作品タイトル不明
第123話 冒険者の町ワグナ
ニルバ王国の中央部のやや北側に位置するワグナの町は、ドワーフ族の住む地域と、獣人族の住む地域を結ぶ大きな街道沿いにあり、ニルバ王国でも有数の大都市である。
この交通の要所でもあるワグナの町が王都にならなかったのには多分、上級ダンジョンが2つと中級ダンジョンが3つほど近場に有ることから、
『活気があるけど、なんか治安が悪い』
と感じる程に、ダンジョンで一儲けした荒くれ者が酒場で騒ぎ、ダンジョンで失敗した者達も昼間から酒場でクダを巻いている様な場所だからだと思われる。
『ダンジョンなんて遥か昔から有るだろうから、わざわざ冒険者の巣窟に王城は建てないわな』
と思える王都の隣にある上級ダンジョンの町であるグロースを何個か集めて煮詰めた様な雰囲気のワグナに僕たちは到着した。
さて、今回の旅の目的はアル君の商人としての経験を積む為と、ロイド君が人生経験を積んで心と体を鍛える事に、僕が近場にゴロゴロしているダンジョンからドロップして冒険者達に壊れるまで使われた信頼と実績のあるマジックアイテムを手に入れて修復し、我が家の暮らしを楽にするという欲の為である。
『あぁ、あとダグさんにトリシャさんの件をそれとなく気がついてもらう件か!』
と思い出した僕だが、
『これが一番大変そうだから、まぁ、これは後からでも良いかな?』
などと面倒臭い事を一旦棚上げし、
「よし、今日から暫くは冒険者として楽しむぞ!」
と、この冒険者だらけのワグナの町に溶け込むべく僕たち7人で1つのパーティーとして冒険者ギルドにて登録したのであった。
我々のメンバーは、ルーベルさんが若い頃に冒険者としてBランクまで上げており、バルディオさんとリーグさんは奴隷落ちした際に名簿を消されて再度登録してから現在僕と同じくCランクになっている。
そしてアル君が殆どCに近いDランクで、魔法の訓練ついでに近所の小型魔物をたまに狩っているダグさんはEランク冒険者であり、そしてなりたてホヤホヤのロイド君がFランクという何ともバラエティーに富んだチームが完成したのである。
冒険者パーティーとしては一番下のランクの者から2つ上のランクかつパーティーの最高ランクまでの依頼を受けれる決まりであり、僕たちの場合は、ロイド君のFランクから2つ上という計算なので、つまりDランクの依頼や、Dランク以上の強さが有ると判断されたパーティーが潜れるダンジョンに行ける訳である。
しかし、既に旅の途中にロイド君と一緒に仕留めた獲物やキャンプのついでに集めた薬草なんかも時間停止のマジックバッグに入っており、それをロイド君が買い取りカウンターに提出すれば、その場でEランクに昇格出来ると思われる。
すると我々のパーティーはCランクパーティーへと変わり、これで全ての中級ダンジョンへ行けるようになる。
そうなれば、ダンジョンで少し頑張ってロイド君とダグさんがDランクになれば、パーティーとしてはB扱いとなり上級ダンジョンにもチャレンジできるのではあるが、
「まぁ、とりあえず中級ダンジョンでレベル上げだ!」
という事に皆で行ったパーティー結成祝いの席で決まったのだった。
パーティーの中で一番ランクが低いとはいえ、流石は国一番と言われた天才であるロイド君は、一般的な常識を知らずに驚くようなお茶目な一面もあるが、基本的にはお勉強の出来る天才であり、
「では、情報収集から」
と、僕の様にいきなりダンジョンに潜るというゴリ押しな作戦は取らずに、とても、低ランク冒険者とは思えない程の慎重な判断で、冒険者ギルドの資料室やギルドの売店で買える地図やドロップ品リストをチェックしはじめると、ルーベルさんが、
「ロイド様は気になる調べ物が始まりますと長くなりますので、ここは私が居りますので皆様は…」
と言ってくれたので、リーグさんとダグさんの二人には食材などを調べる為に市場にでかけてもらい、僕とアル君はバルディオさんと一緒に商店を見てまわる事にしたのである。
今回は冒険者ギルドの宿にチェックインして大きな部屋を押さえてあり、既に先払いで1ヶ月分の宿代を納めているので、のんびりと町ブラやダンジョン攻略に向かえる。
そして、僕も初めての事で少し驚いたのだが、流石は中級や上級ダンジョンに潜る冒険者の拠点というべきか宿泊前に、
【期日を過ぎて部屋に残されていた品物は自動的にギルドの所有物となります】
などという、ダンジョンで死んで帰らなかった場合の部屋の荷物の事についての誓約書にサインを求められたので内心、
『不吉な誓約書を書かされて、宿代も完全前払いだし、ダンジョンで命を落とす冒険者も沢山居るんだろう』
などと、少し不安にはなる。
しかし、それは、
『命を掛けるに見合う物がダンジョンにはある!』
という事でもあるともいえるのだが、僕的には、
『マジックアイテムを狙って命を掛けなくても誰かの使い古しや壊れたマジックアイテムを購入すれば良いんだから、一回のダンジョンアタックに必死にならずともコッチには修復ギフトが有るので何千年も続くダンジョンに挑んだ何万の先輩の持ち帰ったマジックアイテムの成れの果てでも見つければ勝ちだから』
という事で、無理なダンジョンアタックをしなくてもマジックアイテムを手に出来るように、グロースの町にあった壊れたマジックアイテムを扱う骨董品店のような場所を探そう町を彷徨いている。
しかし、何しろ町がデカ過ぎるので何処から探して良いのやら分からず、店はおろか何ヵ所かあるらしいゴミ置場すらたどり着けていない。
『グロースの町でササッと情報を集めて来たテイカーさんって、やっぱり凄腕なのでは?!』
と、改めてテイカーさんのコミュニケーション能力の高さに感心しながらも、アル君の商人としての成長の為にあえてここは彼に任せてみると、アル君は、
「テイカー師匠も壊れたマジックアイテムを収集する文化が有るのは最近まで知らなかったと言ってましたから、この町にもそのような収集家向けの店があるか調べたいので、先ずはゴミ置き場を見に行きたいのです」
と言い出し、
『なんで店を調べるのにゴミ置場?』
とは思ったが、僕とバルディオさんは彼の提案に従いワグナの町の3ヶ所のゴミ置き場を先に巡ることにした。
一つ目のゴミ置場でアル君は、僕たちと軽く見て回っただけで、
「旦那様の作業小屋で見たような魔道具も殆どありませんし、ゴミ置き場に残っている壊れた金属装備も溶かしてインゴットにすると性質が変わり十分な腐食耐性が望めなくなる魔鉱鉄の装備だけですね」
と把握し、二か所目となるこの町のメインのゴミ置場で、彼は、
「たぶんですが、魔道具についてはこの町には腕の良い修復師か錬金術師の方がいて、装備については壊れた鉄装備を材料に武器を作る若手の鍛冶職人と、インゴットに戻しても効果が残る魔合金とその魔合金の力を引き出せる凄腕のドワーフ族の鍛冶職人が居ると思われますね」
と、推測したのであった。
僕もだが、バルディオさんもアル君がなぜそう思ったのか気になって聞くと、名探偵アル君は、
「それは、見事に生活魔道具の廃品が無い事と、これだけ沢山魔鉱鉄の装備が捨てられているのに、他の金属装備が無い事と、バラッドさんも扱うのにはかなりの技術が必要だと言っていた魔合金っぽい装備も見当たらない事から、定期的に回収しているはずです」
と推測し、アル君は僕たちの方を見たかと思うと、
「そして、周囲にこれだけダンジョンが有るのに旦那様の作業小屋にも有ったような壊れた革製やミスリル製のマジックアイテムも同じように見当たらないという事は、必ず骨董品として扱うお店があるはずです」
と「ババーン!」と効果音が聞こえてきそうな程の名推理したのだった。
『あれ、アル君は商人の修行をしてるんだよね?』
と僕は、彼の観察力や推察力に驚き、彼のギフトも暗視という夜の張り込みに使えそうなギフトなのもあり、商人ではなく諜報員か探偵に路線を変える事をオススメしたくなる。
そして、どうやらアル君はバラッドさんへの鉄などの金属の仕入れを頑張ってくれていたそうで、僕も知らなかったバラッドさん仕込みの金属の知識を披露してくれ、僕は、
「へぇ~、魔鉱鉄ってインゴットにする段階で鉄と魔水晶なんかを混ぜて仕上げるらしいから、一旦武器に鍛えた物を再度加熱したら性質が変わってしまって、再びインゴットには戻せないんだ!」
と知らない知識を教えてもらい感心したのである。
すると、アル君は、
「バラッドさんが言うには、魔鉱鉄から完全に不純物を取り除き鉄に戻す事は出来なくは無いそうですが、手間に見合わない為に、品質の低い魔鉱鉄として、ちょっと錆びにくい釘や農具にする低度しか使い道がなく、年に一度ほど領主様からの補助金で仕方なくゴミ置場の壊れた魔鉱鉄の処理を町の鍛冶師ギルドが引き受けるそうです」
と追加で教えてくれたので、僕は、
「あれ、僕みたいな修復師がこの町に居るのなら残った魔鉱鉄の装備も無くなるんじゃないの?」
と素朴な疑問をアル君に投げ掛けると彼は、
「いや、旦那様、前に来ておられたラベルさんが言っておられましたが、主殿の魔力は異常に高いから日に何個も修復が出来る訳では」
と言った瞬間に『しまった!』という顔になったアル君は、
「すみません、旦那様。 テイカー師匠にも【旦那様】とお呼びするように言われていますのに、昔のクセで主殿と…」
と説明するのも忘れて恥ずかしそうにしているので、僕は、
「いや、主殿でも旦那様でもなくて、ベル達みたいにジョンお兄ちゃんとかでも良いんだけど?」
というと、アル君は、
「いえ、旦那様は自分の中では物語に出てくる英雄と同じで、お兄ちゃんなんて呼ぶには畏れ多くて」
と慌てるので、
『これはアル君とも仲良しさんになるチャンスかもな』
と感じた僕は、
「我が家の子供チームからはアル君はアルお兄ちゃんって言われてるけど、アル君は【お兄ちゃん】て呼べる人は家族に僕ぐらいでしょ? ダグさんもお兄さんというよりギリギリおじさん枠だしね」
とアル君に言った僕は、少しイタズラ心から、
「ほれ、【お兄ちゃん】っていっぺん呼んでみてよ」
と言ってみると、アル君はモジモジしながら、
「ジョンお兄ちゃん…」
と呟くと、その後に、
「あぁ、ベルちゃんが何時も【お兄ちゃん】と言っているのを少し羨ましく思ってましたが、これは結構照れますね」
と、彼は真っ赤な顔になり、僕たちのやり取りを見ていたバルディオさんも、
「本当の兄弟みたいで微笑ましかったですな」
と笑っている。
どうやらそれに更に恥ずかしくなったのかアル君は、
「やはり自分には憧れた人物をお兄ちゃんと呼ぶよりは【旦那様】と呼ぶ方がしっくりきます!」
と、どうやら「お兄ちゃん」と呼んでくれるのは今回限りみたいであった。
でも最後に彼は、
「本当の家族の様に接していただいているだけで十分幸せですから、ずっとお側で働かせて下さい」
と僕に頭を下げるので、そんなアル君に僕は、
「こんなに仕事が出来るアル君を手放す訳ないよ。 それに僕はお兄ちゃんのつもりだからね」
などと、兄弟のイチャイチャをバルディオさんに見守られながら楽しんでいたのだが、三人ともハッと、
『あっ、何の話をしてたっけ!?』
と気がつき、アル君が思い出した様に、
「そうですよ旦那様、自分もあのようにサクサクと修復出来るのが修復師のギフトだと思っておりましたが、普通は1日に数個、下手をすると金属製品ならば1つか2つで魔力切れするのが一般的だとラベルさんから教えていただいて、改めて旦那様の凄さを知ったのですが、そんな魔力を使って大銀貨数枚の魔鉱鉄の装備と小金貨になる魔石ランプなどの魔道具や大金貨相当の魔道具の杖の修復ならやはり魔鉱鉄の装備は放置されるかと思います」
と教えてくれた。
『成る程、魔力に恵まれていて気がつかなかったよが、魔鉱鉄の装備の修復は割りが悪いんだな』
と僕は全部直して売る派だから知らなかった事実を知ったのだった。