作品タイトル不明
108 王宮
部屋の外が騒々しくなって、イレーヌは聞き耳をたてる。
扉の外の護衛と女性の声が聞こえる。
「きゃああ!」
扉の外から女性の悲鳴が聞こえ、同時にドンと大きな音がして扉が開かれ、女性が転がり込んで来た。
悲鳴に 躊躇(ちゅうちょ) した護衛の 隙(すき) をついて、女性が扉に体当たりしたのだった。
何があったのか驚いているイレーヌ目掛けて、女性が入って来る。隠し持っていた短剣が銀色に光る。
「殿下をどこに隠したの!?」
イレーヌに届く前に、護衛に取り押さえられた。
「殿下を返せ!!」
暴れる女性の顔には見覚えがあった。
ルシンダ・コーフェント
バーミリオン王太子が側妃にと望んだ男爵令嬢で、王宮に部屋を与えていた。
イースデン公爵令嬢と王太子の婚約が解消されてから、王太子はルシンダと距離を取っていて、周りからもルシンダは扱いに困る存在になっていた。
ユークリッド達が王宮を掌握した時には、バーミリオンの姿はなかった。
王宮中を探したが確認することが出来ず、混乱に乗じて王宮から離れたと考えられている。
イレーヌはそういう事は知らされていない。
そして、何も言わず置いていかれたルシンダは、状況がわからずバーミリオンを探し回っていたのだ。
護衛に取り押さえられて暴れるルシンダは、バーミリオンにエスコートされて笑っていた面影はない。
イレーヌはその様子を眺めていた。
婚約者だったナーディアとは反対のタイプである。
少し可愛い顔、高位貴族には及ばない教養、考えるより行動する。
バーミリオンの気持ちが、わかる気がする。
イレーヌがトーマス・ダフネアと婚約したのも、トーマスが兄アルチュールとは反対のタイプだったからである。
兵から連絡がいったであろう、ユークリッドとアルチュールが走って来た。
「大丈夫か!?」
アルチュールがユークリッドより先に部屋に入ってきて、イレーヌがケガをしていないか確認をしている。
今は、兄に大事にされているとわかるけど、昔は、兄の細かい指摘に 辟易(へきえき) していた。
遅れて入って来たユークリッドは、ルシンダに冷たい目で見る。
「連れていけ」
兵に短く指示をして、ルシンダを地下牢に連れて行かせる。
イレーヌはルシンダの声が遠ざかるのを聞きながら、バーミリオンに振り回されたルシンダが、トーマスの姿とダブってみえるのだった。