軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

32:ケルヴィンからの報告

ジョアンナはヴィンセントの部屋へ向かっていた。今日はケルヴィンからの誘いで4人で昼食をとることになっているのだ。

ジョアンナがヴィンセントの部屋に入ると、すでに3人が席に着いて楽しそうに話している。

セリーナがジョアンナに気がついてこちらを見て笑顔を向けた。すると、セリーナの視線に気がついた2人も、ジョアンナに目を移して微笑む。

ジョアンナも自然と笑顔になり、少し早足で移動していつもの席に着いた。

最近、ヴィンセントは魔物の素材に興味があるらしく、本を何冊も読んでいるらしい。

魔物の討伐経験のある3人は、魔物についての話で大盛り上がりだ。美味しそうに料理に手を伸ばしながら、様々な話をしている。中でもセリーナが一番楽しそうで、彼女は雪が溶けたら魔の森に行くのだと張り切っている。その隣では、ケルヴィンが苦い顔で困ったように笑いながらセリーナを見つめていた。

魔の森の浅い部分は、地元の人も薬草採取などで立ち入る事があるそうだ。 稀(まれ) に小さな魔物が出ることはあるが、大人であればそんなに危険ではないらしい。

そんな話を興味深く聞いていたジョアンナだったが、ふいにセリーナと目が合った。

「春になったら私がジョアンナを魔の森に連れていくわ。薬草や不思議な植物も生えているし、魔の森を少し歩くだけでも結構楽しいわよ」

セリーナは瞳を輝かせてジョアンナを見つめている。ケルヴィンが慌てた様子で彼女を止めているが、彼女の勢いは 止(とど) まることを知らない。

そんな2人を見ながら、ジョアンナとヴィンセントは目を合わせて小さく笑った。

結局、騎士も連れていくことを条件にジョアンナはセリーナと魔の森に行くことになった。満面の笑みを浮かべて瞳を輝かせているセリーナ。その隣では、ケルヴィンが疲れたように笑って小さく息を吐いた。

そんな彼には申し訳ないが、ジョアンナは魔の森に行くことを楽しみにしていた。

そんな風に話に花を咲かせながら食事は進み、デザートのフルーツを食べ終えたところで人払いがされる。

使用人たちが全員退室すると、ケルヴィンは真剣な表情で話し始めた。

その内容はジョアンナが想像もしていないものだった……。

まずは……ヴィンセントに毒を盛っていた医師のパオロの話だった。

彼は王宮からの紹介でこの屋敷に来ていた。王都に戻った王太子のセドリックが調べたところ、パオロを推薦したのは第2王子のクリフォードだった。セドリックがクリフォードに話を聞くと、パオロとは婚約者のマルサス侯爵家の紹介で知り合ったそうだ。

何人かの候補の中から最終的にパオロが選ばれたのには、幾つかの理由があった。

彼が優秀な医師だったこと。

彼の経歴や人柄に問題が無かったこと。

彼の住む領地がリネハンと近かったこと。

クリフォードの強い推薦があったこと…………などだ。

ただ、ケルヴィンが独自のルートで詳しく調べると、パオロには多額の借金があった。

どうやら彼は、娼館で知り合った女性に夢中になり 貢(みつ) いでいたらしい。そのせいで借金が膨れ上がり、金に困っていた。

その借金は、現在では半分程度まで返済されている。金の動きに不審な点があったので調べていくと、彼はマルサス家から秘密裏に援助を受けていた事がわかった。

このあたりまで情報を 掴(つか) んだところで、パオロは馬車の事故に 遭(あ) い亡くなってしまったそうだ。

ケルヴィンの予想では、クリフォードかマルサス侯爵が手を回して彼を処分したのではないかという話だった。

クリフォードは、元々は王位に興味を示していなかった。

しかし、婚約者の影響を受けてか、最近はクリフォードを推す人達と積極的に関わっている。今の彼ならば、セドリックと親交の深いリネハン家のヴィンセントを狙ったのも頷けるのだそうだ。

ジョアンナは、貴族の世界が汚い世界である事はもちろん知っていたが、これには顔を青くした。学園から出たばかりで 揉(も) まれていない彼女には、人の命がこうも軽く扱われるということが怖くて仕方なかったのだ。

そして、もうひとつ衝撃的な事が告げられる。

2年前のヴィンセントが蛇に噛まれた日。魔の森に同行していた騎士が、リネハンから戻ってすぐに事故で亡くなっていたのだ。

その事故に不審な点が無かった事で、当時は詳しく調べられなかった。しかし、ヴィンセントが呪いを受けていた事がわかり、関係者が調べられた。その中で、彼についても調べ直されたのだ。

その騎士は、ある男爵家の当主が平民の女に生ませた子供だった。

彼は平民として母と2人で暮らしていた。しかし、15歳の時に【剣術】のスキルを授かり、男爵に引き取られることになった。

数年後、騎士の実の母は病に 侵(おか) される。母が生きるには高価な薬を飲み続けなければならず、彼はその薬代を工面するのに苦労していた。

調べていくと、この騎士もマルサス家から密かに援助を受けていた可能性があるそうだ。そして彼の母親も、彼が亡くなったのと同じ時期に強盗に 遭(あ) い命を落としていた。

貴族の内情に詳しくないジョアンナでも、この2つの話を聞いただけでマルサス侯爵が怪しいと感じた。

しかし、ケルヴィンの話では証拠がどうしても見つからないそうだ。マルサス侯爵は相当のやり手で、これまでも悪い噂はあるものの、彼を追及できる証拠が出てきた事が無いらしい。

王家としても、そんなマルサス家の娘と王子を婚約させたくなかった。しかし、クリフォードが強く彼女との婚約を望んだ事や、派閥の調整のためにやむ無くこの婚約が認められた。

ただし、今後の争いを避けるために、クリフォードは結婚後は臣籍降下して王位継承権を手放すということが条件だったらしい。

今回も、マルサス侯爵を追及できるほどの証拠は、残念ながら得られなかった。しかし、ケルヴィンの勘ではこの全てに彼が関与しているのは間違いないそうだ。

それに、ヴィンセントが噛まれた黒い蛇も、元々はセドリックを襲おうとしていたのだ。

もし、ヴィンセントではなくセドリックが噛まれていたら……今頃はクリフォードが王太子になっていただろう。

それを聞いたジョアンナは、この屋敷で話したセドリックの顔が頭に浮かび、背筋が凍る思いがした。