作品タイトル不明
31 王都の放火犯
夜になって王太子の指令を受けた小隊が、イースデン公爵家に集まっていた。
「ナーディア・イースデン公爵令嬢に放火の嫌疑あり。軍での取り調べの為にご同行をお願いします」
小隊長がイースデン公爵に王太子の書状を見せる。
「娘は、2日前からガナッシュの港町に行っており、まだ帰って来ていません。放火とはいつのことですか?」
王都から港町まで馬車で1日程の距離で
公爵令嬢にその間も、1週間ほどの予定で滞在している。
王都でイースデン公爵令嬢と見られる女性が火を点けたのは、その日の夕方のことだ。幸いにしてぼやで消火できたが、放火犯の姿は人目に付き、イースデン公爵令嬢と呼ばれていたとの目撃は多い。
その情報をイースデン公爵が知らぬはずがない。
何者かが、ナーディアを 騙(かた) り、罪を 擦(なす) り付けようとしている。公爵家の総力で叩き潰すつもりを隠して、穏やかに対応する。
「ご令嬢がガナッシュにいるのは間違いないのか?」
小隊長は、相手がイースデン公爵本人だというのに 横柄(おうへい) な態度で確認する。
ゼグウェイ・イースデン公爵は、王太子の威を借りた小者と小隊長を位置づけする。
「貴公、名前は?
ここをイースデン公爵家と知っていての狼藉とみなすぞ」
脅しをかけるように言っても、小隊長はナーディアが犯人と確定していてひるまない。
「娘は、ガナッシュの港町にいる。確認するがよい。お引き取り願おう」
イースデン公爵は、家令に指示をして玄関の扉を閉めさせる。
鼻先で扉を閉められた小隊長は、激怒するのだが、公爵家に強行突入する勇気はない。
その日のナーディアは、朝から漁船を探して港町を歩き回り、昼過ぎには船酔いで宿に運ばれ医師の診察を受けている。多くの目撃者と証人がいて、崩しようのないアリバイがある。
ガナッシュの街に人をやれば、すぐに情報が手に入った。
王太子の中でのナーディアの印象は、言われた事は優秀にできるが、常に受け身、自我のない面白みにかける人間だ。
婚約解消をして1週間も経たないうちに静養に出るとは思いもしなかった。
ナーディアという犯人がいる前提での対策だったので、根本からゆらぐのだ。
ナーディアは気狂いで火をつけてもおかしくない、それが大前提だった。
王太子の狂言は、ナーディアが王都にいないことで失敗に終わり、イースデン公爵に新たな報復の種を植え付けたのだった。