軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1話 貴族に生まれて

霞がかった記憶であるがどうやら今の体に生まれる前に僕は他の世界で生きていたらしい。

自分でも『馬鹿な事を…』とは思っていたのだが、それを相談する相手が僕の家族には誰も居なかったのである。

といっても孤児という訳ではないが、下手をすると教会の孤児達よりも孤独だったのかも知れない。

僕はリント王国の東の端一帯を任されている辺境伯様の派閥に属するペア子爵家の1人息子で、名は【ジョン】である。

物心がついた頃に、

『ジョンって…子供の時に近所で飼われてた犬かよ』

と自分が子供なのに、自分ではない子供の時の記憶からジョンという己の名前に違和感を感じたのが前世の記憶に気がついた切っ掛けだった。

しかし、少し不安にも感じる前世の記憶の件を相談する相手として、あまり僕の事に興味の無い様子の父や、その父にすら興味が無いのか、

「友達のパーティーが有りますので」

と片道1ヶ月程かかる王都の実家に帰ったっきりで顔もろくに見ていない母に話すという選択肢もなく、家族の気配すら感じられない屋敷にて、

『まぁ、知らない記憶が有っても特に不都合は無いか…』

と自分に言い聞かせて暮らしていたのであった。

その代わりに僕のこの前世の話を聞いてくれた…というか僕があまりにも普通とは違う事に気がついて、不思議に思ってくれた人物がいる。

それは僕の教育担当だった爺やのベックさんであり、何でもないオヤツ時にいきなり、

「ジョンお坊ちゃま…何かこの爺やに隠してませんか?」

と聞かれた時にドキッとしたのを今でも覚えている。

ズバリ聞かれた事もありベックさんには秘密にするよりも全てを打ち明ける事を選んだのだが、ベックさんは僕の突拍子もない告白にも、驚きこそすれ子供の妄想と馬鹿にすることも無く真剣に聞いてくれたのであった。

そんな訳で、両親が僕に興味が無くてもこの屋敷で心も体も不自由なく生活出来たのはこのベックさんをはじめとした我が家の使用人の皆さんのお陰である。

特に五歳の頃から全寮制の学校に入学する十歳までの五年間はベックさんを中心にメイドのメリーさんや料理人のダグおじさんに、庭師のリーグさんが僕の家族代わりとなり色々な事を僕に教えてくれた事に感謝している。

入学までの間に貴族として最低限の知識を身に付けておかなければ、他の家の子供に侮られる。

金持ちとはいえ平民である商人の家の子供も通う都会の学校で貴族の息子である僕が落ちこぼれ扱いされない様にという貧乏になったとはいえ貴族のプライドらしい…

『ド田舎の貧しい貴族にそんなプライドがあるのか?』

とは思うが、ウチは子爵という位の貴族家であり、小さいながら領地も預かる辺境伯様の派閥の中でも古参の名家であるそうで、ベックさんが事あるごとに僕に、

「派閥の他の貴族家のご子息に負けるなど、旦那様はお許しには…」

と言っていたぐらい、父としては僕自身には興味を示さないが、僕という存在が派閥の貴族の子供に劣るというのは許せないぐらいに古参貴族としてのプライドがあるらしいのだ。

しかし、客観的に見れば辺境伯派閥の古参貴族と偉そうに言ってはいるが現在の我が家は領民も減る一方で没落まっしぐらなド田舎の領主のお家柄である。

『まぁ、貧乏になった名家の息子が学力でも周りより劣れば良い笑い者になるのは目に見えているか…』

という事は前世の記憶とは関係なく入学前の子供にも理解は出来る。

そんな寂れる一方の領地にて父は何やら毎日の様にゴソゴソと忙しそうにしてはいる。

だが、そのゴソゴソは我が家や領地の稼ぎには上手く繋がってない様子で、親子の会話など殆ど無いが廊下を歩く父の足音などでイライラしているのは分かる為に、何から何まで上手く行っていないのだろう。

一般的な領主なら夫婦で励まし合い、知恵を出しあったりしてこのピンチを乗り越えるのだろうが、家の方針で渋々嫁に来ていたらしい母は、僕という跡継ぎを産んだからか、ここ最近は貧乏なこの家にすら寄り付かないという状況であり、父に益々話しかけ難い空気が漂っている。

とまぁ、家庭ひとつ纏められない不仲な領主夫妻が預かる領地の民は完璧に置き去り状態であり我が家以上に苦しい生活が続いていたのであった。

そもそも、我がペア子爵家がこれ程迄に貧しくなったのは長年かけてジワジワという理由も無くはないが、直接的な原因は望まぬ縁談により田舎に嫁に出された都会っ娘の母の散財と、僕が前世の記憶に気がつく少し前に始まった隣国との戦争による所が大きいと思う。

『戦争』とは言ったが正確には戦争の前、この国の東端の国境付近に位置するこのペアの町に隣国の町から武装集団がいきなり攻めて来た時に我が家の騎士団の殆どと、町の働き手の男性を多く失い、派閥の長である辺境伯軍の本体が援軍に来てくれる迄の数日の間に冒険者なども破格の報酬にて町の防衛に雇い何とか凌いだという事があったそうだ。

その時から我が領地は【金】【武力】【働き手】という町に欠かせない要素が壊滅的状態になっている。

前世の記憶が有るとかは関係なく幼い僕の目にも、

『これはマズイだろう…』

と感じてしまう状況に、子供ながらに、

『何とか領地の皆の為になる事はないか?』

と考える様になったのは必然だったのだが、両親とは違い読み書きと計算を教えてくれたベックさんだけは、僕の事を、

『ペア子爵家とペア領の民の為に神が遣わした神童』

などと褒めてくれ色々と協力してくれたお陰で、微力ながら領地で暮らす皆の為に少しは役に立てる事が出来た事は僕に前世の記憶が残っていた意味を与えてくれたと思う。

最初は何も分からない子供が騒いだとて説得力に欠けるので、この世界の知恵を覚える為に本を読める様にと文字から覚える事にした。

気がつけば話せていた言葉とは違い、読み書きについては最初こそ見馴れぬ文字に少し苦戦したが、前世の事を考えれば一種類の文字を覚えれば全ての書物が読める為に、未知のアルファベットというのか、はたまた平仮名というのか、少し表現が難しいがリント王国文字なる物を覚える程度で楽勝である。

しかも周辺の国でも独自の文字を使うが、言語的には同じ系統の為に会話にて意思の疎通は出来るし、違う文字の地域でも、その国の文字の表でも有れば単語はほぼ同じな為に手間は掛かるが読み書き出来る様になる。

『漢字みたいな物を何千と覚える必要が無くて良かった』

と心底感じている僕は真面目にリント王国文字に向き合い屋敷の書庫の様々な本から知識を吸収出来様になるまでさほど時間がかからなかった。

そして、どうやら僕はベックさんの褒めて伸ばすタイプの教育方針ともマッチしたのか、他のお子様に比べて読み書きの理解速度が前世の記憶の事もあり此方の常識より異常に早かったらしく、ベックさんは、

「ジョンお坊ちゃまの勉強は予定より早く終わってしまいそうですな…」

と寂しそうに語った為に、

『それならば!』

と、前世の知識と本から学んだ知識を使い一人でコソコソと領地の為になる事を考える予定を変更し、ベックさんに、

「ベックさん僕と領地の為に何かしようよ!」

と誘ったのが7歳頃の事である。

この家だけでは無く領地全体も【金】【武力】【働き手】が不足している為に、先ずは働き手不足の農家の収入を安定させて領地の基礎から固める計画をベックさんと立て、

「人手がもっと必要ですな」

というベックさんの提案で、メイドのメリーさんや料理人のダグおじさんに庭師のリーグさんも仲間に引き込み、父にも内緒のプロジェクトチームが完成したのである。

まぁ、僕が何をしようと父は興味を示さないし、領民が苦しんでいるのに 何(・) か(・) はしているが、その何かが皆の為になっていない様な父は無視である。

しかも、もしもこの農地プロジェクトが上手く行っても父の功績にはならない様に、【町の有志が頑張った】という体にして貰う様にコッソリ手を回してくれているらく、ベックさんは、

「大概の貴族は何でも自分の功績にしたがりますからね…ちゃんとジョンお坊ちゃまがペア子爵家の御当主になるまでは爺やにお任せ下さい」

と、特に何もしない父には、【住民からの税収が安定する】という報酬のみで我慢してもらう事になり農地改革実験が開始されたのである。

ベックさんの知り合いの農家さん数件から実験に協力して貰える約束をとりつけた後に聞き取りをした結果としては、皆さんやはり、

「働き手である息子が…」

という答えが返ってきた為に、農家の畑作りなどの力仕事が問題となっているらしい事を知る。

これは予想通りではあったが、この問題の解決の為に耕運機などが有れば良いのだが、本で探した結果では僕の住むこの世界には前世の様な便利な機械や科学の知識は無いらしいのだ。

なので鍬でサクサクと土を掘り返して作物を植えるウネを作らなくてはならず、家族を守る為に武装集団と戦いで命を落とした働き盛りの男手を失った農家には難しい作業である。

だが、この世界にも独自の魔力を原動力とした技術が有るらしく、ド田舎であるペア子爵家の領地では一台も無いのであるが、鉱物系の人形魔物から稀に無傷で回収されるコアと呼ばれる素材を扱える者が操る【ゴーレム】という人造魔物モドキが居れば難しい作業は無理だが、掘り返す、耕す、引っこ抜くといった簡単な作業であれば使用者の魔力の続く限り1日中でも働き続けるらしいのである。

『ゴーレムさえ有れば農地開拓だって簡単なのに…』

とは思うが隣国と武力衝突と睨み合いを繰り返している現在では、ゴーレムもそれを運用する技師も戦力として必要であり、こんな貧乏貴族の治めるド田舎には回ってこないのである。

なので農業に使えそうな最先端技術がゴーレムであるこの時代に逆行する形ではあるが、爺やの知り合いの農家さんの畑では主力として戦争の物資輸送にも重宝される高価な馬魔物ではなく、足が遅いが比較的安価で力のある牛系の魔物を購入してトラクター代わりの農耕魔物として貸し出す事にした。

異世界っぽい夢のゴーレムは一旦諦めて、貧乏領地を立て直す為の魔物に引かせる農耕器具の改良等を庭師のリーグさんが庭仕事用の器具を作っている知り合いの鍛冶職人さんを連れて来てくれたお陰で一気に計画が進み出したのである。

そして月日は流れ、牛魔物の頑張りで力仕事を行え少しずつであるが農業に回復の兆しが見えた頃に料理人のダグさんからの提案で、

「腹持ちも良いですし、日持ちもしますから…」

と、食べるにしても売るにしても使い勝手が良く重宝される作物として前世の記憶ではジャガイモと呼んでいた【ポタタ】を主要作物として栽培を試す事にしたのであるが、予定では年に二回出来る収穫も畑により収穫量にバラつきと、品質にも大きな差が出た為に、八歳になった僕は、

『これでは、稼げる農家とそうでない農家が出ちゃうな…入学までの二年でこの問題を何とかしないと…』

と焦っていたのだった。