作品タイトル不明
第23話 運の使いどころ
ビックスライムにベルのおかげで何とか勝てた僕たちは、いよいよお待ちかねの宝箱チェックとなったのである。
宝箱を前にベルが、
「お兄ちゃん、開けたい。 ボクが開けていい?」
とピョンピョン跳ねながら興奮していたので僕は、
「ベルが頑張ってくれて勝てたんだから勿論いいよ」
と開封をベルに任せるのだが、ベルがウキウキで宝箱を開けた途端に、
「あ~、ハズレだ…冒険者ギルドのお兄さんが【魔鉱鉄のナイフ】は結構出るよって言ってたのに…」
と彼女は目当てのご褒美では無かった様でガッカリしているのである。
僕は落胆したベルの肩をポンポンと叩いて慰め、
「まぁ、貰えただけ有難いから…そっか…ベルは魔鉱鉄のナイフ狙いだったんだね…」
と言いながら、
「どれどれ…」
と宝箱を覗き込むとそこには腕輪が入っていたのであった。
僕はダンジョン入り口の冒険者ギルドカウンターにて見せてもらったこのダンジョンの宝箱リストを思い出してみたが、指輪や腕輪はレアアイテムしか無かったはずである。
僕は、
「いや、ベル…これ大当たりじゃないかな?」
というが、ベルは、
「お母さんが、キラキラした指輪や腕輪は好きな男性から貰わないとそんなモノは何の価値も無いって言ってたから…」
と、全く興味が無い様子である。
『なんともカッコいい台詞だ…ベルが男の子っぽいのは教育方針かと思っていたが…もしかしたら、ベルのお母さんの1本筋の通った考え方が影響しているのかも…』
と関心しつつも、僕が腕輪を手に、
「ならこれは売っちゃう感じでいい?」
と聞くとベルは急に、
「あぁ!」
と大きな声を出したのである。
僕はその声に驚きながら、
「やっぱり欲しいのならベルが装備するかい?」
と腕輪を差し出すのだが、ベルは、
「そんなの要らないよぉ…見てよ、お兄ちゃん…」
と、運良く手に入ったレアアイテムを「そんなの」呼ばわりし、シャツの裾をピンと引っ張って僕に見せると、アシッドスライム程ではないがビックスライムの飛ばした粘液や体から飛び散った粘液も服を溶かしたり、厚手のズボンの色を部分的に抜いてしまう効果があったらしく、前に出てメイスで殴打していたベルの服は今日1日で残念な見た目になってしまったのである。
こうなるとウチのメインアタッカー的なベルのヤル気スイッチは完全にオフになり、とてもボス周回なんて出来る感じではなく、
「ベル…一回帰る?」
と、聞くと彼女は、
「うん…」
とだけ言って、二人での鉄鉱石を半分ずつ麻袋に分けて担ぎ、地上へ戻ったのであった。
四階層の採掘ポイントが復活する前だったので追加の採掘もせず。
鬼門の三階層もダッシュで通り抜けて、登り階段で毒消しポーションを僕だけ服用してからのんびり帰還し、地上の冒険者ギルドのカウンターにて、
「これが四階層の採掘分で、スライムの粒魔石がこれですね」
などと僕が成果を全て並べている隣ではベルもカバンをゴソゴソして、
「これが、大きいスライムの魔石で、これが二階で摘んだ毒消し草ですけど、ちょっと使っちゃいました」
と言ったのを聞いた職員のお兄さんは、
「やはり三階層のポイズンスライムが厄介でしたか…」
と、毒を食らったのを中和するのに使ったと思ってくれたというのに、正直者のベルちゃんは、
「ううん…違って、お尻を拭きました」
と発表してしまい、僕が、
「ちょっ…ベル…」
と、それ以上の不要な発表をひかえて欲しくて慌てていると、職員のお兄さんは笑いながら、
「あれってチクチクしますよね…」
とウチのベルちゃんと、拭き心地の話題で盛り上がっていたのである。
ギルドの職員のお兄さんから、
「あれはね実はコツがあって、葉っぱの表面と表面を重ねて軽く擦り合わせてから使うのがチクチクが減ってオススメですよ」
などと今後使うかどうかも怪しい豆知識を手に入れた後に、成果をチェックし始めた職員のお兄さんは、
「なかなかの量ですね鉄鉱石…時間的に二回は採掘って…できました?」
と聞くので、僕が、
「四階層のポイントを回って採掘した一回分ですよ」
と言い、ベルもコクリと頷くと、職員のお兄さんは、
「二回分程の量ですよ…もしかしたらダンジョンが少し変化しているのかも…これは調査対象ですね…」
などと言い出し、次にボスの初討伐宝箱から出た腕輪を見せると彼は、
「えぇっ、祝福の腕輪じゃないですか!」
と驚き、なにやらカウンターの向こうでガサガサと資料を探しはじめ、
「2ヶ月程前にこのダンジョンを踏破した事の無いソロでビックスライムも倒せる冒険者を集めてこの腕輪と魔力回復の指輪を手に入れようとした貴族の方が居まして…」
と、言いながら分厚いファイルを取り出して開ると、
「その時に、魔力回復の指輪は出ましたが腕輪だけは出ずに、納品依頼が出てましたが…あっこれだ!」
と出してくれた依頼書には、
【娘が王都の学校に行く夏までにどうしても祝福の腕輪をプレゼントしたい】
という内容が書かれており、職員のお兄さんは、
「ここに来るほとんどの方が、この腕輪か魔力回復の指輪狙いでして…他のダンジョンでも出るには出ますが、狙って出るのはここぐらいですけど、それを他人に譲ろうって方は居ないので…何回か催促の手紙が来ましたが…」
とウンザリした様に依頼書をツンツンしていたのである。
なんとか読めるようになったニルバ王国文字で書かれている依頼書を眺めながら僕が、
「良いですよ、納品で…」
と、言うとお兄さんは、
「そうですよね…こんな納品依頼を受けてなんて…ん?」
とファイルを片付けようとしている動きが止まり、
「今、なんて?」
と聞くので、ベルも、
「はい、どうぞ…」
と、別に欲しくない腕輪をグッとカウンターの向こう側の職員のお兄さんへと押し込む。
すると職員のお兄さんは、
「えっ、本当に?」
と再度確認をし、僕たちが、
「どうぞ」
と言うとお兄さんは、
「ありがとう…お貴族様から直々に催促の手紙やら、本部からの圧が凄くて禿げそうだったよ…オレは既にここのビックスライムを倒した事が有るから自前でチャレンジして納品も無理だし、正直、いくらお貴族様からの依頼でも納品してくれる冒険者が居るわけ無いと思ってたよ…」
などと言いながらも何やら書類を用意してくれ、
「どうしよう…どうしよう?」
などとテンパりながらも、
「まずは鉄鉱石の買い取りと、調査依頼という形で採掘量が変化した報告を…これの報酬は確認後でいい?」
と聞き、僕たちの返事を聞いてるのか、聞いていないのか分からないテンポで、
「じゃあ、そうして…魔石は買取金額がコレだし…毒消し草はどうします?」
などと作業を続けてくれた。
さて、手続きはギルド職員のお兄さんに任せておけば良いのだが、問題はこの祝福の腕輪なのである。
かなり興奮気味のお兄さんが作業の合間にブツブツと語ってくれた話では、依頼を出していた貴族というのが、カサールの代官である男爵様で、依頼の品はお孫さんへのプレゼントらしいのだ。
そして、そのお孫さんというのが、嫁に出した娘さんの子供で、まぁ、悪い事にその旦那というのが、どうやら僕が壁を直していた町の新たな代官だというのである。
その代官になる騎士爵の方は、占領される町と運命を共にしたあの町の前の代官様の息子だと知り、
『ここでもクソ親父が迷惑をかけた町の関係者か…』
と、運命というかクソ親父のした事の罪深さを恨んでしまう。
この冒険者ギルドに届いた催促の手紙の内容からの情報らしいが、依頼者がいかにこの腕輪が必要かも知ってしまい、依頼した方の関係者も、僕が微妙にお金を貰うに貰いにくいメンバーであることも判明してしまった為に、
「これって、カサール男爵様にベルの家を襲った盗賊の調査と討伐をお願いする為に、この腕輪はプレゼントしたら駄目かな?」
とベルに相談すると、彼女は、
「うん、それが良い!」
と賛成してくれたので、職員のお兄さんにベルの集落を襲った盗賊の話をして、その調査と盗賊の討伐を依頼報酬として腕輪を納品する旨を伝えると、お兄さんは、
「今でも大金貨1枚の依頼なのに?」
と、孫が入学する夏が近づき更に吊り上がっている依頼料を小金貨数枚で済む事でチャラにするのは勿体ないというのであるが、地域的にも盗賊が居た場合に討伐に向かうのはカサール男爵か、娘さんの旦那さんの管轄である。
なので、腕輪1つでベルの親の仇を
【欲しかった物の対価として約束した事】
として、貴族のプライドからしっかりと討ち取ってくれる方がお値段以上の効果が有ると考え、
「男爵様にはくれぐれも盗賊の件をよろしくお願いしますとだけお伝え下さい」
とだけ伝えて、魔石と鉄鉱石の買い取り代金で、
「ベル、ここのギルド宿は商業ギルドと冒険者ギルドの共同経営だから冒険者じゃなくても泊まれるらしいから…」
と、忙しそうなお兄さんに後を任せて、ベルと二人で今回の稼ぎでギルドの酒場でご飯を食べてから今日はベッドで眠る事にしたのであった。