軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

大円卓の間にて 4

『ガスパーニ伯爵家か。

先代は、航宙母艦ヒマラヤΔ23の艦長職を務める大佐だったな。

貴公自身も、同じ艦のM2部隊でパイロットを務める少尉だったはずだ』

この場にいる全員へ伝わるよう配慮しているのだろう。

やや説明的な口調で、ベルトルトがテセス・ガスパーニ伯爵という青年の素性を語る。

このように、有力な軍人の素性を広く把握しているのは、素直に彼のすごいところだ。

また、そうであるからこそ、親父殿に次ぐほどの強い影響力を持っているとも言えた。

さておき、父親が指揮する空母に所属するパイロットだった男か。

そんな立場の人間が、親族のことごとくをジンバニア隠密隊に殺されたという……。

となれば、何があったかはおおよそ推察できる。

「……私が所属していたヒマラヤΔ23は、激戦の末に中破し、護衛の艦と共に本国へ帰還するところでした!

卑劣なるジンバニア王立連合の隠密隊は、そこへハイエナのごとく襲いかかってきたのです!」

努めて感情を入れないようにしているのだろう。

応援団のエールじみた、とにかく張り上げることに特化した声で事情が説明された。

そして、それは似たような目にあった俺からしても、他人事ではない。

たまたま相手が雑魚揃いかつ、アマテラスオオカミという俺も知らない切り札があったから 第三皇子(ヴォルフ) を助けつつ殲滅できたわけで、普通ならああはいかぬ。

敵だってバカじゃないんだから、相応の戦力をもって――シレーネさんたちだって十分脅威となる戦力だった――作戦に従事する。

例えば、ヒマラヤΔ23の護衛艦がクシナダみたいなシールド艦ではなく、一般的な駆逐艦であったなら……。

なんらかの形で裏をかいたり、誘い出したりして護衛が欠けた航宙母艦を叩くというのも、よく聞く話であった。

よく聞くなら対策しろ、などと簡単に言える話ではないし、対策は当然されている。

戦闘行為という究極の 水物(みずもの) は、紋切り型で語れるものではないのだ。

『テセス、ありがとう』

その時のくやしさか、あるいは悲しさを思い出してグッとこらえているテセスの肩を、ペーター兄さんが軽く叩く。

兄さんの声は室内に備わった拡声機能に拾わせたものであるわけだが、それがかえって、肉声で訴えたテセスの感情を際立たせた。

『このような怒りを抱えているのは、何もテセスだけではありません。

多くの将兵が、大なり小なり敵国に対し思うところがある。

それに対し、姫君を虜囚としたので手籠めにし、国ごと結びつくなどと言って、納得が得られましょうか?

そもそも、あれだけ大々的にイラコの活躍を報道しておいて、どうして姫君の件に関しては伏せているのです?』

『外務卿として、ペーター殿下の質問にお答えします』

報道に関する質問ではあったが、兄上に応じたのは外務卿だ。

オンライン参加の者も多い会議で、生身の人間同士が向き合う形となる。

『世間への報道に待ったをかけているのは、まさに、ガスパーニ伯爵のような感情的意見を退けるためです。

イラコ殿下が釣り上げた魚は、あまりに大きい。

これに対し、感情論のまま殺せと言われては、たまりませぬのでな。

シレーネ・ヨーギル殿下という手札は、秘密裏の交渉で活用し、そこから得られた結果のみを国民に伝えるが最上という結論に達しました』

外務卿の言葉は、説得力のあるものだ。

あえて例を挙げずとも、大衆というものが、時に驚くほど短慮で極端な行動に走るものであるというのは、誰でも理解が及ぶだろう。

その短慮さによって、一切の利がない世論を形成されては、いかにうちが独裁国家であろうともたまったものではない。

だったら、何も知らせず世論を形成させないのが一番じゃん、ということであった。

……暗に、テセスへ「おめーの意見なんの得もねーんだよ」と言ってしまっているが、オブラートに包んでいるからセーフということで。

ついでに言っておくと、報道で伏せているのはシレーネさんの件だけでなく、アマテラスオオカミへの変形合体に関してもだが、これは多分、あの醤油顔イラコ君を目立たせる意図があるからだろう。

『つまりは、実際に命をかけ、犠牲も払って国のために戦っている将兵たちの感情は、根こそぎ無視するということでよろしいでしょうか?』

『ペーターよ。

こう言ってはなんだが、お前は個人的な友誼からガスパーニ伯爵へ感情移入し、大局を見失っているのではないか?

将兵のことを慮るならば、その犠牲を減らすために動くことこそが肝要であろう?

もちろん、国益を無視して片端から停戦するという意味ではないがな』

ペーター兄さんに対し、ふてくされて頬杖ついた姿勢のままでいた親父殿の立体映像が、冷酷に告げる。

大人になれ……ということ。

だが、こういうのは、はいそうですかと納得できるものではない。

何しろ、相手は理屈じゃなく感情で動いているのであった。

そして、第二皇子ペーター・ジーゲルという男は、そのことを自覚できない人物ではないのである。

つまり、分かった上で感情に身を任せているのだ。

一番厄介なタイプであった。

『これは異なことを。

兵の感情を満たすことによって得られる効能は、そこのイラコが給糧艦アマテラスで証明したばかりではありませんか?』

さすがのプレゼン力というべきか。

やや大げさな身振りで俺のことを指し示しながら、そう告げる兄さんだ。

少し論点をズラしている気はするが、そこを気にさせず畳みかける勢いというものもある。

『ゆえに、知らせぬがよいという結論なのではないか?』

『兄上、人の口に戸は立てられませぬ。

ここにいるテセスは、代表例。

かなりの貴族がこのことを知っており、その上で、兄上ではなく僕を頼ってきているのです。

落ち目の第一皇子ではなく、第二皇子こそが頼れるとして、ね』

『――何!?』

このことには、激しいショックを受けるベルトルトだ。

何しろ、軍閥を率いていることは彼のアイデンティティだからな。

そこから少なくない数の――それも有望株だろう――人間がこぼれ落ち、ライバルたる第二皇子の下へついているというのは、衝撃的であったに違いない。

『つまり、大衆にこそ知られておらぬが、貴族にとっては公然の秘密と考えていいわけか。

余は、あえてこれを、情報に携わる者たちの失態とは考えぬ。

それだけ、ペーターめが口にした問題が大きいということよ』

頬杖をついた姿勢は変えず、しかし、雷のように鋭い眼差しとなる親父殿だ。

だが、理解され許されるというのが、かえって恐怖を増すこともあるのだろう。

外務卿、情報局長、広報卿が、それぞれ生身や立体映像を縮こまらせた。

『では、ペーターよ。

一つ派閥の代表とみなして問いかけよう。

何を望む?

断っておくが、シレーネ王女を処刑する手だけはありえぬぞ。勿体ない』

その勿体ないって、体がエロいからじゃないっすよね?

……などとは、決して問いかけられぬドシリアスな空気の中で、ペーター兄上が口を開く。

『さすがに、そこまでは申しませぬ。

ですが、せめてイラコと婚約させること……。

つまり、婚姻外交の手を使うことは避けて頂きたい』

……あれ。

おいおいおいおいおい!

なあなあなあなあなあ?

ペーター兄ちゃん、めっちゃ味方やん!

俺の意思、バッチクソに汲んでくれとるやん!

そうだよ! 婚姻外交なんて今時、ナンセンス!

シレーネさんのことは、普通に取引材料とすれば、それでよいのだ。

ようし! ここは一つ、俺も援護射撃を……。

『……もっとも、イラコ自身はかの王女の魅力で骨抜きとなっているようですがね』

……あっれぇー?

ペーター兄さんも、俺のことそんな風に見てたのー?

『仕方あるまい。

エロいんだもの』

『まあ、エロいからな』

なんか、うんうんとうなずくバカ親父とバカな方の兄貴。

『外務卿、エロいから納得しました』

『情報局長として、あのエロさには屈するものと考えます』

『財務卿としては、純金に勝る価値のエロさかと』

『交易卿としては、あのエロさを見れば納得ですな』

『広報卿としては、羨ましくて仕方がありませんぞ』

『 宮内(くない) 卿としましては、イラコ殿下のオッパイ星人ぶりに感服しております』

よし! このバカ共、いずれ粛清しよう! 機会があったら!

『と、いうわけでだ。

イラコの決意は固いようだ』

固くないよパパン!

と、口を挟む間もなく、親父殿がペーター兄さんに問いかける。

『ペーター。

貴様、いかにして弟の意思を曲げる』

これに対し、ペーター兄さんは……。

世間的には天才パイロットとして知られる下手の横好きは、こう答えたのだ。

『無論、古来よりのならいに従い、決闘にて』