前のバラッドさんからの話では「軽い怪我」と聞いており、

『あぁ、僕が成人したてのガキだと思って舐めてるな…』

と感じた通り、包帯男は、

「とりあえず今持っているだけ全部出しな…足りない分は後で請求する事にしてやるから…」

と、優しそうに言ってはいるが、

『絞れるだけ絞ろう…』

という安い魂胆が見え見えである。

『これは、面倒臭いヤツに絡まれたな…』

とウンザリしてしまう僕は同時に、

『ベルの行いはやっぱり正しかった』

と、ドロップキックも仕方なしという判定を下し、

『人生2周目を舐めるなよ…お兄ちゃん、動きます!』

と、心に決める。

しかし、それを顔には出さず、むしろ震えるような声色でマジックバックから、

「ダンジョン産の傷ポーションです…こちらはお見舞い代わりに…」

といってポーションを二本ばかり取り出して渡し、

「今は持ち合わせがあまりなく…」

お小遣いの残りの小金貨二枚と銀貨や銅貨の入った金袋をテーブルに置くと、包帯男は手下に、

「おい、袋を開けて俺様に見せろ」

と、偉そうな態度で命令し、どうやら金額的には、

『ガキにしちゃ…』

と納得だったのかニヤニヤしながら、

「まぁ、1日分の稼ぎにもならないが…今日の所はこれで我慢してやる」

などと言っていたのであった。