軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

モリーたちとのお茶会 3

「きっかけは、そう……。

そこの三人――バルタザール君とレオン君とハロルド君を始めとする何人かの有力者が、イラコちゃんと弟さんにお金を騙し取られたことかしら?」

「イラコ殿下、そんなことを……?」

右隣のマミヤちゃんが、驚愕して翡翠の目を見開いてみせる。

うんうん、意外だよな。

この俺イラコは、黒髪こそ縮れているが、性根は真っ直ぐな男。

そんな普通の好青年が、かように強面な金持ちたち相手に悪さをしていたなんて、さぞかし意外――。

「――イラコなら、そのくらいやってもおかしくないと思っていた。

というか、ジョーダン 兄(にい) があんなになったのは、確実にそれが原因だと思う。

今、納得がいった」

なんということだ。身内からは一ミリも信頼されていなかった。

レモンティーをベースに、ブルーベリー酢とフルーツシロップの爽やかな酸味と甘みが楽しめるノンアルカクテルを一口味わいながら、答える。

「えー? 俺のせいかなあ?

まあ、帝位継承権と同じかそれ以上くらいには、金稼ぎが好きな人間に育っちまったとは思うけど。

でも、あんなのがきっかけになるようなら、どの道拝金主義まっしぐらだぜ」

「……本当に、何をなさったんです?」

黒髪をさらりと撫でながら、最近、よく――ことにディート絡みで――見せるいぶかしげな表情となるマミヤちゃんだ。

そんなに心配しなくても、ダイジョーブダイジョーブ。

「おっほっほ。

イラコちゃんは、ただ一時的にお金を預かって、それを元通り返金しただけですよ?

ええ、一銭の狂いもなく」

モリー婆ちゃんの言葉に、憮然とした顔になるのが、バルタザール、レオン、ハロルドの被害者代表三人組だ。

「……皇室内で秘密の計画が進んでおり、先立つものが必要。

しかし、表立って資金集めをしたくはないため、目立たぬ庶子の第四皇子が名代となり、これを預かる。

無論、こちらが損をこうむらぬよう、期限を一年と定め、それで実が結ばぬようなら全額返却するという契約で。

……今になって思えば、我ながらよくこんな大嘘に騙されたものだ」

「何しろ、あの時のイラコ殿下は本当に堂々とされていましたから。

ええ、まだ13歳の子供だとは、思えませんでしたとも。

その上で、 宮内(くない) 卿の保証書もあったのですから、本当に皇帝陛下の秘密計画だとしか思えなかった」

元軍人というわけでもないだろうが、厳しい商売の世界は、そんじょそこらの鉄火場にも勝るということだろう。

白髪オールバックのバルタザールが歴戦の勇士じみた顔を苦く歪ませ、やや肥満気味な中華系おじさんことハロルドが、汗をハンカチでぬぐいながら同意する。

「それで、イラコ。

一体、どんな犯罪をしたの?」

「どうってことはないよ。

ただ貯金しただけ。いや、マジで」

チャリンとコインをほうる仕草と共に、エステへおどけて見せる俺だ。

だが、被害者代表の三人目ことレオンが、目を閉じながらも眼鏡を押し上げた。

「……子供が、もらった小遣いを貯金箱へ入れるかのように語られる。

それぞれから引き出した金は合計すれば、駆逐艦の建造費用にも匹敵しましょう?」

「くち――」

驚きのあまり、ノンアルカクテルをこぼしかけるマミヤちゃんだ。

我が銀河帝国は、高度なモジュール化によって、極限まで軍艦の建造費用を低コスト化している。

が、それでも自転車買うような気軽さで建造できるものではないわけで……そうだなあ。

例えると、この惑星レク首都でタワマン一つ丸ごと所有できるくらいの額だろうか?

「そして、そのお金を高金利の銀行に分散して預け、利息を得た後にそっくり返金する……信用を犠牲にする人生で一度しか使えない手ですこと」

「どんなものにだって、値段がつく。当然、信用にも。

俺は当時13歳だったイラコ・ジーゲルの信用を一番高く売り抜いただけだ。

それに、確かに架空の計画へ出資させたわけだけど、これが案外、完全な嘘でもない。

それで得た金を開発費にして、現在の銀河帝国軍主力M2――ドンナーをこいつが開発したんだから」

エステの方を手で示しながらモリー婆ちゃんに答える。

一方、嘘を誠にした女ことエステ(当時七歳)は、テディベアを膝に乗せた状態で無表情ダブルピースだ。

「かなりお金が限られていたから、色々と工夫がいった。

わたしでなければ、できない芸当」

「お前……綺麗に使い切ってたもんな。

まあ、機動兵器の開発は、そんだけ金がかかるってことだけども」

「そして、最大の犠牲者はその一件ですっかり脳を焼かれたジョーダン 兄(にい) 。

今では、 皇子皇女(きょうだい) の誰よりも中指を立てるのが上手くなってしまった」

「さっきも言ってたけど、あいつ今そんなことになってんの?

資金集めの期間、無理矢理に面倒見させられてたから仕方なく連れ回してたけど、その後はすっかり距離を取られてたから知らんかったぞ」

「イラコから距離を取ってたのには、ジョーダン 兄(にい) なりの考えがあるのだと思う。

詳しいことは、そのうち本人から聞けばいい」

「直接? 機会あるかなあ……?」

ポテチをボリボリ頬張るエステから思いもよらぬ事実を告げられ、腕組みして天井を見上げる。

あいつ、ある意味俺よりよっぽど上手くやりやがったからな。

親父殿から与えられたベース艦を、野球選手のトレードするGMよろしく貴族家直属軍相手に放出して、複数の駆逐艦と多額のキャッシュを手に入れるという。

そうして手に入れた駆逐艦たちを自身の艦隊として前線に派遣し、自分は帝都星ティンゲルでのんびりしているというわけだ。

……皇子皇女自らが前線へ出るというプロパガンダ目的からは逸れているので、親父殿には受けが悪かったけど、俺は内心、膝を叩いたな。

その手があったか! と本気で感心した。

絶対に死にたくない俺は速攻で前線に送られ、今はこうして財界の重鎮たちから睨まれてるのに……。

と、絵を描くのが好きだった美少年皇子のことを思い出して、本題に立ち返る。

「話が過去の一件へ、逸れに逸れたな。

昔にやらかしたことがきっかけで、モリーは俺に目をつけていたわけだ?」

「うふふ、そうでしたね。

ここにいる三人を始めとして、イラコちゃんの被害に遭ったという人たちの話を聞いて、あたしはあなたが帝国の経済をさらに活性化させるのではないかと、強く期待しました。

そして、それは意外な形で果たされた。

――給糧艦アマテラスです」

「そういう話になってくるわけか。

ただ、分からないな。

前にやった給糧物資のドラフト会議でも近い結論が出たけど、アマテラスやこの先に続く給糧艦の本分の第一は、新鮮な食糧を前線へと送り届けること。

第二くらいが、艦内で生産した菓子によって、精神的なロジスティクスを充実させることだ。

ハッキリ言って、ここにいる面子が嗅ぎつけるような金の匂いはしないと思うんだけどな?」

アマテラス艦内の会議内容に関しては機密であるが、モリー婆ちゃんが向こうに回っている以上、話したも同然だ。

それに、新鮮な食品や嗜好品を得る上で、この場にいる連中の企業に協力してもらうことは必要不可欠なので、堂々と開示して肩をすくめてやる。

「うふふ。

健全な精神というものが、健全な肉体に宿るものであることは、説明する必要もないですね?

ロジスティクスというものも、要は同じ。

イラコちゃんが言う精神的なロジスティクスを充実させるには、当然、実際的なロジスティクスを充実させなければいけません。

あたしたちは、そこに巨大な商機を見出していて、そして……」

そこで、モリー婆ちゃんが目を細める。

細めた先に揺らめく光は、彼女が俺に見せたことがないもの……。

おそらく、モリーという人物の本質と呼ぶべきものだ。

そして、その本質は俺ではなく、右隣。

マミヤちゃんの方へこそ向けられたのであった。

「……あたしは、その統括をマミヤちゃんにお願いしたいと思っています」