軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

35.夜の後宮の庭にて③

どれほどそうしていたことだろう。

やがて冷たい風が吹いて、冬薔薇がざわめくような音を立てた。

バーナードが心配したように「そろそろ戻りましょうか」というので、わたしもそろりそろりと身体を離した。なんだか妙に照れた心地になって笑うと、バーナードもまた優しく微笑んでいった。

「ところで、殿下。最近、俺に対して何か隠し事をしていませんか?」

「えっ……?」

「騎士団の視察に行ったときも、仮面舞踏会のときも、たまに様子がおかしい瞬間があるんですよね。隠し事というか、俺に対して何か必死に気づかれまいとしているような」

「なっ……!? なななっ、なんのことでしょう!?」

思わず長椅子の上で勢いよく後ずさってしまう。だって不意打ちすぎる。先ほどまでの甘やかな雰囲気の後で突然の尋問はずるいのではありませんか!? この愚かな独占欲に気づいていたのですか!?

あからさまな動揺を見せてしまったわたしに、バーナードは何か納得したように頷いた。

「ああ、自覚しているなら結構です。無自覚に我慢しているのなら、どうにかしてお話しして頂こうと思っていましたが」

「その言い方は何か怖いのですけども!? わたしを守ってくれるのですよね!?」

「ええ、隠している自覚があるなら、無理に聞こうとは思いませんよ。まあ、我慢しないで欲しいとは思いますが。あなたが俺に対して我慢するなんて、労力の無駄遣いもいいところですから」

「無駄ではありませんよ。これはその……、わがままをいわないという、あなたとのお付き合いに置いて大事なことなのです!」

「あぁ今むりやりにでも聞きだしたくなった……。くそ、いいですか殿下。あなたのわがままなんていうのは、俺にとっては褒美のようなものです」

「褒美」

「そんな怪訝な眼で見ないでください。あなたは甘味が好きでしょう? 同じようなものですよ。俺はあなたのわがままとやらを聞くのがとても好きなので、どんどんいってください。───というかな、そんなものを我慢するなよ姫様」

後ずさった分だけ、バーナードが距離を詰めてこようとする。

わたしはささっと立ち上がり、時間を稼ぐように髪などを整えた。

「コホン。ところで話は変わりますが、バーナード」

「俺は変えたくありませんが、なんでしょうか殿下」

「御前試合の話です」

「俺に出ろと?」

「ええ」

わたしは夜空を見上げた。

そこに浮かぶ、暗闇の中で輝く銀の月を。

そして、同じ色の髪をした兄弟のことを思った。

「いろいろと考えたのですけど……、あなたにギルベルトを倒してほしいのです。殺すことはせずに、それでいて圧倒してください。あなたの剣で、ギルベルトの策略を断ち切ってほしいのです」

自らの死で完成する策を、ギルベルトに許すわけにはいかない。それが本人の望む綺麗な幕引きであったとしても。生きられる限りは生きよと告げることが王家の姫であるわたしの務めだ。

「ギルベルトの思惑を、粉々に砕いてほしいのです。あなたにならそれができるでしょう?」

「……できますし、俺にとっても望むところですけどね。それでも俺は、優先順位を変える気はありませんよ」

「わかっています。そちらはわたしがどうにかしましょう。要するに、闘技場で、あなたかチェスターが常に傍にいる状況を作れたらいいのですから、どうにか……」

うーんと考え込むも、すぐに名案は浮かばない。明日になったら、お兄様やチェスターにも相談しようと思っていると、バーナードが立ち上がった。

彼はまるで冷たい風からわたしを守るように傍に立って、目線を下げるように身体を傾ける。

「殿下、あなたの安全が確保できるなら、ギルベルトと戦うことに否はありません。そのうえで、一つ許可をいただきたい」

「なんでしょう?」

わたしが瞬きながら尋ねると、バーナードは薄く笑った。

「あの男を叩き潰す際のやり方は、俺に任せていただけませんか」

夜色の瞳の奥に、仄暗い怒りが見える。

わたしは少しだけ思案して、沈黙した。それから頷いた。

「あなたに一任します」

「……自分から願い出ておいてなんですが、そんな簡単に許可を出していいんですか? 俺は殿下の意に反することをしますよ?」

「今回の件において、一番の被害者はあなたです、バーナード。あなたはいつも理性的に対処してくれていましたけれど……、もしわたしがあなたの立場で、あなたの婚約者にふさわしい女性はほかにいるなどといわれたら、辛くてたまらなくなってしまうと思うのです」

「殿下……」

「ですので、ギルベルトの骨の一本や二本程度、折っても許します」

「あぁ……、骨というか、なんというか……、ご想像とはちがうやり方を考えています」

「命を奪うのは駄目ですよ?」

「わかっていますよ」

「再起不能にするのもだめです」

「心得ています」

「ではなにを?」

わたしは彼の本心を探るように、じっと見つめる。

バーナードはひどく楽しそうに笑った。

「悪いことですよ。少しだけね」