軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

【過去編】 状況は変わる 7

イリーニャから得た情報をもとに、緊張しながらも昼食に呼ばれて部屋から出た。ちなみに服はイリーニャが着替えさせてくれた。もうお婿にいけないくらい恥ずかしい。

服装はギラギラしたものを想像していたが、落ち着いた黒っぽい服である。ピアノの発表会に出れそうなシュッとした感じだ。もちろん、美少年であるラーシュ君には似合い過ぎて婦女子が鼻血を出すレベルである。

軽く深呼吸して廊下に出ると、その長い廊下に驚愕する。白い石の床と壁、天井は赤茶けた木材が使われていた。窓は縦長の窓が等間隔に並び、廊下の採光をしてくれている。しかし、広くて長い。学校の廊下くらいでしか見ないぞ、この長さは。

そんなことを思いながら、案内人のイリーニャの後について廊下を進む。歩きながら窓から見える景色を確認すると、綺麗に整えられた中庭が目に入った。そして、今歩いている場所が二階であることも判明する。

廊下にはあまり人は通っておらず、唯一もう一人だけ普通の人間の執事っぽい男性とすれ違った。すれ違い様に僕に一礼はしてくれたので、会釈だけ返しておく。驚いた表情をしていたが、会釈するのは変だっただろうか。

そうこうしている内に、イリーニャが大きな扉の前で立ち止まった。白い石の壁に装飾の施された木製の両開き扉があり、二人でその前に並んで立つ。

その扉を緊張した様子でノックして、イリーニャは一歩後ろに下がった。

「ここからは私は入れません」

後ろでイリーニャにそう言われて、ものすごく不安になってしまう。子供の特権である我が儘を発動しようかと思ったが、イリーニャも不安そうな表情だったので可哀想かと思い直した。

「入るが良い」

扉の奥からそんな声が聞こえ、同時に中から扉が開かれる。どうやら左右に従者が待機していたようだ。二人の男が扉を開くと、奥にはこれまた長いテーブルがあった。白い布が掛けられたテーブル。そして、奥に広い部屋。

テーブルの最奥には細い金髪碧眼の男性が座っており、その斜め前には少しふくよかな茶髪の女性が座っていた。どうやら、当主でダディのヨハンソンと継母のオリヴィアのようだ。顔を見たら何か思い出すかもと思ったが、まったく思い出さないどころか、懐かしさも親しみも感じなかった。

おお、これがヨハンソンとオリヴィア、くらいの感覚である。

「座れ」

「は、はい!」

ヨハンソンが顎をしゃくりながら指示をされたので、背筋を伸ばして返事をしつつ、オリヴィアと反対側にあたる椅子へと向かった。

椅子に座り、綺麗に整えられたヨハンソンの髭や、グラスを持つオリヴィアの指に付けられた指輪の大きな宝石の数々を眺めたりしていると、すぐにパンやスープ、野菜、果物などがテーブルに並んだ。パンは丸い焼き立てのものが四つ。スープはお皿が大きいくらいだが、野菜や果物は色とりどりに山盛りだ。ヨハンソンやオリヴィアの前にはもう並んでいたので、僕の分だけでこの量らしい。

どう考えても子供の食べる量じゃないな、などと思っていると、最後に鶏肉が一羽丸焼き状態でテーブルに置かれた。これ、皆で切り分けて食べるのかな?

そう思って顔を上げると、しっかりと皆の前には同じものが置かれていた。オリヴィアの鶏肉にいたっては半分ほど骨になっている。おい、皆で一緒に食事開始じゃないのか。ん? 待て待て。ナイフとフォークはあるが、料理の作法も合っているか分からないではないか。よし、敵情視察だ。それしかない。

料理の数々が並ぶのは良いが、頭の中はパニックである。目を皿のようにしてヨハンソンとオリヴィアの食事風景を眺める。使っているのはナイフとフォークがメイン。スプーンも時折使っている。良かった。似たようなものらしい。

安心してスープから口にする。スプーンで一口ずつ掬い、口に運ぶ。豊かな果物の香り。温かいスープだが、まさかの柑橘系の味である。甘みと酸味を味わいながら飲んでみると、意外といけた。

次に、鶏肉を切り分けてパンと交互に食べてみる。パンは香ばしい匂いが良いが味は普通である。鶏肉は皮がパリッとしていて美味しい。ただし、味付けは塩だけっぽい。いや、美味しいけどね。

貴族の食事にしては少しシンプルかも、などと思いながら食事をしていると、不意にヨハンソンが眉根を寄せた。

「……ナイフの扱いが上手くなったな。多少は作法を覚えたか」

「あ、ありがとうございます」

突然話しかけられてスープを噴き出しそうになった。一度呼吸を整えてから返事をすると、オリヴィアが鼻から息を吐いて顔を上げる。

「もうラーシュ様も五歳でしょう? このくらいはできないと笑われてしまいますわ」

「ふむ、そうか」

オリヴィアの言葉に、ヨハンソンは軽く同意する。オリヴィアよ、ラーシュ君は褒めて伸びる子だぞ? 分かったな?

心の中で継母へ注意の言葉を述べつつ、黙って食事を続けた。

こちらへの関心はその一言で無くなったのか、オリヴィアは口の端を上げてヨハンソンへ視線を移す。

「ヨハンソン様? 我が子のニルスとエリックはまだ二歳と一歳ですが、とても聡明な子たちです。すぐに礼儀作法も覚えるでしょう」

「うむ、楽しみにしているぞ」

オリヴィアの言葉に、ヨハンソンは深く頷いて答えた。アウェイ感すごいじゃないの。