軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第31話 イライラの理由

撥水加工のシートをロープで生えている木などに固定するだけの簡易的な屋根だけのテントが出来上がる。

星空の下で野宿をして過ごした事を思えば屋根があるだけで雨は避けられ安心感が増すので十分である。

そんなテントにて僕とベルはマーチンの町の側の湖を見下ろす道の脇の広場を拠点として、カサールの冒険者ギルドマスターから教えてもらったグラーナ狩りの秘密道具をナイフを片手に木の枝とロープにそこら辺の草などを使い作り始める。

それはグラーナ釣り用の竿である。

グラーナというカエル魔物は、今から夜にかけては比較的自由に湖の周りで「ぼぇ~」と声の大きさでメスのグラーナにアピールし、カップルが成立すると、湖周辺のカエル密度の高いエリアから少し離れた静かな草むらエリアまで二匹で移動し、

「クケ、クケケ」

と、先ほどまでとは違った声で鳴きながらイチャコラしつつ朝を迎えるらしく、夕暮れ前の今でさえこれから本格的に始まるオスの求愛リサイタルに向け発声練習中のカエル声だけで十分うるさいのであるが、

『今夜はこのグラーナのナンパ声に加えて近くの草むらからはグラーナのイチャイチャ声まで聴きながら眠る事になるのか…』

と今からウンザリしまう。

そして、一夜限りの愛の結晶としてメスは湖の中で産卵し、オスは腹ごしらえに虫魔物などをつまみ食いしながら湖のほとりのナンパエリアにて今夜のナンパに備える暮らしをしているというチャラいグラーナなのだが、日の出と共に町の入り口の扉が開門されるとマーチンの町からのグラーナ狩りチームが現れ、軽く狩りを始めるとグラーナ達は湖の中へと避難してしまう。

朝一のみ湖の周りで軽くグラーナを狩って帰る者も居るが、グラーナ狩りの本番はここから昼頃までらしい。

今作っている釣り竿にてグラーナひしめく湖へと、落ちた虫魔物を演出し水面に草で作った疑似餌を投入すると、興奮したグラーナ達が追いかけて来て、先頭集団が後方のグラーナ達に押し出されて水から上がって来た所を狙って狩るというのがこのグラーナ狩りの醍醐味らしいのだ。

竿さばきにより狩りの成果が大きく変わる為にマーチンの町では名人みたいな人が必ず居るらしいので、ギルドマスターからも、

「上手いヤツの技を見て盗め」

などと言っていたのであるが、今は夕方近い時間で既に狩った獲物を冒険者ギルドに提出している時間であるらしく、マーチンの町の門がもうすぐ閉まるのに狩りのシーズンも長く獲物も沢山居るという湖の周辺にわざわざグラーナ狩りの為に野宿している物好きは僕たちだけの様である。

だが夜が近づくにつれ、あれだけ興奮していたベルでさえ、

「も~、うるさいよぉ~」

と、既に野宿に不安を覚えている様子であるのだが、僕が、

「まだ門が開いている時間だし、さっきテントで着替えたから宿にでも泊まれるよ」

と提案しても、それはそれで彼女的に負けた気がするらしく、

「やだ、グラーナでカゴいっぱいにするまでは町に入らない!」

などと意地になっているのである。

仕方ないので僕は、

「じゃあ、明日は日の出で町の人達がグラーナ狩りに来る前に早起きして陸のグラーナをチャチャッと倒すから今日は残りのパンを食べきって早めに寝るよ」

と提案し、ベルも賛成してくれたのであるが…その日の夜…

「お兄ちゃん…眠れない…」

と、ぼやくベルの隣でカサールのギャンさんの店で修復した魔石ランプの灯りの下で生活魔道具の教本を読みふけっていた僕は、

「ごめん、ごめん…眩しかったか」

と謝るのであるが、ベルは、

「違うよ、うるさいの!」

とテントの外の草むらを指差している。

確かに周辺からは、

「クケ、クケケ…」

という切ないイチャイチャ声がこだまし、ガサガサと草を揺らしながら出会って即で営んでいるであろうグラーナ達が僕が本に集中している間にも増え続けていた様で、彼女はイライラしながら、

「あっちでガサガサ、こっちでガサガサ…ってモウ!」

と叫ぶのだが、湖からは相変わらず、

「ぼぇ~、ぼぇ~」

と何とも言えないオスのグラーナのアピールボイスの大合唱が続き、近場のグラーナのカップルは、現在、それどころではないクライマックスに向かいガサガサしている最中の為に、ベルの叫びは闇夜に消えただけで、一匹たりとも声を潜めたり、動きを止めるグラーナはいない。

しかし、自分の怒りを帯びた叫びが無視された事にブチ切れたベルは、自分の魔石ランプと使いなれたメイスを握りしめ、フラフラと簡易テントから出て行ったかと思うと、近くの草むら辺りから、

「ウルサイ!」

という彼女の怒声と共に、

「ドゴッ」

という鈍い音が響く、するとベルの位置を示す魔石ランプの光がフラ~っと横移動したかと思うと、再び、

「ウルサイ!!」

という怒声のあと、

「ドゴッ、ドゴッ!」

と…どうやらベルは眠れない程の騒音にブチキレたらしく周辺の草むらで愛を語らうグラーナカップルを狙い、

『近場のリア充だけでも…』

と、撲殺しながら練り歩いている。

まぁ、グラーナからしたらかなりのホラー展開を僕は、

『明日の朝に周りのグラーナの死体を集めただけでカゴは満タンになりそうだな…』

と、折角作ったグラーナ用の釣り竿をチラっと見て、

『こりゃ、朝イチで町に入って冒険者ギルドにグラーナを提出したら宿屋に行って一眠りするだろうから必要無かったな…』

と、呆れながらも、ベルの怒りの襲撃が終わるのを唯々眺めるしかなかったのであった。

そして翌朝…僕はベルに撲殺されている周辺のグラーナのカップルを回収しながら、

「どうすんのベルちゃん…こんなにグラーナを倒して…カゴに無理して詰め込んでも4匹が限度ですけど…」

と呆れて彼女に聞くと、ベルは、テント側まで僕が運んだグラーナをダンジョンで手に入れた魔鉱鉄のナイフでサクッ…サクッ…と無言のまま解体して価値のある足肉と皮と魔石だけを回収し、残りの胴体等は朝方にイライラついでにスコップで掘った穴へと鬼の形相でブチ込んでいる。

『お~、怖っ…寝不足はベルをあそこまで追い込むんだな…僕より強くて忘れてたが彼女はまだ子供だもんな…徹夜なんて慣れてないから癇癪も起こすよね…』

などと思いながら、ベルの襲撃により色んな意味で昇天したカエル魔物を引きずりながらテント前に積み上げている。

すると、どうやらマーチンの町の門が開いたらしくグラーナ目当ての方々が釣り竿と武器を乗せた手押し車をゴロゴロと押しながら現れ、湖へと下る道の脇にテントを張っていた僕たちを見て、

「おっ、兄ちゃん達、なかなか気合いが入ってるね…グラーナの夜狩りなんてオジサン久しぶりに見たよ」

などと感心しながらも、

「まぁ、竿さばきが下手なら夜狩りって手も悪くは無いが、グラーナ狩りは、竿さばきを極めてこそだぜ」

などと、鼻で笑って湖まで下って行くのだ。

どうやらイチャイチャ中のグラーナを殺して回るというこの殺り方は「夜狩り」と呼ばれているらしく、マーチンの町のグラーナ狙いの方々には、

『成果は上がるがスマートではない手段』

という認識らしく、

「こんなに倒したのか?」

と感心しながらもどことなく、

『まぁ、夜狩りだからなぁ…』

と、下に見る雰囲気が感じとれ、それが寝不足でイライラしているベルを更にイライラさせたらしく、無言で解体しているのかと思えば、最後らしいグラーナを回収してテントまで戻り彼女の隣に積み上げていると、

「グラーナもオッサンもウルサイ…」

と彼女は小声でブツブツ言いながらグラーナの腹をナイフで切り刻み魔石を取り出していたのであった。

『ヤバい…ベルを先ず眠らせねば!』

と、終いにゃオッサンも解体しそうなベルのギリギリの状態に焦りながらも、山積みになっているグラーナの肉や皮に、

『どうやって運ぶ?』

などと僕が思っていると、一人の男の子が体に似合わぬ大きめの手押し車をゴロゴロと押しながら現れ、不思議そうに僕たちを見た後に、

「お兄さんたち手押し車も無しでそれを町まで持って帰れるの?」

と声をかけて来たので、ブツブツ言っているベルは一旦そのままにして、僕は、

「いや、思いの外狩れてしまってね…困っているところなんだ」

などというと、彼の瞳がキラリと光ったかと思うと、

「俺っちが運ぶの手伝ってあげるからそのグラーナの足肉を五匹分くれないかい?」

と提案してくるのである。

『いや、有難い話ではあるが…大きめの空の手押し車を1人で押して来たのも大変そうだったのに…大丈夫?』

などと僕が疑問に思っていると男の子は、

「あ~、ゴメンよ…知らない顔だったから少し吹っ掛けちまったよ…三匹分で十分だから頼むよ」

などと、どうやら運び賃をぼったくるつもりだったらしいのだ。

「いや、そこが問題じゃなくて…」

と思わず言ってしたが、この悪い子なのか正直な子なのか解らないが、何だか憎めない彼の『しまった…』と照れたような笑顔を見た僕は、

「五匹分で良いから今すぐ頼むよ…」

とお願いすると、彼は、

「本当に! やったぁー!!」

と大喜びで手押し車にグラーナの素材や、まだ解体前の撲殺グラーナ達を積み込み始め、僕はベルに、

「テントを回収して町に行くよ…冒険者ギルドで買い取りに出す前に宿を取るから…先に寝な…」

と伝えると、彼女は、

「うん…」

とだけ答えて、水袋の水でナイフと手を洗い、無言のまま荷物をまとめ始めたのであった。