軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

09:奇跡①

ジョアンナがリネハンに来てひと月が過ぎ、季節も冬になろうとしている。

最近は肌寒い日も増えて、霜の降りる日もあったりする。

北にあるリネハンは冬になると、歩けないほど雪が積もることもあるそうだ。

王都やマーランドでは真冬でも小雪がパラつく程度なので、雪がそんなに積もることがない。

ジョアンナは、雪が積もったリネハンの景色を見ることを楽しみにしていた。

マーランドでは、あの2人の結婚式も無事に終わったようだ。

セリーナからも「どうするか」と軽く尋ねられたが、ジョアンナはもちろん出席を見合わせた。

リネハンで屋敷の人達に大切にされ、ここでの毎日が充実しているお陰だろうか……。

最近はマーランドについて考えることも減っていた。

あんなに泣いて怒っていたのに、その感情も少しずつ薄れている。

雪が溶けるように、彼らへの思いが消えて無くなる日も意外と近いのかもしれない……。

ある日の午後、ジョアンナは図書室で、熱心に本を読んでいた。

最近のジョアンナは、昼食をとったあとは、だいたい図書室で過ごしている。

いつからか、ジョアンナとヴィンセントは2人で昼食をとることが日課になっていた。

ヴィンセントと一緒にいると楽しくて、ついつい時間を忘れてしまう。

しかし、ヴィンセントは食事のあとはすぐに薬を飲まなければならない。

そして、薬を飲むと副作用ですぐに眠くなってしまうらしく、食後はベッドで休んでいることが多いそうだ。

そのため、ジョアンナは昼食後はすぐにヴィンセントの部屋を出ていたので、午後は時間を持て余していた。

最初のうちは庭を散歩したり、部屋で刺繍をしたりしてのんびり過ごしていた。

しかし、たまたま図書室に来た時に、一角にある本棚が目に入ったのだ。

その本棚には「毒」「医療」「蛇」「薬草」「伝承」など、ヴィンセントのために集めたと思われる様々な本が置いてあった。方々から取り寄せたのだろう……新しいものや、古ぼけたもの、他国の言語で書かれた本もある。

実はジョアンナは、少し前からヴィンセントのために自分に何ができるのかを考えていた。

しかし、何も良い案が浮かばないまま時間だけが過ぎていく……。

ジョアンナは「これだ!」と思い、すぐにセリーナに許可をもらって図書室に通い始めた。

セリーナの話では、この図書室に置かれた本は、すでに一度全て読んだものらしい。

しかし、何か新しい気づきがあるかもしれないと思い、ジョアンナも読ませてもらうことにした。

「ふぅー、これにも役に立ちそうな情報は無いわ……」

「少し休憩されますか?」

「そうね……お茶を淹れてもらえるかしら?」

読み終わった本を侍女のコリンナに渡すと、ジョアンナは肩を軽く揉んだ。

彼女がお茶を用意している間、ジョアンナは今日の昼食の時のことを思い出していた。

今日の昼食のテーブルには、少し前にヴィンセントが話してくれた料理が並んでいたのだ。

この料理には、この時期は入手が難しい食材が使われていると聞いていたので本当に驚いた。

どうやら、ジョアンナが「いつか食べてみたい」と言ったので、ヴィンセントが食材を取り寄せてくれたらしい。ジョアンナはヴィンセントの気持ちが嬉しくて、胸がいっぱいになった。

「そういえば……初めて一緒に食事した日の翌日も『グリのサラダ』を用意してくれてたっけ……」

少し照れくさそうに「グリのサラダ」を薦めたヴィンセントの顔を思い出し、ジョアンナの顔は自然とほころぶ。

ヴィンセントと過ごす時間が増えるにつれ、ジョアンナは彼をどんどん好きになっていた。

優しくて、いつも色んな話をジョアンナに聞かせてくれるヴィンセント。

彼と一緒にいると、時間が経つのを早く感じる。

彼はジョアンナの前では、いつも笑っていた。

しかし、セリーナが言っていたように、激しい痛みが襲ってくる時があるのだろう……。

隠してはいるが、たまに顔を 顰(しか) めて痛みを我慢していることに、ジョアンナは気がついていた。

そんな彼を見ていて、ジョアンナは少しでも力になりたいと強く思うようになっていた。

しかし、自分にできることが思いつかず、悩んでいた時に図書室の本と出会ったのだ。

ジョアンナはお茶を飲み終わると、目頭を軽く揉んだ。

そして、新しい本を手に取り、真剣に読み始めるのだった。

翌朝、ジョアンナは目覚めると横になったままで、透明な板を出した。

そしていつも通りに「ログイン」の枠に触れると、見慣れない板が出てきて思わず飛び起きる。

いつもは「ログインチケットを1枚手に入れました」という板が出るのだが、目の前にある板にはこんな文字が書かれている。

────────────────────────

連続ログイン 1,000日達成!

「ログインチケット:1,000枚」で「初回スペシャル特典」との交換が可能です。

交換しますか?

『はい』『いいえ』

────────────────────────

今日で、1,000日連続で「ログイン」の枠に触れていたようだ。

最近はきちんと確認せずに、すぐに画面を閉じていたので気が付かなかった。

どうやら「初回スペシャル特典」というものと、交換ができるらしい。

ジョアンナは驚いてその文字を見つめていると、板の下の所に新しく赤い文字が出てきた。

「交換終了まで あと100秒です」

赤い文字は1秒ごとに数字が減っていき、すでに「60秒」をきっている。

ジョアンナは考える時間が無いことに焦りを覚えながらも「はい」を選択することを決断した。

特典が何なのかはわからないが、今までどこにあるのかわからなかったチケットが使えるのだ。

ここは試してみるべきだろう。

心臓がバクバク音を立てるのを感じながら、ジョアンナは震える指で「はい」に触れる。

────────────────────────

本当に交換しますか?

『はい』『いいえ』

────────────────────────

すぐに「はい」に触れると、また新しい板が出てきた。

そこには「◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎」という文字が点滅している。

少し経つと「◼︎◻︎◻︎◻︎◻︎」と変わり、また少し経つと「◼︎◼︎◻︎◻︎◻︎」と変化していく。

ジョアンナはその文字の動きが面白くて、しばらく夢中で見ていた。