軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

136 北の地

戴冠式を終え、アトラス王国は急速に政情安定しだした。

クーデターの処理も戦争の処理も、新体制が機能して無駄な手続きが排除された。

前王は隠居で、身柄を離宮に移して軟禁状態が続いている。

王妃は衰弱死と発表されたが、牢で暗殺された。

前王太子のバーミリオンの噂は流れてこない。ユークリッドは把握しているようだが、表立っての行動をしていないのは確かである。

「うーん、髪が決まらない」

鏡の前に居座っているのは、花婿である。

「とてもお綺麗です」

花嫁に言うべき 台詞(せりふ) を、侍女は花婿にいう。

「そうかな? こちらのブローチの方が映えないかな?」

それは先ほど変更したものですよ、と思っても侍女は笑顔で 頷(うなず) く。

アルチュールは時計を見て、妥協したようだ。

「花嫁より遅れて聖堂に入るわけにいかない。そんな格好悪い事できない」

鏡の前で一度ターンをして服の動きを確認すると、アルチュールは控室を出て行く。

アルチュールとナーディアの結婚式なのだが、早朝からアルチュールが鏡にへばりついていたのだ。

ヴィスタル侯爵家から派遣された侍女は慣れたものだが、聖堂の修道士たちは驚いて見ている。

アルチュールは結婚を機にヴィスタル侯爵を継承することになり、宰相補佐官の役職も返上することになっている。

聖堂の扉が開かれ、花嫁のナーディアが入って来る。

祭殿の前で待っているアルチュールは、満面の笑顔をむける。

「綺麗だ、ナーディア」

それは本心なのだろうが、多少は花婿の自分に酔っている。

ナーディアも付き合いが長くなると、アルチュールの扱いも身に付いてくる。

「アルチュールも、とても似合っていて綺麗よ」

アルチュールの差し出した手に、ナーディアが手を乗せる。

大司教の 詔(みことのり) が始まり、結婚の宣誓をして夫婦となる。

その第一歩を、今、歩き出す。

「ヴィスタル侯爵夫人は在宅か!?」

ヴィスタル侯爵家に駆け込んで来たのは、王であるユークリッドだ。ヴィスタル侯爵家の玄関で対応しているのはヴィスタル侯爵のアルチュール。

「今日は買い物に行くといって、昼前に出かけたが?」

「買い物って、北部地方でするのか!?」

大声を出すユークリッドの手には、イレーヌの手紙を握りしめている。

それは手紙というより、書置きだ。

北部地方という言葉で、ユークリッドも気がついた。

アーニデヒルトの欠片を北部地方に探しに行きたい、と以前から聞いていたからだ。アルチュールも引継ぎで忙しく、生返事しか返していなかった。

「ナーディアはどの馬車で行った? 護衛は何人連れて行った!?」

家令に聞きながら、アルチュールは走り出している。

ナーディアの後を追うのだ。

北に向かう街道は限られている、そこを追えば追いつけるはず。

北に向かう街道には紋のない馬車が1台。

「好かれてるのはわかっているけど、あれじゃ王宮に監禁されているみたいで、どこにいくにも報告しないといけないの」

「うわぁ。伯父様、封建的ね。他の人にはそうでもないのに」

ヴィスタル侯爵家と王家の護衛に守られて、馬車はすすむ。

「妻を大事にしてくれるのはありがたいけど、程度があるわ。

試しに、妻は家出できるって証明するの」

イレーヌの言葉は、ナーディアの言葉である。

アルチュールも、ナーディアに過干渉である。こんな風になるとは思わなかった。

口ではナーディアの意志を尊重すると言うけど、アルチュールの気に入らないもの却下されるのだ。

心配させるのは申し訳ないけど、少しは痛い目をみせてやる。

北の地は、どんなところだろう?

アーニデヒルト様の欠片が、すぐに見つかるかしら?

すぐ後ろまでアルチュールとユークリッドが追いかけてきていると分かっていても、二人は会話を続ける。

北に行くのは、初めてなので楽しみなのである。

追いつかれたら、ちゃんと説得するつもりだ。今度は話を聞いてくれるだろう。