軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第133話 殴られ損

『ふぇ~ん、痛かったよぉ~』

と心の中でギャン泣きしながらも今は何とか冷静なフリをしてはいる僕がそこに居た。

まぁ、結果から言うと、

『タコ殴りにあいました!』

という報告になる。

兎に角、カッコ良く五人組の冒険者から少年を守る為に飛び出したのは良いが、よくよく考えてみれば相手の中にあの少年に投げナイフを探させていた青年が居たので、奴等は中級ダンジョンの十階層より下の階層で狩りをしていた冒険者グループであり、冒険者ランクもC前後と思われ、

『あちゃ~、町ブラの予定だったから兎に角硬いと評判の僕の魔合金の鎧はマジックバッグの中だし、今からタイムを取って着こむか?』

などと焦っているうちに試合開始となってしまったのである。

言っておくが、最近頑張って魔物を倒してそこそこ強くなった自信はあるが、それでも、

『1対5という喧嘩に勝てるほど強くなってはいないよね絶対!』

とは理解している。

正直ピンチであるというのに、何故か頭の中は凪いだ水面の様に静かであり、得体の知れない『イケるかも…』という自信にも似た気持ちが湧いてくる。

『これがゾーンとか明鏡止水とか言われる良くは知らないが何か【至った】なんて聞く境地なのか!?』

と、勘違いしたままで開始した喧嘩は、邪魔にならないから着けたままにしていた魔合金の装飾品系のマジックアイテムのおかげで、移動速度と腕力が少し強化されており、ほんの一瞬早く相手のリーダーのヤツに一発お見舞いしたのであるが、次の瞬間に周りの奴等に倍返し以上の拳をもらったのと同時に冷静な僕の頭の中では、

『あっ、これゾーンじゃなくて勇気の首飾りの効果で冷静になって、ちょっとイケる気がしてただけだ!』

と、分析したのである。

しかし、それが解ったところで現実の僕は初手の全力パンチでリーダーは沈めたが、他の四人に好き放題に殴られて、リント王国での学生生活でイケイケ貴族達に囲まれて嫌がらせをされた記憶がフラッシュバックして、鼻血と共に吐きそうな気持ちにもなる。

だが、勇気の首飾りの効果なのか、鼻血を滴して身体のアチコチが泣きそうに痛いが、頭の中は酷く冷静であり、

『全員に勝つのは無理だとしても!』

と判断し、僕からのパンチをもらい軽く心が折れかけて未だにうずくまっている奴らのリーダーに馬乗りになった僕は、他の奴等にバカみたいに殴られ続け、腕を掴まれ力ずくで押さえつけようとされても、

「コイツだけでも四人分シバく!」

と、腕力強化のマジックアイテムの効果と、勇気の首飾りで無駄に冷静な思考を総動員させ無慈悲な追撃をリーダーにのみ浴びせつづける。

すると、僕をつい数秒前までタコ殴りしていた事を忘れてしまったのか四人の青年達は、

「そんなに殴ったら死んじまう」

とか、

「もう止めてくれ」

とドン引きで懇願してくる始末である。

『いや、こっちも死にそうだったし、止めて欲しかったよ!』

と、怒りにも似た感情が湧きあがってくるが、それもまた他人事の様に感じてしまうほどに冷静な僕の思考回路は、

『よし、落とし処だな…』

と判断し、既に白目を剥いてノビているリーダーをシバく手を止め、このままではまともに喋れる自信がない僕は、とりあえずマジックバッグからダンジョン産の良く効くハイポーションを飲み干し、まだ腫れが引ききらない顔で、

「では、話し合いに移ろうか…」

と四人に静かに告げたのだった。

という事で、本当は、

『まだスッゴく痛いし、もう1本ぐらい飲みたいけど…』

という気持ちを我慢し、かなり癪だが現在手持ちで一番効果が良さそうなダンジョン産のハイポーションの残りの1本をリーダーに渡し、僕もとりあえず痛みが消えるまでを目標に、たとえ水腹になろうともマジックバッグの中にある安い市販のポーションを飲みまくり今に至るのである。

『ちなみにまだ、アチコチ痛い…』

喧嘩としては相手方の戦意喪失による僕の判定勝ちといったところであるが、なんとも泥臭くて微妙な勝ちしか掴む事が出来ず、もしタイムマシンが有るのであれば、勇気の首飾りの効果とも知らずに喧嘩が始まる前のイキり散らかしていた自分をそのタイムマシン自体で轢き逃げしてやりたい気分である。

『恥ずかしい【俺様】とか言っちゃってたよ…』

などと体にもハートにもダメージが残る僕はカッコ悪いついでにロイド君達に彼等との話し合いを丸投げして、静かにこの話し合いの流れを見守る雰囲気だけ醸し出しながら、

『ひ~、あれだけポーション飲んだのにまだ身体中あちこち痛いよぉ~、話し合いが終わったら錬金ギルドで奮発して良いポーション買おうかな? あれ、息をすると脇腹も痛いぞ! って事はこれは肋骨とかやってないか…それならば教会の治癒院じゃないとダメかなぁ~?』

など、今になり変な汗を流しながら焦り散らかしているのである。

しかし、そもそもの話、

『なんで荷物係君が虐められていたか』

という事であるが、この五人は最近良い感じでダンジョンで稼げており、それで調子をぶっこいて、下の階層での狩りをあのダンジョンのドロップ品である食料の供給や縄張りの管理や調整をしている冒険者ギルドのお墨付きの大型クランに少しの袖の下も払い無理を言ってねじ込んでもらったのだそうで、

「武器も新調してイケると思ってたんだ…」

と、やはりダンジョン産のポーションは効き目が良いのか、単に僕が彼の4倍ほどダメージをもらっていただけかは知らないが僕とは違い平気で会話が出来るまで回復しているリーダーのヤツが悔しそうに語る。

どうやらダンジョンにつきものの、

『ここを越えた冒険者なら…』

といわれる難所でもあるエリアに挑戦して名前を上げようとしたらしく、視界も足場も悪いというぬかるんだ湿気の多い森のフィールドで敵意を持って物陰から突進してくる大小様々なボアを狩るという、自然界ではあまり出会わない、まるでイノシシ祭りのような階層にチャレンジしたのは良いが、入り口付近で小型のダッシュボアを3頭ほど狩って、

「こんなもんか!」

と調子に乗って不用意に進んだ瞬間に大型のスタンプボアと中型のタックルボア数頭の集団に陣形を崩され、手も足も出ずに良いようになぶられた彼らは武器や荷物をぬかるんだ森のエリアに放置したまま帰って来てしまったのである。

しかも、非戦闘員であるポーターの少年が、イノシシ魔物に轢き逃げされてフラフラな彼らを担いで階段付近まで1人ずつ避難させて何とか帰って来れたというのに、冒険者の彼らは何かプライドのようなモノが傷ついたからか、

「なんで邪魔をした! お前が邪魔さえしなければ武器を失くす事もなかったし、スタンプボアだって倒せていた」

などと言いがかりをつけ、少年としても、仕事で任されたダッシュボアの肉等を自ら捨ててまで冒険者の彼らを助ける選択をした事もあり、言い返せずにいると、それを良いことに購入してすぐの武器を泥だらけのエリアでボアに轢かれたり、必死で避けている間に完全にロストし、カッコ悪く敗走してきた事を転移陣までの道中の冒険者に見られ、ダンジョンから地上に戻ってもカウンター周辺の方々に知られた悔しさをぶつける捌け口として少年を使ったらしく、少年の傷の手当てが一段落したアル君はその話を聞いて、

「ある意味命の恩人である彼になんて酷い事を…彼はポーターですので貴方達がボアに轢き殺されたのを眺めた後で、一人で引き返して地上のギルドカウンターに報告するだけで良いところを荷物と引き換えにでは有りますが、そんなカスみたいな物より大切な皆さんの命を必死に回収してくれたんでしょ!?」

と、叱りつけていたのであった。

しかし、年下っぽいアル君から正論パンチを食らったリーダーのヤツは、それすら気に食わないのか、

「こんな平民以下の下町のガキを準男爵家の息子である俺がどうしようが勝手だろ!」

などとアル君に食ってかかるので、

『もう十発ほどシバいたろかな?』

と軽く殺気立つ僕をロイド君はスッて片手を伸ばして静止したかと思うと、彼は冒険者達の前に立ち、

「下町の住人は確かに貧しい方々が多いのは事実だが立派な平民であり、準男爵家の息子もまた只の平民、それはどの爵位の貴族の息子でも当主ではない者は嫡男であろうとも息子というだけでは平民である」

と、僕の代わりにド正論パンチを食らわせてくれ、そして、ほんのちょっぴりだけ、公爵家の息子のオーラを纏った状態で、

「しかも貴族、貴族と偉そうに言っているが、一代限りの準男爵の息子が何を…」

と、トドメの煽り文句まで決めてくれたのだ。

『やだ、カッコいい!』

とロイド君の見せた貴族オーラに惚れそうになる僕だったが、どうやら冒険者チームのリーダーにはあの煽りがクリティカルヒットしたらしく、リーダーのヤツは真っ赤な顔になり

「なんだよ偉そうに!」

とロイド君ににじり寄るのをルーベルさんが懐から鞘つきのナイフを取り出し、

『えっ、切っちゃうの?』

と焦る僕を他所に、ルーベルさんはナイフの鞘の紋章を彼らに見せ、

「偉そうにしているのはどちらでしょうか? こちらはボトム公爵家ご子息ロイド・ドラーク・ボトム様と、その隣はカイン・ドラーク・ボトム様ですよ…あ~ぁ、折角穏便に済ませる為に家名は出さないようにとロイド様が気を使って下さったというのに…」

と呆れたように話すルーベルさんは唖然としているリーダーのヤツの肩をポンと叩くと、

「ほら、こちらは家名を名乗ったのですから…」

と言った後にグイッと顔を近づけ、

「その準男爵というパパの家名を教えてくれますか? あとは大人の話になりますので…」

と微笑みながら伝えると、リーダーは完全に静かになったのであった。

だが、その光景を見た僕の中では、

『そうだった…公爵家の方々だった』

と膝から崩れ落ちる僕が、

『そんな手でアイツらが黙るのなら初めからお願いすれば良かった…これじゃあ完全に殴られ損じゃないかぁぁぁ!』

と心の中にまで降りしきる涙雨の中でずぶ濡れで叫んでいた。