軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第111話 コーチャー到着

『たいへん、ホントに大変美味しゅうございました』

と、僕は心の中で涙を流しながら食べ終わったカレー皿を眺めて、これまでの少し物足りない食生活を思い返し、そして、若干甘味の少ないパラパラ系の種類とはいえ【米】と再び出会えたというこれから先の明るい未来の食生活を思い描き、

「生きてて良かった」

と、染々と呟いた。

すると、僕の反応を見ながら、このリィースなる穀物を知っていたはずのノリスさんも食べ終えた皿を手に、

「おかしい、あの独特な匂いもなかった」

と言い、奥さんのマイラさんも、

「もっとふやけてグニャグニャしている物しか食べた事が有りませんでした」

などと驚いていたので、米を研いだりせずにスープなどにブチ込む調理法がこちらでは一般的なのだと思われ、

『そりゃ、味が濃いめのスープなら大丈夫かもしれないけど、精米技術も前世より低そうな米だったから、しっかり研がないとヌカの香りが強いだろうさ』

などなと感じる。

しかし、ちゃんと手をかければこのリィースなる物は、米として楽しむには十分というか、むしろパラパラ気味の炊き上がりにカレー等にベストな気がする。

生産しているビスティア地方では、本当のところ、どんな感じで食べているかは知らないが、このリィースなるこの米はニルバ王国では獣人族ルーツが濃いご家庭の一部で冬場のかさ増し用の穀物として使われていた程度のマイナー食材らしく、カルセルあたりで長年活動していた冒険者達もリィースを食べた事が無いそうで、

「こんな旨いの食べた事が無いです」

とか、

「もっと味わって食べれば良かったかな?」

などとカレーの入っていた空の皿を眺めて呆然としており、リント王国の料理なら一通り作れるはずのダグさんも、

「これが坊っちゃんが求めていたカレーの本当の味でしたか」

と、今回のカレーを作った本人だというのに、初めて食べた米と我が家に来てからパンでは何度か食べたカレーとの相性バッチリな味の暴力とも言える衝撃に固まっていた。

しかし、

「やはりカレーは何度食べても美味しいですね」

などとリーグさんとバルディオさんがキャッキャと米という馴染みの無い物と合わせても旨いカレーの実力を褒め称えている。

僕の中の日本人としての魂が、

『分かってないなぁ~、この試作に試作を繰り返してダグさんがマスターしたカレーは勿論旨いが、米と合わせてはじめて完成されるご飯のお供としての料理なんだよなぁ、このどろどろ系の家庭風カレーっていうのは』

などと、唸るほどの大満足の夜ご飯であり、米との再会で今回の旅の成果としては十分な収穫であった。

しかし残念なのはダグさんが購入したリィースが精米済みの物であり、

『種籾が有ったらカサールの我が家でも育てられないかな…』

などと考えた僕は、旅の裏テーマとして【種籾の購入】という項目を何だかクリアしたのか、していないのか微妙な奴隷冒険者チームの解放という項目に替わり掲げたのであった。

さて、連日ノリスさんとマイラさんの案内で街道を進み、3つ程大きめの町や、幾つかの集落を経由した。

どうやら、この地方ではその一つ一つが小さな国という単位らしく、昔のビスティア王国なる巨大な獣人の国だった時の法律をベースに独自の文化を育む国や、完全に独自のルールでビスティア王国が滅んでから代々一族が治める里の様な場所までと様々であり、比較的にニルバ王国との交流もあるこの街道沿いの国々ですら場所毎にバラエティーに富んでいる。

しかし、生粋のビスティア地方生まれであるノリスさん夫婦に言わせると、

「私たちが住んでいたコーチャーもこの街道沿いですのでヒト族と獣人族の文化の交じりあったニルバ王国との交流もありますが、ビスティア地方の奥深くに行けば獣人族の伝統を色濃く残す国が沢山ありますよ」

などと笑いながら、国王を決める時に決闘で決める国や、代々女性を崇め女王が治める国の話を聞かせてくれたので僕としては道中退屈せずにすんだのである。

だけど、この獣人族の住むビスティア地方に入り1つだけ我慢出来ない点があるのだ。

それは、

『全ての獣人族がそうではないが、ヒト族というだけで微妙に扱いが悪くないか?』

と感じてしまう点である。

でも、考えてみればニルバ王国では感じた事はないが、幼い時にいたリント王国では、

『獣人族 = 獣からヒトになり損ねた格下種族』

みたいな風潮や、

『エルフの様な膨大な魔力を持つ者こそ素晴らしい…』

という変な価値観が蔓延っていた為に、僕は、

『こちらの地域の方々は獣人族がベースだから、ヒト族ってだけで嫌な顔をされても、まぁ仕方ないかな?』

などと、こちらのお国事情を察し、バリバリ獣人族であるノリスさん夫婦は勿論、バルディオさんや冒険者のケモ耳チームを眺めながら少し寒さが厳しくなった季節、野宿の際に焚き火を皆で囲み、

『僕もケモ耳のカチューシャでも着けたら、こちらの地方の方々も、もう少し笑顔で返してくれたりしないかな?』

などと、どうでも良い事を考えるのだった。

だけど、比較的ヒト族に寛容なニルバ王国近くの国々でもこんな感じであり、1つ、また1つと集落や町を越える度にヒト族への視線が冷たさを増す気がしてきて、生粋のリント王国出身の僕は勿論、お母さんはニルバ王国にルーツを持つリント生まれのダグさんですら見た目がやるせない程にヒト族であり、

「坊っちゃん、オレらなんだか歓迎されてない雰囲気がします」

と、町や村など人が住む場所に行く事すら気が滅入り、

「野宿サイコー!」

と、心を軽く病みそうになるのを、同じく見た目がヒト族である冒険者のアンドリューさんから、

「まぁ、ここら辺の連中はまだ冷たい目で見るだけだから大丈夫ですぜ。 素材の納入依頼で昔のパーティーで行ったもっと南西の国では石を投げられましたからね」

などと、悲しいアドバイスをもらいながら年の瀬にようやくノリスさん夫婦の目的地である農業が主要産業であるコーチャー王国に到着した。

ここ数日は村もないエリアを抜けており、

『カサールより遥か南に位置するとはいえ、野宿もそろそろ厳しい季節だし宿屋が取れたら良いんだけどなぁ』

と、僕だけでなく皆も感じている冬に向けて人通りの少なくなる道中で、すれ違う馬車もまばらになり、道端の広場には野宿仲間すら見かけず、

『早く人の居る所に…』

と焦る気持ちと、かといってヒト族としてこの国でまともに受け入れられるか不安な気持ちに揺れ動きながら、僕たちが農業で栄えている集落の集まったコーチャー王国の北の玄関口である村に入ろうとした時である。

丸太で作られた村の中心地と農地を区切る壁際で皮鎧姿の獣人族の兵士の方から、

「旅の方、悪いことは言わないから南に向かうなら夜通し馬車を走らせて早く国を抜けた方が良い」

と言われてしまい、

「何か有ったみたいです」

と幌馬車の運転台から報告してくれたリーグさんの隣へ荷台から顔を出したノリスさんが、兵士さんに、

「やっぱりビリーさんか、久しぶりだな何が有った?」

と声をかけると、兵士さんは、

「えっ、ノリスさんか!?」

と驚くので、どうやら二人は知り合いだったらしい、そしてビリーさんなる獣人族の兵士さんは、

「心配してたんだ。 奥さんはどうした?」

とノリスさんに声をかけ、ノリスさんは、

「ほれ、隣に居るよ」

とマイアさんを幌馬車の運転席のほうから顔を出すように促したりしていた。

そして、軽く挨拶を交わした兵士さんにノリスさんが、

「珍しいな鎧まで着て門番か?」

と聞くと門番をしていたビリーさんは、

「あぁ、今年は山の幸が不作だったのか冬眠前に東の山から魔物が集団でな降りて来てるらしい、前回のスタンピードでお前さんの畑が壊滅しただろ? だから、今回は東の集落が予測コースだが念の為だよ」

と、この北の集落の兵士や若者達が武装して東の集落の助っ人に行き、残された兵士が村人を守っているそうなのだ。

荷台の中で僕が、

「スタンピードって本でしか見た事ないけど、魔物が大行進して全てを踏み荒らす災害でしょ?」

とバルディオさんに聞くと、

「はい、理由は様々ですが魔物がパニック状態で走り回る災害で、大規模なモノは軍でも出さないと対処は難しいかと」

と教えてくれ、僕としては、

『危なそうな事には関わらずに落ち着くのを待つか?』

などと頭を過るのであるが、しかし、ノリスさんとマイラさんは大慌てとなり、

「東の集落!」

「どうしましょう!?」

と焦っている為に、

『娘さんが嫁いだのが東の集落か!』

と理解した僕は、兵士のビリーさんとやらに、

「村の方々は?」

と荷台から顔を出して質問すると、彼は、

「スタンピードの到着が近いから農耕用の牛魔物の引く荷車では追い付かれる可能性が有るから集落に立て込もっている」

と教えてくれた。

「それならば!」

と判断した僕は、運転台のリーグさんに、

「東の集落とやらに急いで!」

と指示を出して、ノリスさんに、

「リーグさんの道案内を!」

と言うと、兵士のビリーさんが、

「危ないから止めとけ!」

と、止めるのも聞かずに、

「ご心配なく、これでも冒険者ですので!」

とだけ伝えてから後方の荷馬車のアンドリューさん達に、

「スタンピードから村の方々を守る為に東に向かいますので皆さんは待機をして下さい」

と言うと、何故か後ろの荷馬車に乗るアンドリューさん達は、ニカッと笑いながら、

「よし、やっとご恩返しのチャンスが来たぞ!!」

などと興奮し、

「終わったらカレーをまたお願いします」

などとやる気満々でスタンピードから集落を守る闘いに向けて馬車を走らせてくれたのであった。