軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

獣人たちの村 16

「……っ! ラーシュ様!」

名を呼ばれて、驚いて振り返る。そこには涙目で木製の戸を開けて立つイリーニャの姿があった。イリーニャは手に木製の御椀のようなものを持っていたが、それを取り落として走ってくる。

「よかった!」

そう言って僕の頭を両手に抱き、涙を零す。そんなイリーニャの姿に、鼻の奥がツンとして泣きそうになってしまった。

「イリーニャも無事だったんだね。良かった……もしかして、ここに運んでくれたの?」

そう尋ねるが、イリーニャは泣いていて答えられない。落ち着けるように背中を何度か叩いていると、不意にイリーニャが現れた戸の方から声がした。

「……起きたのか」

少し低い声だった。顔を上げると、そこには黒い髪の大男が立っていた。身長は二メートル近いのではないかと思ったが、戸を潜ってこちらに歩いてきて違うと分かった。身長は百八十から百九十くらいだろう。その代わり、筋肉質で肩幅が広い。半袖の布製の衣服を着ていたが、その上からでも分かるほど筋骨隆々といった雰囲気だ。髪は長く、オールバック気味に後ろに流している。そして、頭には三角形の大きな獣の耳があった。

「あ、初めまして」

何となく挨拶をしておこうと思ってそう声を掛けた。すると、男は目を細めて僕を見下ろし、小さく頷く。

「……アーベル。アーベル・ディーターだ。イリーニャの主人というのは本当か?」

アーベルと名乗った男にそう言われ、一瞬戸惑いつつも答える。

「あ、まぁ……」

そう答えてから、あることに気が付く。近年、貴族の関係者を誘拐して金銭を要求する者が増えているという。もしや、これはあわよくば貴族なら身代金を狙えると思われている?

そこまで考えて、まぁどっちにしろ僕には誘拐するほどの価値もないから良いか、と思い直した。自嘲気味に笑って首を左右に振っていると、アーベルは眉根を寄せて眉間に皺を作る。

「……何を笑っている」

警戒したようにそう尋ねられ、苦笑しつつ答えた。

「あ、いえ……僕みたいな子供が主人なんて、信じられないだろうな、と」

そう言うと、アーベルは鼻を鳴らして背を向けた。

「……獣人というだけで奴隷にされる者はこれまで多くいた。子供が主人でもおかしくはあるまい」

少し棘がある言い方でそう告げると、アーベルは部屋を出て行ってしまった。それを無言で見送り、ようやく落ち着いてきたイリーニャに声を掛ける。

「イリーニャ、ここは何処なのかな?」

そう尋ねると、イリーニャは鼻をすすりながら顔を上げた。

「ここは、森の中にある獣人の村です。その、元奴隷の獣人達で頑張って森の中に村を作ったみたいで……」

「森って、僕たちが来る予定だった森? あの、大型魔獣も出るって言われている危険な森を切り開いて作ったってこと?」

イリーニャの言葉に驚いて聞き返す。それに頷いて、イリーニャは窓の外から村の様子を見下ろした。井戸の傍には二人の女性が立っており、反対側の家の奥からは若い男が歩いてきた。その誰もが頭には獣の耳が生えている。

「……昨日、私たちはこの村の人たちに助けられて、村まで連れてきてもらったんです。ラーシュ様は馬車が倒れた時に地面に叩きつけられてしまって……」

「え? じゃあ、一日経っちゃってるってこと? 他の皆は?」

どうやら、僕たちを助けてくれたのはこの村の住民らしい。だが、どんどん気になることが出てくる。矢継ぎ早に質問をすると、イリーニャは少し慌てながらも回答してくれた。

「あ、は、はい。あれから一日経っていますね。森の中を移動しただけなので、他の皆がどうなったのかは分からず……」

「そ、それはそうだよね。イリーニャは大丈夫? 怪我はない?」

「あ、はい! 私は何も……」

イリーニャが答えていると、再び部屋を訪ねてくる者が現れた。

「意識が戻ったって?」

「調子はどう?」

少し高めの男の声。それに二人で振り向くと、そこには細身の男が二人立っていた。似たような身長で揃って白い髪の二人だ。ふわふわの長い毛と大きな獣の耳だ。片方は後ろで結っており、もう片方はそのまま下ろした状態だ。見た目は良く似た二人だが、片方は耳が上向きで片方は耳が下向きだった。

「あ、ミケルさんとロルフさん」

イリーニャが名を呼ぶと、二人は同時に片手を挙げた。

「よっ」

「その子、ラーシュだっけ?」

明るい雰囲気でそう言うと、二人はこちらを観察するように見てきた。どちらがミケルでどちらがロルフかは分からないが、恐らく双子だろう。ソックリである。

そんなことを思いながら二人を見ていると、イリーニャが笑顔で僕を見た。

「こちらのお二人が助けてくれたんですよ」

「あ、そうなんだ! ありがとうございます! ミケルさん、ロルフさん!」

イリーニャの言葉に、すぐに感謝を伝える。あの森で気を失って助かったのは正にこの二人のお陰だろう。そう思っての感謝の言葉だったのだが、二人は何故か驚いたような顔をして固まっていた。