軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

49話 噂を聞いてみた

聖王軍について話を聞いていると、ふいに店主の顔から生気が抜け落ちた。

「――あー、最近は、“また、ノア帝国の魔女アレクサンドラが進軍してきたらしい”からなぁ。息子たちも“聖王陛下のために立派に戦ってくれる”だろう」

「…………なに?」

思わず、足を止める。

「……魔女アレクサンドラ? それは、アレク……ノア帝国の新皇帝アレクサンドラのことか?」

「そうだ。“魔女アレクサンドラは、魔帝メナスの力を取り込んで、世界征服を狙っている”という噂だ。つっても、“聖王陛下がいれば安心”だな。なんせ、“聖王陛下は、この時代に現れた預言者”だって噂だからな」

店主が台本でも読み上げるように、ぺらぺらと話しだす。

いきなり、なにを言ってるんだと思ったが……違う。

自分の意志で話している様子ではない。

これは――聖王の【噂操作】だ。

「おい、聞いたか?」「聞いた聞いた」「“また、ノア帝国の魔女アレクサンドラが進軍してきたらしい”な」「“魔女アレクサンドラは、魔帝メナスの力を取り込んで、世界征服を狙っている”そうだぞ」「“聖王陛下が動きだした”ようだぞ」「“聖王陛下がいれば安心”だ」「“聖王陛下は、この時代に現れた預言者”だって話だぞ」「ありがたや……」

気づけば、今の“噂”を耳に入れた周囲のやつらが、一斉に同じ“噂”をささやき始めた。さらに、その“噂話”を聞いたやつらもまた同じ“噂”を話しだす。

「おい、聞いたか?」「聞いた聞いた」「“また、ノア帝国の魔女アレクサンドラが進軍してきたらしい”な」「“魔女アレクサンドラは、魔帝メナスの力を取り込んで、世界征服を狙っている”そうだぞ」「“聖王陛下が動きだした”ようだぞ」「“聖王陛下がいれば安心”だ」「“聖王陛下は、この時代に現れた預言者”だって話だぞ」「ありがたや……」

まるで伝言ゲームのように、“噂”が拡散されていく。

気づけば、どこもかしこも同じ”噂”でもちきりだった。

これは……さすがに異様な光景だな。

と、そこで。

「あの」

つんつん、と腕をつつかれる。

振り返ると、虚ろな目をしたラフリーゼがいた。

「聞きましたか? なんでも、“またノア帝国の魔女アレクサンドラが”――あぅっ!?」

目潰しする。

「な、なにするんですか!」

「いや、目潰し待ちかと思って」

「“キス待ち”みたいな新ワード作らないでください! というか、私、そんな目潰しウェルカムな顔してましたか!?」

「してた。それより、頭は冷えたか?」

「……え? あ、あれ、そういえば、私はなにを話して……」

「聖王の【噂操作】スキルにあてられたんだ」

「え、聖王陛下の……?」

……【噂操作】か。

昨日も広場で見たが、やはりなかなかの力だな。

聖王の流した“噂”を耳に入れると、誰かに“噂”を話さずにはいられなくなる状態異常といったところか。

まあ、俺みたいに状態異常耐性があれば効かないようだが。

「……ちっ」

せっかくの観光気分に水を差されたな。

魔帝メナス時代のことを思い出し、気分が悪くなってくる。

真っ向から力でぶつかってくるのなら叩き潰すだけでいいが、こういう小細工は対処が面倒だ。。そのせいで、長年、耳元に小蝿が飛び続けるような鬱陶しい思いをさせられたものだ。

「……なんか思い出したら腹が立ってきたな」

それも、噂を聞いてる感じ……聖王は今度はアレクを“魔女”呼ばわりして、ノア帝国に攻め込もうとしているのか?

俺が後任として選んだアレクを……俺が長年守ってきたノア帝国を攻撃するとは……。

「くくく……面白い」

これは俺への挑戦と受け取った。

というわけで、悪は急げだ。

「よし、ちょっと今から聖王殴ってくる」

「なぜに!?」

「聖王を殴るのに理由がいるか?」

「いりますよ!? だいぶ理由がいるタイプの相手ですよ!?」

「ならば、聖王国での思い出作りのためだ」

「忘れられない思い出になりそうですね!? って、ちょっと……本当に行くつもりですか!」

歩きだそうとすると、ラフリーゼが腰にしがみついてきた。

「おい、歩くのに邪魔なのだが……もしかして、人の 温(ぬく) もりに飢えているのか?」

「これが温もりをチャージしてるように見えますか!? とにかく、陛下のもとには行かせませんからね! せっかく勇者だと認めてもらえたのに、翌日にいきなり反逆するとか意味不明すぎますから!」

「いや、そもそも観光目的で勇者になっただけだしな」

「就活生に殴られそうな志望動機!? で、でも、観光したいんですよね? もしも聖王陛下を殴ったら、観光どころではなくなりますよ!」

「いや、もう“聖王国観光編”は終わりでいいかなと。あらかた観光名所もご当地グルメも堪能したし、そろそろバトルシーンに入りたい」

「恐ろしく早いストーリー展開!?」

「くくく……俺がいるからには最初からクライマックスだ」

「かっこつけても、打ち切りにしか見えませんからね!?」

「というか、どうせお前も、聖王を潰す予定なんだろ? 破滅の未来を回避するとかで」

「つ、潰すとかはしないですよ! 私はもっと誰も傷つかない方法で……それに、しっかりと地盤を固めてから……」

言いながら自信がなくなってきたのか、言葉尻が小さくなっていく。

こいつは下手に未来が見えるせいで、未来が悪くならないかといつも怯えているのだろう。だからこそ、未来に下手な影響を与えない無難でクソ真面目な優等生っぽい行動ばかりを選ぼうとするのか。

「まったく……たかだか、破滅の未来ひとつ回避するのに何十年かけるつもりだ。 敵(ボス) がすぐそこにいるんだから、まっすぐ突撃してテロればいいだけだろ」

「テロって言いました!? 今、テロって言いましたよね!?」

「さて、聖王がいるとすれば広場か」

大聖城前の広場で演説していたことを思い出す。

聖王はああやって、市民の間に“噂”を流しているのだろう。市民を自分にとって都合のいい駒にするために。

よく見れば、広場に向かって人が流れているのがわかった。

「え、待って、本当にやるんですか!? あ、ちょっと……待って……待ってください!」

というわけで、ラフリーゼをまいて広場に向かった。