作品タイトル不明
第125話 お爺ちゃんの長話
商業ギルドのベテラン職員の女性の案内で到着した裏通りの奥の奥にあるガラクタ屋と呼ばれていた店は、看板もなく昔のカサールのギャンさんの店と同じく、なんというかマイルドに言ってもゴミ屋敷といった雰囲気の小さな家が建っており、
『大丈夫かな?』
と心配していた僕たちを他所にベテラン職員さんは、その店先で、
「ヨゼフさん、珍しい収集家のお客を連れてきたよォ!」
と叫ぶと、彼女は、
「はい、ではワタシは仕事があるから」
とだけ言って帰ってしまった。
「ありがとうございました」
と僕たちは去り行く彼女に言ってみたものの、
『いや、誰も出て来ないし…』
とゴミ屋敷を眺めながら不安になり、とりあえず隣に居るアル君とバルディオさんの顔を交互に見てみるが、二人とも目の前の店の光景に少し引いているので、僕は、
「確かに乱雑だけど、こんなの僕がカサールに来た時のギャンさんの店より少しはマシだよ。 ほら、どことなく統一感はあるし、それなりにザックリと種類分けもしてあるっぽいからね」
と、扉の横の窓から見える店内の様子からあの頃の足の踏み場も無いギャンさんの店との差を教えてあげていると背後から、
「誰じゃ!」
と大声で呼ばれてしまい、ビクンとしながら振り向くと、小脇に荷物を抱えた一人の爺さんが立っていたのであった。
その爺さんは、
「ガキが来る所ではない!」
などと何故かプリプリ怒りながら僕たちの横を通りその乱雑に物が積み上げられている家に入ろうとするので、
「あのぉ、もしかしてヨゼフさんですか?」
と聞くと、彼は振り返り、
「なんだって?」
と耳に手を当てながら聞き返すので、
『耳が遠いのか』
と理解した僕は、アル君とバルディオさんに、
「ここは任せて」
と言ってからヨゼフさんに近寄り、ゆっくりと、そしてハッキリした口調で、
「ヨゼフさんですか? 品物を見たいのですが」
と、田舎で暮らしていた前世の記憶から、
『近所の半分は爺様か婆様だったからな~』
などと懐かしく感じながら、聞き取れる音域や速度を確かめる様に優しく話していると、爺さんは、
『ヤレヤレ…』
みたいな嫌な顔をしたかと思うと懐からスチャっと指輪を取り出しソッと僕の手にはめる。
『あら、いやだ、いきなりプロポーズ?』
などとアホな事を考えていると急に僕の頭の中に爺さんの
『誰がプロポーズなどするか! ワシはこれでも死んだ妻一筋だ』
という声が聞こえ、僕は、
「あぁ、絆の指輪か!」
と納得したのであった。
そんな僕を見ているアル君もバルディオさんも何が起こっているのかを理解したらしく、
「旦那様にお任せします」
「主殿、頼みました」
と、補聴器がわりに装着させられた【近づけばお互いの心が伝わる絆の指輪】越しの交渉を僕は任されたのであった。
爺さんは、
『この歳になると、聞くのも大変じゃが、話しても息切れするから』
などと伝えてくるが、
『あれだけ大声なら息切れもするよ』
という、僕の心の中だけのツッコミも指輪を通して伝わり、爺さんは目を丸くしながら、
『そんなに大声だったか?』
と驚いていたので本人的には普通の声量だったようである。
自分の声も聞きにくくなって徐々に大声になったのか、昔から声がデカいのか知らないが、とりあえず、
『子供達が、怒鳴るから怖いと言ってたぐらいには大声でしたよ』
と、指輪越しの会話のコツを掴んできた僕が伝えると爺さんは、
『折れた刃物もあるガラクタの山に登っているから注意はしたが…そうか、怒鳴っていると…』
と少しだけションボリした後に、
『で、ワシの家に用事か?』
と伝えて来た爺さんは僕の腕に着けた腕力上昇の腕輪を見つけたようで、
「ちょっと見せてくれ!」
と指輪の効果も忘れたのか再び大声を出したかと思うと、僕の手首を握り舐める様に腕輪を吟味する。
そして、絆の指輪越しに、
『間違いない、東の中級ダンジョンであるシロンから回収された古代ドワーフ族の後期モデルの赤熊の腕輪じゃな…』
と言った後に、
『この辺りのドワーフの鍛冶職人は大先輩である名工の作品でも壊れていれば何でもかんでも素材程度に扱いよるからなぁ』
と、怒ったかと思うと、
『これ程完璧な品は、久し振りに見たわい、オークションに出したら飛び付く奴も多いだろう』
などと指輪越しに褒めながら、僕の腕にある腕輪をサスサスと擦りつつニマニマしている。
僕は思わず、
『爺さんにお手々をサスサスされてるけど、あまり気色の良いもんじゃない』
と心の中だけでボヤいたはずだが、指輪のお陰で爺さんにそれが駄々漏れだったらしく、僕はここにきて爺さんの、
「すまん」
という小声を初めて聞いた。
『声量調整出来るんだ!』
と驚く僕に爺さんは、指輪越しに
『当たり前だろ…』
と呆れた後に、
『ところでその赤熊の腕輪はダンジョンに潜って拾った物か?』
と聞いた爺さんは、直ぐに、
『まぁ、お前さんみたいな者がシロンダンジョンに行けるとも思えんから、どこかのボンボンか?』
などと失礼なことを言ったかとおもうと、そのまま、
『ダンジョンというのは、古代の冒険者達が持っていた名品を複製して我々に与える為に神々が作って下さった装置であるとワシは考えておる。 金の力も力のうちと言いたいだろうが、やはりダンジョンに潜って勝ち取るという事にこそ、そのアイテムの物語を色濃くすると思わんか?』
などと、持論を長々と語った後に、爺さんは、
『おっ、そうじゃ、ワシはヨゼフだ、この町でダンジョンのドロップ品の研究をしながら暮らしている元修復師だ。 この店は死んだ妻の父から譲り受けた物で妻が長年営んでいたが、今はこんな感じになっておる』
などと、僕たちを店に招き入れてくれた後もまた長い説明をしてくれたので、まとめると、
【ヨゼフ爺さんは伝説の修復師みたいにどんなマジックアイテムも修復出来る様になるために、マジックアイテムの研究をして知識を得て使用する魔力を減らす試みの最中に完全にマジックアイテムの魅力の方に気持ちが動き、今ではマジックアイテムを解体して隅々まで調べあげる変態的な研究者】
という事実と、
【若い頃にマジックアイテムの収集家なる存在を知り、資料としてのマジックアイテムを安価で購入するべくこの店の主人と仲良くなり】
そして、
【娘を紹介され、二人は引かれ会い熱い口づけを…】
と、遠い目をしながら、
『本当に妻は最高の女性だった』
という爺さんの昔話を延々と聞かされ、日が傾いた頃になりようやく、
『…で、マジックアイテムを沢山持っている所を見ると収集家か? 若いのに渋いな』
などと、やっと話が先に進みそうになり、僕に丸投げして店内の乱雑に積み上げられた商品を眺めているアル君とバルディオさんに、
「やっと買い物が出来そうだよ」
と伝えるとバルディオさんは、
「いや、ゴミだと思ってましたが、良く見ると皮製品やミスリル主体のマジックアイテムばかりで、同じような杖でも微妙に種類が違うらしく見事に分けられております」
と感心しており、アル君も、
「マジックバッグって時間停止の物や大容量の物があるのは知っていましたが、見た目にも少しずつ違いが有るんですね!」
などと、言っているので、
「うん、その辺りもこの午後からの数時間で大体ヨゼフさんから聞いたから解るよ。 だから今晩あたりアル君に説明してあげようか?」
と引き吊る笑顔で僕が答えると、アル君は、申し訳なさそうに、
「えっ、遠慮しておきます」
と言ってからは黙ってしまい、爺さんの長話に飽き飽きしている僕は絆の指輪越しにヨゼフ爺さんに、
『この店の商品って売って貰えますか?』
と聞くと、彼は、
『好きなだけ買ってくれ、一番状態が良い物はちゃんと地下の倉庫に飾ってあるから、ダブついた物ばかりだ』
と言ってくれたので、財布を取り出してマジックバッグあたりから買い占めようとすると、ヨゼフ爺さんは、
「あっ、でも店の端にあるエルフのマントや風の靴はワシが修復した現役品だから高いぞ! いくら収集家の同志といえどワシも食っていかなけりゃならんからな値引きはなしだ」
と再び大声を出して注意するのを僕は、
『わっ、もう、大声を出さないで下さいよ。 ビックリした』
と指輪越しに抗議してから、彼に、
『でも、皮製とはいえエルフ族の作ったルーン文字を使ったマジックアイテムを修復出来るんですか! ラベル先生もマジックアイテムを直せる修復師は居ないと言っていたんですが?!』
と驚きながら伝える僕に、ヨゼフ爺さんは、
「ラベルが先生!?」
と再び大声を出したかと思うと、ビックリした僕の表情を見て、今度は絆の指輪を通して、
『スマン、今のは大声だと解った』
と謝り、続けて、
『しかし、ライバルだったラベルの生徒って事はキミも修復師か?』
と驚いていたが、そして彼は悔しそうに、
『風の噂ではラベルはゴーレムコアを直せる様になったらしいな。 ワシだけがマジックアイテムを直せると思っていたのだが、やはりラベルには勝てないって事か…』
と語るヨゼフさんに、僕は、
『まだ負けたと言うには早すぎませんか?』
と指輪越しに伝え、ヨゼフさんに、
『この店で使えてた時に一番内容量が多いマジックバッグはどれですか?』
と尋ねると彼は、うず高く積み上げられたマジックバッグの山の端にあるカバンをヒョイと拾い上げ、
『王国の南東、ダッパの町近くのダンジョン産の物で時間停止機能は無いが大型の馬車三台分は入る優れ物だ』
と教えてくれたカバンを、
『これ幾らですか?』
と聞くと、
『なかなか良い皮だが切り裂かれた穴が大きいからなぁ…もうひとつ有るがそちらも同じようなダメージ具合だが、穴の位置的に飾るならばこっちがオススメで、そうだなぁ、大銀貨五枚…いや四枚でどうだ?』
と言うので自分のマジックバッグから小金貨を一枚取り出して、
『では大銀貨五枚で構いませんから2つとも買います』
と伝えると、僕は思い出したかの様にアル君の方を指差して、ヨゼフ爺さんに、
『それから、後の商品の購入についての交渉はウチの商会の者が担当しますので』
と指輪越しに伝えてアル君に丸投げしようと画策していると、ヨゼフさんは驚きながら、
『いや、四枚で構わんのだか?』
などと言っているが、聞こえないフリをした僕はアル君に、
「とりあえず大型馬車三台程度を目安に予算の範囲で買うんだけど、そこのフード付きマントと皮の靴は除外で…」
と伝えてから、絆の指輪をアル君に渡して、自分のマジックバッグから魔力共有魔道具を取り出して装置し、
「無理すれば魔力でゴリ押して直せるかもしれないけど、折角2つあるから、片方は素材にするね」
と呟きながら、壊れた同タイプのマジックバッグ2つを並べ、意識を集中させた僕は、
「リペア」
と唱えたのであった。