軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

戦術コーチ就任 32

翌日。疲労困憊のアーベルは起きてこなかった。アーベルの世話に手の空いた住民が掛かり切りになっているが、他の住民はそれぞれ僕の指示の下、各職業適性に合わせたトレーニングを交えて狩りに出ている。

狩りに出ていないのは魔術師、聖職者、商人の三組だけだ。それに僕を加えて計七名である。

「うむうむ。これは良い流れだぞ」

気が付けば、アーベルのスキル習得という結果を受けて、僕が村のブレーンのような存在になった。いや、 戦術(タクティカル) コーチの方が格好良いか。今度からラーシュ戦術コーチと呼んでもらいたい。

「あの、ラーシュ様? これでどうでしょう?」

と、一人で腕を組んで微笑んでいるところに声を掛けられた。近くで聖職者としてのスキルを練習中のイリーニャである。表情をキリっとさせてから振り向く。

「なにかね」

「あ、聖なる光なんですけど……」

戦術コーチとして威厳ある感じで振り向いたのに、目の前に眩い光があって目が潰れた。

「ぐわぁあああ!」

「あ、も、申し訳ありません!」

世界が白で染まり、隣でイリーニャが謝罪する声が響く。低レベルの魔獣が嫌がる聖なる光というスキルを練習中だったのを忘れていた。よく考えたら室内が異様に明るいではないか。馬鹿か僕は。

「だ、大丈夫……でも、ちょっと待ってね」

「ご、ごめんなさい……」

落ち込んだイリーニャの声に笑って応じる。少ししたら回復したので、改めて聖職者のスキルチェックとトレーニングについて教えておいた。流石に治療するスキルは怪我人がいないとどうしようもないので、狩りに出た獣人達にはたとえ擦り傷でも報告してほしいと伝えている。どんな小さな傷でも貴重なスキル対象者だ。聖職者が最初に覚える小奇跡という回復スキルを練習する予定である。

そんなこんなで午前中じっくり聖職者と魔術師の三名にスキル講習をしていると、アーベルが起きてきた。看護をしていた三名の商人を引き連れての登場である。

「……随分と寝ていたようだ」

「おはよう? こんにちは?」

「む……おはようと言っておこう」

そんな挨拶を交わすと、アーベルは対面するように目の前にどっかりと座り込んだ。なんだね。圧迫面接が始まるのかね。そんなのされたら泣くぞ、ラーシュ君は。

そう思ってジッとアーベルを見ていると、突然頭を下げてきた。

「……ありがとう。無事に、スキルを覚えることができた」

「え? いやいや、アーベルさんが努力した結果だよ」

驚いてそう答えると、アーベルは怒ったような顔で首を左右に振る。

「これまで態度には出していなかったが、俺はスキルを覚えられないことに劣等感を感じていた。狩りが上手いからといって村長に選ばれたが、内心では本当に村を率いるという立場が相応しいのか不安だったのだ。だが、今回のことで少し気持ちが軽くなった気がする。それは、お前のお陰だ」

そう言われて、ちょっと照れる。どうやらアーベルは真面目な顔をしていると怒っているように見えるらしい。ナチュラル威圧系獣人アーベル。心の中で茶化しつつ、照れ隠しをする。

そんな中、寝たきりだったアーベルの世話をしていた商人たちが顔を見合わせる。

「アーベルさん、けっこう顔に出てたけどな」

「そうそう」

「村長、分かりやすいし」

そんな声が聞こえ、アーベルの眉間に皺が刻まれる。その光景に笑っていると、商人の獣人達がこちらに顔を向けた。ちなみに、名前は男性がブルーノとボー。女性がカリネの三名である。何故か全員二十歳前後ということで、よく三人で行動している。

その中の一人、ブルーノが口を開いた。

「ラーシュ。僕たちも何か練習できないか?」

ブルーノがそう言うと、カリネが眉根を寄せて頷く。

「皆頑張っているから、少しでも何かできないかなって……」

カリネがそう口にし、ボーも小刻みに頷いていた。三人は比較的控えめな性格をしているのだが、村の為に何かしたいという気持ちは強い。しかし、残念ながら今の村の状態では商人が生かせるスキルはないのだ。

「……よし。三人とも、 投石銃(スリングライフル) は習得したね? それじゃあ、狩りに加わって一体でも多く魔獣を狩ろう。そうすると熟練度が上がるからね」

「上がったらどうなるんだ?」

「……まぁ、いずれ良いスキルを覚えられるから」

ボーの素朴な疑問に、上手く答えられずに誤魔化してみる。それにボーたちは三人でがっくりと項垂れた。いや、本当にいずれは強くなるんだけどね。それに、村の為にはとても良いスキルをいっぱい覚えることができる。衣服を作ったり、家具を作ったりもできるようになるのだ。

「商人は村の防衛が強くなった後に必要な存在になるから、それまでにいっぱい魔獣を倒しておいてね」

「……へい」

フォローをしてみたが、三人とも疑心暗鬼な目で返事をしていた。いやいや、本当だってば。