軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第56話 決断の午後

え~っと…今現在、大変面倒臭い事になっており、

『あ~、バラッドさんを見たいなんて考えるんじゃ無かった…』

と、たぶん僕は勿論、僕の両隣に座り『無』の表情で前にいる自分の現状を涙ながらに語るドワーフのオジサンを焦点の合っていない瞳で見つめている二人もきっと後悔をしている真っ最中である。

確かに鍛冶師ギルドの奥で書類と格闘していたのは、このギルドのマスターであるバラッドさんで間違え無かったのだが、彼は書類から解放される口実に僕たちとの面会に喜んで応じてくれたのである。

しかし、僕たちがタンカランからゴンザさんの伝言を預かってきた事を知ると、ゴンザさんへの恨み辛みが爆発してしまったご様子で彼の人生を聞かされているという流れである。

話によると、ゴンザさんも元はこのカルセルにて鍛冶屋を営んでおり、そこに弟子入りしたのがバラッドさんでらしい。

まぁ、そんなバラッドさんが歳も近かった師匠の娘のキミーさんと仲良くなり結婚し、彼の鍛冶師人生は順風満帆だと思われた矢先の事である。

ゴンザさんが町の鍛冶師の代表として鍛冶師ギルドマスターに職人達の満場一致で選ばれたのであるが、ギルドマスター就任から二年もせずに、

「鍛冶屋が毎日、毎日、紙とにらめっこなんて腕が鈍る!」

という理由からゴンザさんは町を出て行くと言い出し、工房から何から何まで全てバラッドさんとキミーさん夫婦に渡して旅に出たのだそうだ。

ドワーフ族であるバラッドさんは長生きである為にその時点でも町一番の鍛冶職人歴を持つ人物だったので、ゴンザさんの次のギルドマスターとしての椅子まで渡された形になってしまったらしく、慣れない仕事の不安や鍛冶仕事すら出来ない毎日で、全てを放り出した無責任な師匠への憤りなどが積もり、大好きだった筈の師匠の娘さんであるキミーさんとの関係にも溝が生まれ離婚となり、

「ワダジぶぁ…なんのだめにぃ、生ぎでるのかぁぁぁ」

とギャン泣きするオッサンを眺めるという現在に至っている。

『いや、知らんがな案件だよ…』

とは思うが、見ていて痛々しくもあり、僕は、

「バラッドさん…いきなり来た僕がするアドバイスなんて、聞き流してもらっても大丈夫なんですが、バラッドさんもゴンザさんみたいに自由にやりたいことをされては…」

と提案するとリーグさんも、

「長年組織に身を置くと辞めるよりも、続ける方が楽という考え方になりがちですが、辞めるという作業が一番の山場で後は人生が楽になりますよ」

と、アドバイスすると鍛冶師ギルドの女性職員さんが、

「お客様、ギルドマスターを唆さないで下さい!」

と怒るのである。

しかし、この苦行にもう我慢の限界を迎えたウチのベルちゃんが、

「おっちゃんが、やりたい事はコレ?」

と書類の束を指差しながら、

「ウチの父さんと母さんはいつも言ってたよ…好きな人と過ごせない人生なんて生きる意味がない、好きな事に命をかけれない人は生きてる価値が無いって…」

という、僕のハートも震えてしまいそうな物凄い名言を放ち、バラッドさんは、

「もう、辞めるぅぅうぅわぁぁぁん」

という泣き声を響かせる結果となったのであった。

『バラッドさんは余程ストレスが溜まっていたのであろう…』

と、初見の人間にも分かる程に、彼は丸投げして消えた師匠への恨みや、残された弟子としての責任感など様々な事を背負込んでいたらしく、

『辞める!』

という決断を決めてからは、バラッドさんは清々しい笑顔で、なぜかこの決断への最後の一押しをしてくれたベルを、

「師匠!」

と呼び始めた彼は、

「残された書類と次のギルドマスターへの引き継ぎは、あのいい加減なクソ師匠とは違う所を見せたいからきっちりするが、私は普通の鍛冶師に戻るからなっ!」

と宣言してしまい、その日の鍛冶師ギルドは大騒ぎとなり、

「もう、帰った方がいいよね…」

と僕たち三人の意見は一致して、その場から離脱し宿屋に戻ったのであった。

その翌日も宿屋近くの鍛冶師ギルドは朝からバタバタと人が出入りしており、

「なんだか落ち着かないし、外町の市場でも見に行こうか…馬車とかも売ってたみたいだし」

と、軽い罪の意識から宿屋からも鍛冶師ギルドからも遠ざかりたくなり外町に並ぶ市場を冷やかしに向う事になった。

このカルセルの外町には特に決まった区画がある訳ではなく、何となくで固まった露店では作物などをはじめ、手作りのアクセサリーや民芸品に陶器など、また大型のテントでは家具や馬車、果ては家畜や従魔用の魔物まで扱っていたのである。

「これは何でも揃うって言われてるだけはあるな…」

と僕が感心していると、従魔商人のテントでリーグさんが、

「鮮明に声が聞こえます…」

と、久々となるテイマーギフトとの波長がガッチリ合う魔物が居たらしく、従魔商人さんが、

「いらっしゃいませ、テイマーギフトが無くても、当方の隷属紋にて確実に飼い慣らせますので、大陸の南から来た珍獣の数々を…」

などと言っているのも聞かずにリーグさんはその声の方へと導かれる様に進み、

「旦那様、コイツの声が…」

と教えてくれたのは真っ黒い翼の大型のカラス魔物であるコルボザの入った籠であった。

従魔商人さんが、

「旅の途中でたまたま拾ったコルボザの子供を気まぐれで育てただけでして…奥にはイエローパンサーなんかも…」

などと、言っているのも聞こえてない様子のリーグさんは、

「コイツ、まだ空を飛んだ事が無いそうで、【飛んでみたいよぅ】って…」

と目の前のカラス魔物から聞こえる心の声を僕に必死に教えてくれているのであるが、僕にはコルボザ自身の声で、

「おはよー、ご飯だよぉ~」

と、従魔商人の厳つい顔のオジサンの声まねをしているコルボザ君しか見えないのであるが、とりあえず、

『この店主は案外優しいのだけは分かった…』

という安心要素が追加され、この店でこのコルボザと馬車用の馬魔物を購入する事にしたのである。

テイマースキルが無くても隷属紋なる印を魔物の体に刻めば飼い主の指示に逆らえば奴隷紋から痛みなどの罰を与えて、魔物をしつけ易くするという物があるらしいが、リーグさんには必要の無い物であり、コルボザは即日お渡ししてもらい、リーグさんが選んだ二頭の馬魔物は手付け金を払い、滞在中に預けられる牧場が見つかり次第に引き取る契約をしたのであった。

ベルもリーグさんが選んだ馬魔物の一頭を酷く気に入り、勝手に、

「ブチ模様が可愛いねぇ、ブドウパン!」

と名前を付けてしまっていたのである。

しかし、これにはリーグさんも、

「確かにブドウパンだ…」

と納得の名前をもらったメス馬と、そのメス馬と仲良しそうな黒いオス馬には「コゲパン」なる少し可愛そうな名前をベルから授かっていたのであるが、リーグさんは、

「本人達は喜んでいるみたいですから…」

と、なんとなく波長が合い、気持ちが分かる為に、名前に関しては概ね喜んでいるらしい事は分かったのだった。

『便利な能力…』

と、改めてリーグさんのギフトに感心しながらも、

『手付け金で財布の中身は空っぽに近いし、馬車本体もだけど、スパイスやなんかを見て回るのは明日だな…』

と、中町へ戻り、僕は商業ギルドへと口座からお金を引き出しに向う事にし、リーグさんとベルは早速この外町の広場にてコルボザに正式に命名してギフトによるテイムを行ってから空を飛ぶ為の訓練を始めるらしく、

『あぁ、ずっと籠で育ったから羽ばたく筋力から鍛え直しなんだ…』

と納得した僕は、

「先に中町に戻るから、宿屋の親父さんに従魔が増えた事を伝えておくね…多分鳥籠もセットでもらったから大丈夫だろうけど部屋とか移動する事になったらやっとくよ…」

と伝えて中町へと戻り、ギルドが並ぶ大通りに差し掛かると、まだ鍛冶師ギルドではバタバタが続いているのが見え、近くに居た町の人たちまで、

「なんか、ギルドマスターが辞めちまうらしいぜ…」

とか、

「仕方ないよ…師匠の後を無理やり引き継いで四十年以上頑張ってくれたんだから…」

などと口々に噂をしている程であった。

『なんか、今回の件は僕たちにも罪悪感があるし、バラッドさんは師匠のゴンザさんに一言いってやりたいらしいからタンカランまで一緒に行ってあげるか…馬車も買う予定だし乗せてあげよう』

とは思うが、面倒くさそうな鍛冶師ギルドには近づかない様に手前の商人ギルドにスッと入店する僕であった。