軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

14話 部下と合流してみた

グラシャラボラスに乗って、ソコナシ平原の上空を飛んでいると、遠くのほうで敵の大軍が布陣しているのが見えた。

その大軍と対峙しているのは――1人の少女。

『――あ、あの~! 危ないので、国境線の内側までお下がりくださ~い!』

メガホンを持った水色髪のメイドだった。

魔力も少ないため、一見すると、ただの人間にしか見えないが。

その姿は、七魔王・第4席――破壊王プリモで間違いない。

七魔王は意思疎通ができないと不便なので、多かれ少なかれ人間的な肉体や知性を与えているが、その中でもプリモは、かなり人間寄りの見た目をしているのだ。

もっとも、通常時に限るが……。

『あの~! ですから、こっちに来たら……って、わわっ!?』

返答というように、敵軍の両翼から魔弾や矢が飛来してきた。

ぼこぼこぼこ……と、プリモの体に無数の穴があく。

一見すると致命傷だが――。

『もう~! なんで、こんなひどいことするんですか~!』

プリモの体が、うにょんと一瞬で元に戻る。

そう……彼女は、プロトスライム。

スライム系の最上位種族にして、スライムの王だ。

変幻自在の体を持っているため、どんな形にでもなれる。だから、人間そっくりの姿にもなれるし、攻撃を回避するために自分の体に穴をあけるなんて芸当もできるわけだ。

「ちっ、化け物め!」「敵は1人だ! 殺せ!」「うおおおっ!」

遠距離攻撃が効かないと判断したのか、今度は騎兵たちが突撃してきた。その後ろからは長槍を持った歩兵たちが迫ってくる。

おそらく、敵が軍隊であることを想定して布陣していたのだろう。

1人の少女に対して、過剰とも思える攻撃。

しかし、それは悪手だ。

『うーん……警告は、しましたからねー?』

プリモの右腕が、ぶくぶくぶく……と泡立ち、水色の刃に変形した。さらに背中からは、鉤爪のついた無数の触手がめきめきと翼のように生えてくる。

そして。

――とんっ。

と、プリモが軽く地面を蹴ると。

彼女の姿が一瞬だけぶれ――――敵兵が一斉に細切れになった。

「…………は?」

生き残った敵兵たちが呆けたように大人しくなる。なにが起こったのか理解が追いつかないといった様子だ。

数秒ほどの沈黙のあと……。

「ば、化け物ぉぉ!?」「こんなの聞いてないぞ!?」「逃げろぉぉっ!」

わあああっ、と蜘蛛の子を散らすように逃げ惑いだす。

「あっ、もう! なんで逃げるんですか~!」

プリモがあせあせと腕を元の形に戻すと、両手をぐっと握りしめた。

「むぅぅぅ……!」

そして、ぷくぅぅと頬を膨らめ――。

――ごおおおおおっ! と、口からビームを発射した。

触れたものを存在崩壊させる、破滅の光――。

プリモの【破壊光線】だ。

水色の光線が平原一帯をなぎ払い、敵軍を呑み込んでいく。その光が去ったあとには……なに1つ残らなかった。

「うわぁ……」

……正気度が削られそう。

七魔王はあくまで〝防衛〟しかしないため、ちょっかいを出したほうが悪いと言えばそうだが……傍目から見たら、完全に悪役サイドだよな……。

人間が魔物を害獣として見ているように、魔物もまた人間を害獣としてしか見ていない。

だから、七魔王は人間に対して容赦がない。

とくにプリモは、最弱種族だった頃の名残か、とても臆病で争い事が苦手な魔物だ。

平和をなにより愛する魔物なのだ。

だからこそ、彼女は自分の平和を壊そうとする存在を……破壊する。

平和であるために、全てを破壊する。

ゆえに――破壊王。

もっとも敵意さえ向けなければ、七魔王の中で一番友好的なのだが……。

「ふぃー、お掃除完了です」

やりきった顔をしているプリモに、【透明化】を解いて近づく。

「た、大義だったな、プリモ」

「わん!」

「え……? あっ、主様! グーちゃん!」

プリモはこちらを見るなり、ぱぁっと無邪気な笑みを弾けさせた。それから、ぱたぱたと子犬みたいに駆け寄ってきて。

「えへへー、主様だー。主様の匂いがします」

すりすりと頭をこすりつけてくる。なんだか小動物みたいな懐きっぷりだ。

まあ、 一番目(プリモ) という名が示すように、このスライムは俺が初めて作った魔物だからな。プリモとの付き合いは、もう15年ほどになる。

「なんか大地が割れてるなー、と思いましたが、やっぱり主様だったんですねー」

「いかにも」

「あ、すいません。ちょっと地面が散らかってるので、すぐにお掃除しますね」

プリモが 挨拶(カーテシー) するように、メイド服のスカートのすそをつまみ上げた。

「いでよー、ミニプリモ軍団ー」

スカートの裏地から、ぽてりぽてりと人形のようなものが落ちてくる。

小さなプリモだ。おそらくは、プリモの分裂体だろう。

「ミニプリモたち、お掃除をお願いします」

「「「らじゃー!」」」

いそいそと死体のお片付けに向かうミニプリモたち。マスコットみたいな愛くるしい見た目をしているせいで、だいぶシュールな光景になっていた。

「それで、今日はどうしたんですか? 主様のほうから来るなんて珍しいですが」

「いや、ユフィールから連絡は来てないのか? 七魔王同士で連絡手段があると聞いたが」

「え? あー……」

プリモが決まり悪そうに顔をそらす。

「ユフィさんからの着信設定は、ミュートにしていたので」

「……ユフィール、いじめられてるの?」

「ち、違います。七魔王にいじめはありません」

疑惑がより深まった。

というか、着信設定って……なにげにハイテクだな、七魔王の連絡手段。

この世界にも“魔光通信”という遠距離の情報伝達手段はあるが、狼煙に毛が生えたようなものだし。

「それより、主様がここに来た理由は……」

まあ、それについては1から説明するしかないか。

「とりあえず、皇帝やめたから、今後はお前と行動することにした」

「え……? え……?」

きょとんとされる。

「今、なんて……?」

「皇帝やめてみた」

「う、うむむむ……ちんぷんかんぷんです……」

驚くというより信じられないといった様子だ。

たしかに、俺もゲーム知識がなければ、皇帝をやめようとは思わなかったしな。この反応はもっともだろう。

「えっと……本当にやめちゃったんですか、皇帝? ドッキリとかではなく……」

「ああ」

「な、なにかあったんですか? 主様がそんなあっさり皇帝をやめるとは思えませんが」

「いや、皇帝を続けるのが面倒になっただけだ。ちょうど後任も見つかったことだし、今後は自由に生きようと思ってな」

「な、なるほどー」

プリモはしばらく、頭の中で情報を整理するような間をあけてから。

「つまり……これからは、主様のお世話がいっぱいできるってことですね! えへへー」

と、間の抜けた笑顔で喜んだ。

切り替えが早いというか、初めから帝国への執着はとくになかったのだろう。それか、なにも考えてないだけか。プリモは知力値が低いしな……。

「それで、主様の現況については、七魔王のみんなにも伝えておくんでしたよね?」

「ああ」

それがプリモに会いに来た目的の1つでもある。

さすがに上司が部下に報告もせずにやめるのは無責任だし、七魔王のやつらが下手に混乱すると、うっかり人類を滅ぼしそうだ。

「というわけで、頼む」

「ではではー」

プリモがお掃除をしていたミニプリモをつまみ上げた。なぜかミニプリモが悲壮な顔をして、じたばたと抵抗する。

「いやー! たべられるー!」

「今日は食べませんよー」

「いつもは食べるのか」

「それより、ミニプリモさん、七魔王のみんなに連絡をお願いします。『主様が皇帝をやめました。でも、防衛は続けてください。あと、今度また、七魔王のみんなで鍋パーティーしましょうね』と」

「らじゃー」

ミニプリモは小さく敬礼すると――テケリ・リ! テケリ・リ! と名状しがたい通信音のようなものを口から出し始めた。

「というわけで、連絡終わりましたよー」

「む、今ので連絡ができたのか?」

「はい。ミニプリモたちはみんな感覚を共有してるんです。なので、このミニプリモに話したことを、遠くのミニプリモに伝えることもできるんですよー」

「なるほど」

「あ、さっそく返事が来たみたいですね」

プリモがそう言うのとほぼ同時に、ミニプリモの口からユフィールの声が聞こえてきた。

『――おい、第4席! なぜ、私の通信を無視した!?』

「あ、これはユフィさんからですね」

『おい、聞こえてるのか!? 返事をs……』

ぶちっ、と。

プリモが、ミニプリモの頭を握り潰して通信を切る。

「とまあ、こんな感じです」

「お、おう」

……ちょっと、びっくりした。

なにはともあれ、予想外に便利なスキルだな。

諜報なんかにも使えそうだ。

「あのー、そういえば」

「なんだ?」

「わたしって、主様に同行するんですよね?」

「そうだが」

「主様のお世話をいっぱいできるんですよね?」

「ああ」

「えへへー」

「……話はそれだけか?」

「あ、違います。この辺りの防衛はどうするのかなー、と思いまして」

「む……」

そういえば、ノア帝国は今、隣国から攻められてるんだったな。たいした敵でもないと思うが、主人公アレク率いる新生ノア帝国にとってはかなりの脅威らしい。

とりあえず、国境はあらかた断崖絶壁にしたものの、さすがに街道とかは残してあるしな……どうせ敵もそこから進軍してくるだろうし、敵に攻める意思があるなら、普通に攻められてしまうだろう。

周囲が戦争をやりたがっている限り、平和なんて訪れないものだ。

「……まったく、主人公というやつは世話が焼けるな」

イベント難易度を調整してやらなければ、主人公はすぐに全滅してしまう。

なんにせよ、俺が人生かけて守ってきた帝国が、ザコ国にあっさり潰されるのは面白くない。それに戦争なんて始まったら、俺のセカンドライフも台無しになる。

「くくく……となれば、やることは1つだな」

俺は不敵に笑ってみせる。

「――生意気な隣国を、ゲームオーバーにしてやろう」