軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第52話 グラーナ名人会

タンカランの村を出た定期馬車は、翌日の昼前にマーチンの町に到着し、僕たちは無事に冒険者ギルドにてゴーレムコアを納品出来たので、一緒に町まで来たゴンザさんにその場で、

「これで足りますか?」

と大金貨十枚を装備の代金として預けたのであるが、ゴンザさんは、

「えっ…本気か?…」

と、納入品報酬が入るとは聞いていたが、流石にこんな大金とは知らなかったらしく、

「ドワーフ族の秘術である魔物素材を練り込んだ魔合金の装備を作っても良いか?」

と聞いてきた。

わざわざ聞くという事は最初の予定より高価な品になる予定なのだろうが、僕は、

『ニルバ王国にゴーレムコアの需要が有る限り当面は収入の心配はなさそうだから…』

という余裕もあり、

「バーンと全部使うつもりでヤりたい様に作って下さい」

と伝えると、マーチンの冒険者ギルドマスターが、

「おいおい、本当にDランク冒険者か? いや、今回の納品は国からの依頼だから私の権限でCランクに昇格させるけど…Cランクだったとしてもドワーフの職人が作る魔合金のオーダーメイド装備なんて…」

と驚く程にどうやら凄い事らしいのである。

冒険者としては、Bランクでようやく一人前として見られ、そこから高い壁の先に一流と呼ばれるAランクがあるらしい。

まぁ、Cランクというのは、ポイントに関係なくギルドマスター権限で昇格させられる最高ランクとはいえギフトの差など関係なく、ほとんどの冒険者が真面目に何年か小さな依頼をこなしていても到達出来るというランクである為に、

「でも、それならCランクに成りたての僕みたいなヤツがそんな凄い装備をつけてたら、怖い先輩冒険者に絡まれないかな…」

とビビっている僕に冒険者ギルドマスターは、

「まともな冒険者ならランクが低いのに、良い装備の若者は、【貴族絡みだ…】って察知して絡まないだろうし、それでも絡んでくるバカなら力で分からせてやんな…」

と、雑なアドバイスをくれた。

僕はその、

『絡んできたのがBランクとかならどうすんの…勝てないよ…たぶん』

と感じる全く参考にならないアドバイスに、愛想笑いを添えて、

「参考にします…」

とだけ伝えて、納品手続きを終えた。

そして一旦冒険者ギルド前で、素材の買い物に行こうと、やる気満々で興奮気味のゴンザさんと別れ、僕たちは冒険者ギルドの近くの錬金ギルドに向かい、ベルが気にしていたリーグさんの分のマジックバックを購入する。

店に並ぶ新品のマジックバッグは色とりどりで、僕としては、

『おっ、そんな色のマジックバックも有ったんだ』

とか

『これって染めてあるのかな…それにしても何の皮だろう?』

などと中古のマジックバッグを物々交換した身としては、少し羨ましく思いつつ、ベルと二人で似合いそうなマジックバッグを探すリーグさんを眺めている。

しばらくすると、どうやら気に入った品が見つかった様で、黒くて丈夫そうなカバンを選んだリーグさんが、

「ベルちゃん…ありがとう」

と、ゴールドアントの買い取りで手にしたお金でこのカバンを買ってくれたベルに感謝を伝え、彼女も、

「うん、似合ってる」

と満足しているのを僕も「うん、うん…」と頷きながら、

『確かに似合ってるな…次は中古じゃなくて新品のやつでも良いかな?素材や色の違いでこんなに雰囲気が違うのか…』

などとお洒落について考えていると、錬金ギルドのショップにて買い物中の僕たちの前に去年このマーチンの町で見た事のある男性が現れ、

『誰だったっけ…』

と記憶を辿ろうとした僕を見つめて、

「本当に、竿師殿だ!」

と言った瞬間に、

『あぁ、グラーナ狩りベテランチームの鍛冶屋の親方か…』

と思い出しのであるが、息を切らせ気味で錬金術ギルドのショップに入って来た親方は、

「さっき鍛冶師ギルドでよぉ、タンカランにいる師匠を見かけて話してみたらジョンって冒険者の装備を作るって言ってて、名前が一緒だから『まさか!?』と思って背格好を聞いたらどうやら竿師殿で間違えないって事で…」

と確認の為に飛んできたらしく、僕が、

「へぇ~、ゴンザさんって師匠さんだったんだ…」

と驚いているのは完全にスルー状態の、親方さんは、

「いざ自分で作ってみて、少し改良してみた新型のグラーナ竿についての意見を聞きたかったんだよ竿師殿!」

と言うと、レジの前にいる僕の肩をグイッと抱き寄せ、

「今年も来てくれて良かったぜ! 冒険者ギルドに問い合わせるにも名前しか分からないから、やれランクだのパーティーに所属しているかなんて聞かれてもよぉ…商会長の奴なんて報酬を出して冒険者ギルドに人探しの依頼を出そうとしてたんだぜぇ」

などと、笑いながら数回抱いたままの僕の肩をバッシン、バッシンと楽しげに叩き、

「では…」

というと、肩口の手を腰辺りに移動させ、僕をヒョイと持ち上げ、

「悪いが竿師殿を借りるぜ」

とベル達に言ったが早いか、既に店の外へと向かい移動を開始し、何処かに僕を連行しようとする。

これは逃げられないと悟った僕は、慌てて、

「ベル、リーグさんにケント君ママの屋台とか案内してあげて…集合はいつもの宿やね。 お兄ちゃん、ちょっと竿師の仕事が入ったみたい…」

と、二人に後程宿屋で合流するように伝えて、一旦大人しくドナドナされる事にしたのである。

どうやら親方は、僕に話したい事が山の様に有ったらしく、

「それで、竿師殿ぉ…」

「でね…竿師殿ぉ…」

と、大通りを鼻息も荒く必死に語りかけながらも僕が逃げない様にかしっかりと小脇に抱えて、力任せに僕をエスコートしている。

『いや町中で興奮したオッサンに「竿師」なんて呼ばれながら抱えられて運ばれていたら、町の方々に変な噂が立ちそうだし、下手をすると兵士の方々に職務質問とかされそう…』

と焦った僕は、

「何処に行くか言ってくれたら場所は分かりますからっ!」

と自分で歩ける事を必死に親方に伝えると、彼はハッと立ち止まり、

「痛かったか! オレ…興奮しちまって…スマン、強引だった。 でもよ、また会えて…その…嬉しくて…」

と、道の真ん中で頭を下げたのであるが、僕としては、

『止めて下さい! なんか訳アリな関係みたいに聞こえる言葉をチョイスしないで…』

と願うが、道の真ん中でオッサンが青年に頭を下げながら、

【興奮して強引に痛い事をした事を謝罪する】

という行為が逆に注目を呼んでしまい、

「あら…まぁ…」

と、数名の井戸端会議中の奥様達に見られ、何やらヒソヒソとされた後に、

『いいのよ…それも愛…』

みたいな生暖かい視線を送られたのである。

確かに、台詞だけ聞いたら関係を持った後の痴話喧嘩に聞こえなくもないが、

『だったらワザワザ道の真ん中でそんな話をしないでしょ…普通!』

と泣きそうになる僕は、

『とりあえずグラーナで稼がなくてもゴーレムコアで当面は大丈夫そうだからタンカランダンジョンを攻略してもマーチンの町には近づかないでおこうかな…絶対に今ので親方との関係について奥様連絡網で間違った噂が広がりそうだ…』

と決心したのであった。

その後、傷心のまま僕はグラーナ狩りのベテランチームの集まりに参加させられ、

『この冬に作った販売用の竿の報告』

やら、

『今シーズンで実際に使って調整する予定の試作の疑似餌』

などに加えて、僕を連れてきた親方の自信作という新型のリールの試作品などを見せられて感想を求められてしまったのである。

しかし、好きこそ物の上手なれとは良く言ったもので、一年も経たずに改良を施すまで竿やリールを研究し、グラーナが狙う虫魔物に似せた疑似餌もその虫魔物が活発になるシーズンに合わせて何種類も作り、

「去年までは水際でバシャバシャと音を鳴らして興奮状態にさせる疑似餌が主流だったのですが、沖のグラーナにアピールさせて岸に寄せる為に虫魔物の体液を含ませるべく布をベースに…」

と熱く語る程になり、メンバー全員が、

『試作品で1日で狩れるグラーナの数を更新し、次の年には更に改良した試作品で他のグラーナ狙いの人達に差をつけたい!』

という野心に燃えているのである。

『朝から昼までの間に狩れたグラーナの数こそが自慢のこの町に住んでいる趣味がグラーナ狩りのオッサン達にとって、新型の竿とはこれ程までの商品になるとは…』

と感心と同時に怖くなる僕に、商会の会長さんであるグラーナ狩りのベテラン…いや、昨年のシーズンの終わりには全員名人の域にまで達した【グラーナ名人会】の方が、

「これは、私が預かっていたジョンさんの分です…」

と言って小さな皮袋を差し出すと中には小金貨をはじめとして銀貨や銅貨が入っており、僕が、

「いや、受け取れません!」

と返そうとするのだが、名人会のメンバーは、

「竿の販売の利益分だから…」

というのだ。

しかし、

『頑張って稼いだ人の上前をかすめとるのが嫌だから』

と、特許までこの町に限り無料にした意味がなくなってしまうので、

「あっ、そうだった!」

と、とあるアイデアが浮かんだ僕は、

「実はこの町に住んでいたバルザックさんという錬金術師さんの友達というのが、僕の師匠であるエルバートという錬金術師なんですけど、去年僕がたまたま中古品店で手に入れたバルザックさんの研究資料の最後ページに【我が友に…】という一文通りにしました所、研究を引き継いで完成させた師匠が今、王都へと呼ばれておりまして…」

と説明したのちに、

「バルザックさんのお墓に年に一回ぐらいお花を…」

と頼み、

「それ以外のお金は竿や疑似餌の研究資金としてストックするなりなんなりして下さい。 僕はお金が欲しくて皆さんに竿の技術を託したのでは…僕が持っていない華麗なテクニックでグラーナ狩りの記録を…グスン…」

と一芝居を絡めつつお願いしたのである。

しかし、この僕の小芝居が、なぜか名人会のメンバーの方々に刺さったらしく、

「わかったぜ…ズズッ…竿師ジョンからの頼みだ…墓の事も、竿の事も、最高記録だって俺たちに任せな…ズズッ」

と涙ながらに約束をしてくれたのであった。