作品タイトル不明
131 停戦への動き
バーミリオンは元々優秀であった。
どこで間違ったかはわからない。
婚約者がいながら他の女性と親しくしたからだろうか、それ以前に間違ったからそのようになったのか。
バーミリオンは顔を手で覆って泣いた。
自分が正しくあれば、母もこのようにならなかった。
母の不貞の現場は、 醜(みにく) かった。
自分もそうであったのだと思う。
戦争を止めるべき立場であったのに、デセウス王国で進言していた。
結果はどうだ、たくさんの兵が死に、もっと多くの兵が傷に倒れている。
戦地にいた。
ただただ、ヴィスタル侯子と戦いたかった。
あの頃には分かっていたのだ。ナーディアとヴィスタル侯子には信頼関係があることを。そして、ヴィスタル侯子がナーディアを守ることを。
「ナーディア」
子供の頃から側に居た。
君はもう違う道を進んでいて、僕は昔を懐かしむばかりだ。
あの頃の僕達にも信頼があったから。
「・・・ナーディア、ナーディア」
自分は戦犯として処刑されるだろう。
だが、最後にこの気持ちを持っていける。
停戦は急激に進んだ。
横領した補助金も、偽造紙幣も多くがデセウス王国に流れただろうが、確定できるまでの証拠もなく、両国とも話題にのせなかった。
偽造紙幣が作れるということを、他国に知られるわけにいかない。
改良すれば他国の紙幣も 刷(す) れるという事が実証されている。
アトラス王国は沈黙を決めた。
敗戦国デセウス王国からの賠償金、と国境地帯の領土移管。
捕虜の交換。
その捕虜の中にバーミリオンの名前があげられた。
デセウス王国からの強い希望がバーミリオンの返還である。
シェラビー王女の婚約者は外国の王族であったため、デセウス王国の敗戦が確定すると破棄となった。
バーミリオンとシェラビー王女を 娶(めあわ) せ、デセウス王国の建て直しに働かすようだ。
戦前の会議でバーミリオンの有能が証明されていた。
国境の砦に、アルチュールが戻って来た。
宰相から預かった停戦の書類を持って来たのだ。
だが、砦にはアルチュール一人で来たのではない。複数の文官と多くの医師、衛士と共にである。その中にイレーヌとナーディアがいた。
宰相やイースデン公爵、ヴィステン侯爵の強い反対があり、他の貴族達からも 侮蔑(ぶべつ) の視線を投げかけられたが、ナーディアとイレーヌは押し切ったのだ。
アーニデヒルトが夜な夜なせっつかすせいである。
「イレーヌ、なんて危険なとこに来たんだ」
イレーヌの姿を見て、ユークリッドは駆け寄るなり抱きしめる。
「ユークリッド様」
周りから見れば、長く離れている婚約者にイレーヌが心配して無理やり会いに来たようにみえるだろう。
だが、抱きしめられたイレーヌは、ユークリッドの耳元で 囁(ささや) いた。
「戦場にあるアーニデヒルト様の石を、人知れず回収しないといけません」
デセウス王国はロドリゲスが王として調印の為に国境に来ている。
明日の朝からの調印式、以後、それに伴う諸手続きで大量の人間が動く。人目を避ける事はできない。
「今夜しかない」
ここは戦場だぞ、奇襲を 阻(はば) むために警備は厳重だ。人目のないところなどない、と思いながら答えた。