作品タイトル不明
第137話 お前が犯人か
クリスト様とゼルエルガさんが率いるカサール建設の方々と一緒にコーチャー王国の各集落を守る石壁を作る為にカルセルから南下している。
結婚祝いとしてプレゼントしたマジックバッグに収まったカサール建設の建設用ゴーレムの分は馬車の数は少なくなり、身動きとしては軽くはなったが、まだ建設用ゴーレムは3体と付属の装備などがあり、それらを運ぶ大型の荷馬車の移動速度がどうしても遅い為に、
『ダメだ、我慢出来ない!』
とカルセルを出て2日目にして、クリスト様に、
「僕の持っているマジックバッグの中で大容量のヤツを提供しますから!」
と言って、手持ちの使っていない容量の少なめなマジックバッグに大容量で便利だったマジックバッグの中身を移し替え、
「移動の時はコレにゴーレムを収納して下さい」
と差し出したのであった。
『コーチャーまでの道中で色々な食材を買う予定だったけど、今回は我慢しよう』
と自分に言い聞かせ、何故かお土産用に用意していた時間停止機能付きの複数のマジックバッグに詰め込まれる事になった未だに修復されていない魔鉱鉄の装備を見ながら、僕は
「ギャンさんの店の為に持ち帰ってきたけど、こうなると邪魔だな」
と呟きながら、だいたい馬車三台分の荷物が入るマジックバッグ3個程で済んでいたのが、馬車一台分しか入らないマジックバッグに移し替えた為に10個程のマジックバッグの量になってしまい、地味に我が家の幌馬車の荷台を圧迫しているのを、
『出発前に気が付けば要らない物をカルセルの町に置いてこれたのに』
などと悔やみつつも、
『でも、移動時間が短縮するなら仕方ない!』
と、僕の青春を無駄にしたくない為に割りきり、身軽になったカサール建設の馬車の列に続きコーチャーへと向かったのであった。
道中で僕は、
『マジックバッグ2つはクリスト様にプレゼントしたけど、後の3つはレンタルのつもりだったんだけど、でも帰りもゴーレムを入れて帰るだろうし、この後の工事依頼にもマジックバッグは必要だろうし、なんか返してとは言えないよなぁ』
などと勢いで渡したマジックバッグの今後について悶々と、
『でもお金が無いから披露宴を出来なかったと言っていたクリスト様に、工事代金も入るからと3つ分のマジックバッグの買い取りをお願いするのも人としてどうなんだろう?』
と考えた結果、
『これは、色々とお世話になってる手前、返せとも、買ってくれとも言えないな…やっぱり』
という結論に至り、あのマジックバッグの事は諦める事にしたのであった。
ハッキリ言ってマジックバッグ3つという金額的に大損の旅になったのであるが、約一年ぶりにコーチャーに向かう理由が僕にはある。
それは リィース(お米) の件だ。
生産をお願いして様子を見に行かないというのも感じが悪いし、ワグナへと旅に出ていた為に今年の米の収穫量などについて聞いてなかったのもあり、
『カイン様も行くし、ロイド君も知らないビスティア地方に行ってみたいと言っていたから僕もついて行こう!』
と軽いノリで来てしまった事をちょっぴり後悔していた。
しかし、後悔ばかりではなく良かった点もあり、街道沿いで立ち寄る村や町の雰囲気が昨年より少し好意的に感じるのは、コーチャー王国が昨年スタンピードに襲われたのをニルバ王国から来たヒト族の若者が中心となりスタンピードを蹴散らしたという噂が流れたらしく、
『強さこそ正義』
という獣人族の中で、ヒト族やそのハーフを【獣人より弱い種族】として下に見ていた獣人至上主義の方々の一部に、
『えっ、ヒト族もやるじゃん!』
みたいな空気感があるらしく、ヒト族というだけで嫌な顔をされる回数が減っている事は唯一のプラスポイントであった。
『フフッ、その噂のヒト族の若者とは何を隠そう、僕なんだなぁ~』
と心の中だけでほくそ笑みつつも、目立ってもロクな事にはならない事を人生2周目の僕は知っているので静かにしていたのである。
だが、立ち寄った村で吟遊詩人が唄う【コーチャーの英雄】なる多分昨年の僕の事を題材にした歌を聞いていた瞬間に僕は思わず、
「嘘を垂れ流すな!」
と叫びそうになったのだ。
それは、暴れる地竜から村を守る為に命懸けで戦ったヒト族の若い旅人という曲の冒頭は良いとして、何故彼が命懸けでコーチャーの人々を守ったかというと、
【愛しの姫の涙を止めるため~♪】
などと、スタンピードや国の乗っ取りを図る奴等の件で心を痛めているイボイノシシ風味のインパクト強めなフェイスをされているお姫様であるエカテリーヌさんの涙を拭い笑顔にする為などという勝手な創作を加えられていたからであり、
「誰がだよ!」
と、思わずポロっと愛用のマジックバッグからジェロニモ号を取り出して今にも暴れそうになる僕をあのスタンピードの現場を知るバルディオさん達が、
「まぁ、まぁ、コーチャーの英雄という題名ですし、実名が唄われている訳でもないので、我慢ですよ…我慢」
などと宥めてくれたのである。
しかし、やっと落ち着いた僕の隣ではロイド君達兄弟が、
「良い歌詞の曲でしたね兄上…」
「そうだな。 国の民の為に涙を流す心優しい姫なんて、一度お会いしたいよ」
などと、僕を題材にした嘘物語を純粋に楽しんでいる様子に、
『どこがだよ、歌詞の半分以上が捏造だ! あとエカテリーヌさんなら嫌でも会えるさ、だって国王陛下からの依頼でカルセルの町との通信魔道具をコーチャー王家に届ける仕事を受けてるからねっ」
と、ロイド君達は悪くないとは理解しているが、彼らの台詞に何故かイライラしてしまう僕は、
「よし、そんなに会いたきゃロイド君にエカテリーヌさんをご紹介してニルバ王国とコーチャー王国の絆を深めるビックカップルを誕生させて、吟遊詩人達に新曲を書いてもらおうか?!』
などと、ドス黒い感情が再び暴れそうになるのだった。
とまぁ、いつの時代でも何処の世界でも噂話は盛りに盛られて、尾ひれどころか未知の生物にまで育つ事を痛感したのではある。
だけど現実は小説よりも奇妙な事が平気で起こるらしく、到着したコーチャーで僕はその事を知る事になった。
それは僕が我が家の畑エリア担当のノリスさん夫婦の孫娘であるアライグマ系の赤ちゃんのエリナちゃんが、あの時は抱っこしても泣かれないまでに仲良くなっていたはずなのに、会わなかった一年の間に関係性が白紙状態に戻り、再び笑顔を向けてくれるまでに数日の期間を要していた裏で、なんとロイド君とエカテリーヌさんが僕が何も手を下さずとも、勝手に意気投合しており何か良い雰囲気なのだそうだ、
『って知らん、知らん! 好きにしてくれ』
としか思わない僕に、何故かコーチャー王国の騎士団の方々が、
『勇者ジョン様、どうか気を落とさないで下さい』
みたいな可哀想な子を見るような生暖かい目で僕を見つめながら、エカテリーヌさんとロイド君のことを事ある毎に報告してくれるのである。
そして遂に先ほどコーチャー王国騎士団の団長である狼顔のモリブさんが壁を作っている東の集落のカサール建設のテントまで僕を訪ねて来て、
「スミマセン。 私は勇者であるジョン様と姫が結ばれる事を望んでおりましたが、あのように久しぶりに太陽の様に楽しげに笑う姫を見てしまうと」
などと深々と頭を下げたモリブさんは、
「しかし、それではジョン様を裏切る形となり我々騎士団はどうすれば良いかと…」
などと涙を流しつつ訳の解らぬ事をブツブツ言いながら僕に謝罪をつづける。
僕としてはブツブツ言っている部分よりその手前のロイド君とエカテリーヌさんのラブラブな最新情報をワザワザ報告してもらった段階で、
『あっ、マジか! マジなのかロイド君!!』
という驚きが勝り、一緒に青春を探した友達が、羨ましいか、そうでないかは一旦置いておいて、どうやら甘酸っぱい青春を謳歌している事を僕は驚きつつも素直に嬉しく思い、
「まぁ、本人達が幸せなら…」
と呟く僕に、何故かモリブ騎士団長さんは、
「流石は勇者様…心も広い!」
などと言って再び泣きだす。
ニルバ王国の公爵家の息子さん達を今の僕達みたいに作業場近くのカサール建設のテントなどで寝起きさせる訳にはいかないからと、コーチャー王国側の方々が現場で魔法を使うカイン様は仕方ないにしてもロイド君とルベールさんだけでもと、お城と呼ばれているお屋敷にご招待して、そこで二人は寝起きしており、どうやら二人の物語はそこで動き出したらしい。
お屋敷では昨年のクーデターを企てた首謀者の息子との婚約を破棄して以来ずっと自室で塞ぎ込みがちになっていたエカテリーヌさんの話し相手にロイド君がなってくれたらしく、二人は急接近したというオチなのである。
そんな報告をもたらしてくれたモリブ団長さんが、興奮気味に、
「これは再びあの吟遊詩人を探してジョン様の唄を作らせなければ! 友と愛しの姫の恋を涙で祝福する漢の中の漢」
などと言い出す。
しかし僕の頭には、
【再び】【吟遊詩人】【作らせる】
というキーワードが木霊し、続けてモリブさんが、
「姫との身分の差さえ無ければ実った恋…そんな悲しみを隠して生きる漢の歌を!!!」
などと言ったのを聞いた瞬間に、僕の脳内コンピューターが完璧な答えを弾き出し、
「あれは、お前が犯人かぁぁぁ!」
と、道中で吟遊詩人達が唄っていた嘘話の出所を僕は見つける事が出来たのであった。