作品タイトル不明
第104話 整理整頓
王都からカサールに帰ってきて1ヶ月ほど、季節は夏終盤であり、現在僕は石壁作成の際に予定外に広くなった敷地の端にて大工のボンドさんにお願いして建設してもらった作業小屋に作業台などを配置し終え、
「よし、小屋の中の配置は完璧だな」
と満足気に自分の秘密基地の仕上がりを眺めている。
この建物は、前から計画されていた小屋であり、最初の段階からカサール子爵様には我が家の施設に作業小屋をお願いしていたのだが、思いの外大規模な工房みたいな家を建ててもらっており、バラッドさんご夫婦…いや、もうすぐご一家になる家族の営む鍛冶工房として利用している為に、
「ライトお兄さんの工房兼イデアさんとの新居が完成してからで良いから、僕専用の作業小屋が欲しい」
とお願いしていたのが先日完成したのである。
町の堀を作ったショベルゴーレムにより地面を掘り返し、耐水コンクリートの様に乾けば湿気の侵入を妨げる錬金ギルドで売っている建設資材の耐水石粘土とバラッドさんに錆びない魔鉱鉄で作ってもらった鉄筋で作った頑丈な地下倉庫を完備した僕だけの城である。
工具等を自宅に置いておくと、我が家は好奇心の塊なちびっ子チームが成長して元気に走り回っており、危ない事も増えた為にこれで作業中の物を出しっぱなしでも安心なのだ。
しかし、ついでだからと少し欲張ったサイズで作ってもらったのにも関わらず僕は現在、
「地下倉庫つきの作業小屋が完成したのは良いが、まさか、完成した翌日にパンパンに物が詰められるとは設計段階では思って無かったよ」
と、物で溢れている地下倉庫を眺めてボヤきながら、
『こんな事ならもっと欲張ったサイズの地下倉庫にすれば良かった』
などと、早速後悔しているのである。
なぜこんなに物が溢れているかというと、王都の帰りに立ち寄ったグロースの町でお婆さんが一人で切り盛りする骨董品店にて壊れたマジックアイテムを根こそぎ購入した事が原因である。
グロースの町で買い集めた魔石を使いとりあえずお婆さんの店にてエルバート師匠の鑑定ギフトを頼りにダンジョン産の壊れたマジックバックを買い占めて可能な限りリペアの魔法で直す。
そして翌日には直したマジックバッグを手に、お婆さんの店がほとんど空になるほどに亡くなった旦那さんが半分趣味で集めた壊れたマジックアイテムを残らず、
『そのうち修復するから、とりあえず買ってかえろう!』
と購入し、修復したマジックバックに詰め込んで帰ってきたのだ。
店主のお婆さんは、
「売ったワタシが言うのもなんだが、あんたら相当変わりモンだねぇ」
と呆れながらも、
「悪いけど、要らないからって返品は受け付けないし、だからと言ってウチでは買い取りも絶対にしないからね!」
と、釘をさされてしまった。
僕としては旦那さんとの思い出を根こそぎ持っていく事に罪悪感が少し有ったが、一点一点は高い物でも大銀貨数枚程度であるが品数が品数であり、持ち上げる事すらお婆さんの腕力では難しい大金貨が唸る金袋に頬擦りしている彼女を見て、
『まぁ、嬉しそうだし、良いかな?』
と、既に新品同様に修復されたダンジョン産のマジックバック数点で十分に元どころか儲かっている事にも罪悪感なく帰って来れたという流れれなのだ。
あとはこの倉庫の中の修復が楽に出来そうなマジックアイテムから暇を見つけて直したり、マジックアイテムを研究して僕の知識を深めて修復の時に必要な魔力がセーブ出来る様にしたい。
既に直したマジックバッグを今後テイカーさんの商売や、僕や皆の冒険者仕事の他に、家族の食料の保存に使う為にと、とりあえず中身を空にしたくて無理やり小屋へ詰め込んだだけの物資の搬入作業が終わった頃合いに僕を探して母屋から、
「坊っ…じゃなくて、旦那様ぁ~」
と、凄く聞き覚えがある懐かしい男性の声がしてくる。
その声の主を紹介しよう。
彼の名前はダグ、そう、僕の生まれた屋敷の料理担当だったダグおじさんである。
彼はあのお屋敷にて僕の憧れの先輩であり恩人でもあるバートン様に料理を作っていたのであるが、以前メイドとして働いていたメリーさんと一緒に我が家に来ようとしたのだが、その際にバートン様に引き留められ、
『弟子に全てのレシピを教えるまで』
という条件であの屋敷に残っていたのである。
しかし、今回のニルバ国王陛下との謁見の際に飛び入り参加的にリモート謁見したリント王からの、
『ニルバ王国で滅茶苦茶頭角を現しているジョンってウチの元貴族の息子が追放された事を怒ってるみたいで、追放を解除するって言ってるのに帰って来ないんだよぉ~』
と、ウチのクソ親父が入っていた辺境伯派閥経由でバートン様にまで相談が有ったそうで、バートン様から、
『国王陛下の事をジョン君はたぶん本気では怒ってないとは思うが、国王陛下からジョン君に何か喜ばれる事を調べて欲しいと指示が出たので、前から本人も希望していから料理長のダグの退職を認めてそちらにお返しします。
しかし、本当にジョン君が心底怒っているのならば言ってください。 まだ国外追放の解除手続きすらしていない事について私も少々思う所がありますので…ではお体に気をつけて、このペアの地で再び逢える日を楽しみにしております』
という、お手紙を託されたリント王国から騎士団の護衛つきで、先日我が家に引っ越して来たのがダグおじさんなのである。
彼は僕の生まれた屋敷の使用人の中ではかなり若い方のメンバーだったのであるが、この数年見ないうちに財政的に持ち直したバートン様の屋敷で部下の料理人も出来て『師匠』としての威厳みたいなものが出てきていたのか、髭なんか生やして、かなりおじさん度合いが強めになっていたが、我が家に到着した彼は昔のまま、
「わぁ、坊っちゃんだ! 本当に坊っちゃんだ!」
と、僕に抱きつき、そして、
「坊っちゃんが発明したポタタフライとポタタチップスの特許ですが、財産差し押さえの時に国に取り上げられたままでして、幸いペアの町だけで製造するっていう契約は変更されず工房の皆の生活は助かりましたが結局は…申し訳ありませんでした」
と、僕が町の人の為というより自分の欲の為にダグおじさんに作ってもらったジャガイモ料理をまだ幼い僕の代理として登録し管理してくれていたダグさんは、
『追放された僕の為になんとかお金を!』
と頑張って権利を取り戻そうとしてくれたらしいのだが、上手く行かなかった事を涙ながらに報告してくれ、
「バートン様には恩義を感じておりますが、あの国にはオレは不信感しかない!」
と、ここにリント王国アンチの我が家の新たなる料理人が誕生したのであった。
そして、魔力供給魔道具にて魔法の訓練が自分でも出来る様になり学校に戻ったカインお坊っちゃまを見届けた後に、現在カサール子爵家にてクリスト様と結婚に向けて楽しく暮らしているゼルエルガさんの弟子として水魔法のギフト持ちであるダグおじさんは生まれて初めて正式な魔法の授業を受けている。
ゼルエルガさんの弟子として我が家の火魔法使いであるデニス君の弟弟子というややこしい立場であるが、ダグさんはやはり昔から水を操り皿を洗っていただけあり、魔力操作の基本を独学で身につけていたようで、本日ゼルエルガさんから受けた魔力操作の試験にて合格をもらったダグおじさんは、
「旦那様、見て下さい【合格】を貰えました!」
と、魔力供給魔道具を購入する為に必要な事に国で決まった魔力操作試験の合格証を嬉しそうに僕に見せに来てくれたのである。
ダグさんは自慢気に、
「これでどんな魔物が来ても旦那様の食卓を飾る食材に出来ます!」
と言い出し、僕は、
「そんな変な美食家みたいに危険な魔物を食べに魔物の巣とか秘境になんて行かないからね」
とドン引きするのであるが、彼の意思は堅いようで、
「ここに来て1ヶ月足らずですが、オレの見たことも食べた事もない料理の数々を見て、もう坊っちゃんから離れないって決めて、って、あっ、旦那様だった。 まだ口が慣れないな」
などと一人で盛り上がっているので、僕は、
「無理に旦那様って言わなくて良いよ。 メリーさんも坊っちゃまって言ってるからね。 それに、ほら、旦那様って呼んでいるリーグさんは色々とアレだからね」
と、リーグさんは現在はまだ僕の借金&犯罪奴隷的な微妙な立場な件を伝えると、ダグおじさんは、
「あの野郎ぉ~、やっぱり許せない。 坊っちゃんを裏切ってたなんて!」
と、我が家に来た当初のメリーさんみたいにリーグさんに怒っている。
呆れたように僕が、
「いや、その件はもう」
と言っても、ダグおじさんは的にはこっちに来てからメリーさんからリーグさんがあの屋敷で働いていた理由を詳しく聞いて、現在モヤモヤしている真っ最中らしく、
「何か納得出来ません。 裏切り野郎がオレより坊っちゃんと、ずっと仲良く冒険者してたなんてっ!」
と、複雑な気持ちを整理出来ない様子であった。
『これは地下倉庫と一緒にダグおじさんの気持ちの整理も必要かな?』