軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ディート・ジーゲル 前編

Mobile(モービル) Man(マン) ――略してM2。

この兵器群を、単純に18メートル級の全領域対応人型機動兵器として分類することはたやすいが、デザイン源となった人間にも様々な人種や個性が存在するように、M2にも色々なタイプが存在した。

例えば、銀河帝国軍の主力M2であり、腹違いの愚妹ことエステが最初に生み出した『作品』であるドンナーは、大昔のブラウン管テレビを彷彿とさせる頭部と、万力型のマニピュレーターが特徴の量産性最優先型。

対して、ブリッジのメインモニターに映し出されている赤い機体は、見るからに、量産性などかなぐり捨てているワンオフ機である。

ワインレッドで染められた機体のシルエットは――華奢。

例えば、俺の愛機であるタイゴンなどは格闘戦を追求しているため、細身でありつつも陸上アスリートじみたマッシブさが備わっているのだが、この機体にそういった力強さは存在しない。

実際の生物ではなく、造り物であるからこそ可能な細さ。

もし、これが18メートルサイズのマシーンではなく、1/100サイズのプラモデルであったとしたならば、手にした人間はうっかり壊してしまわないよう、繊細な扱いを要求されるに違いない。

これはつまり、本機を発注した人間が、接近戦への徹底した忌避感を抱いている証明。

得物としているのがM2用の大型粒子狙撃銃であり、頭部に備わったカメラアイが、精密射撃用の単眼型であるのも、それを物語っていた。

遥か離れた距離から、標的を――狙い撃つ。

それこそが、この機体の設計思想なのである。

まあ、今は事実上のゼロ距離から標的――俺にピタリと銃口を向けているのだけど。

そう、標的は俺だ。

間違っても、この給糧艦アマテラスのブリッジではない。

だからこそ、緩みきっていた俺はともかくとして、メケーロ爺ちゃんほどの 強者(つわもの) が、こうも接近されるまで殺気に気付けなかったのである。

「……ベレンジャー」

生殺与奪の権を握った相手機の名を、つぶやく。

そうだ。俺はこの機体を……乗っているパイロットを知っている。

何故なら、この機体を設計したのが俺の膝で「おー」とかつぶやいているエステだからであり、乗っているのは、俺にとって生まれ落ちたその瞬間からの不倶戴天の天敵であるからだ。

パイロットの名は……。

「ディート 姉(ねえ) 、おひさー」

俺の膝に座ったエステが、メインモニターに向けてひらひらと手を振る。

すると、向こう側も通信回線を開いたらしく、メインモニターの一角が通信ウィンドウで切り取られた。

ウィンドウ内に現れたのは、高価な棺桶とも称されるM2の狭苦しいコックピット。

ただし、明らかに様子がおかしいのは、計器類など操縦に必須な品々を塞がない範囲で、プリントされたエステの写真がベタベタと貼られていることである。

しかも、エステ本人がカメラの方を向いている写真は、ただの一枚たりともない。

……盗撮だ。

このコックピットにいる人物は、俺のかわい……いかどうかはともかくとして、大事な妹に対し、盗撮の限りを尽くしているのであった。

なんて――おぞましい。

救いがないのは、おぞましき盗撮犯であるウィンドウ内の人物もまた、俺の肉親であるということだろう。

真の敵は、いつだって身内にこそ存在するのだ。

こいつに比べれば、工作艦から曳航作業を受けている火力艦ヴェルダンディ内の 第三皇子(ヴォルフ) など、かわいいものであった。

『エステ、ひっさしぶり!

地上で待ってても良かったんだけど、待ちきれなくなって直接ベレンジャーで来ちゃった!』

語尾にハートマークとか音符記号とか付きそうな声音でほざいたのは、ロングの金髪をツーサイドアップにした碧眼の女だ。

顔立ちは、まあ……美人とか美少女とか、そう呼んで相違ないと思う。

俺同様に20歳であり、少女期を抜けて大人の女性へと至ろうとしているやわらかさというものが、ナチュラルメイクと相まって感じられる。

身にまとっているのは、機体と同じワインレッドカラーの軍帽付き改造軍服とフリルミニスカートで、足元は黒いニーソックスと編み上げブーツで固められていた。

服装としての構成こそ女子広報士官用のファッションと同様であるが、何かと目立ちたがりというか、特別扱いされたがりなこいつは、わざわざ自分用に専用カラーで特注しているのだ。

で、自分専用機としてエステに設計してもらった偵察狙撃機というバカ丸出しなコンセプトのくっそ目立つ真っ赤っ赤な機体のコックピットを、シスコン丸出しの盗撮写真で埋め尽くし、かつ、自ら搭乗してここへ来ているわけである。

もうエステが名を呼んでしまっているが、あらためて、こいつの名前をつぶやいておこう。

「……ディート」

『……あー、あんたもいたわね。

イラコ、あんたなんでエステを膝に乗っけてんの?

マジキモいっていうか、最悪なんだけど?

シスコン丸出しな第四皇子とか銀河帝国の恥なんで、今すぐブラックホールに飛び込んでくんない?

はい、カウント入りまーす。

いーち、にーい』

シスコン通り越して普通に法律違反な盗撮写真をコックピット内へベタベタ貼り付けた上、それを盗撮されている当人にこうして見せつけている銀河帝国の恥がなんか言ってまーす。

キモいんで今すぐブラックホールに飛び込んでくださーい。

はい、カウント入りまーす。

いーち、にーい。

「あの……ディート第三皇女殿下であらせられますか?」

と、俺の隣でおずおずと挙手したのが、タブレット端末を片手で抱えているマミヤちゃん。

『そうよ?

アタシこそが銀河帝国の第三皇女ディート・ジーゲル。

遺憾だけど、そこにいるキモ男は、腹違いの弟にあたるわね』

「……はあああああっ!?」

それを聞いて、頭ん中の血管が確実に何本かブチ切れるこの俺だ。

はい死んだー! 今俺、こいつのせいでクモ膜下出血になって死にましたー! 謝罪を要求しまーす!

「だーれが姉だ?

百歩譲って同じ父を持つ兄妹として認めるとしても、てめーが妹だろうが!?」

『……はあああああっ!?』

今のを聞いて、どうやら頭ん中で何本か血管がブチ切れたらしいディートだ。

……ちっ、比喩じゃなく本当に切れておっ 死(ち) んじまえばいいものを。

『聞き捨てならないんですけどー!?

絶対にアタシの方が生まれるの早かったしー!

あんたより0.001秒早くうぶ声上げましたー!

今でも昨日のことみたいに覚えてますー!』

「はあ?

おいおい、こいつまだ20歳のくせに、早くも認知症患ってやがるぜ?

俺の方が確実に0.0001秒早くおぎゃあと叫びましたーっ!

俺の方が兄貴ですー!」

『周りに味方がいるからって同意を求めるとか、やり方が卑怯なんですけどー!?

男の腐ったようなことしてないで、口喧嘩くらい真っ向からしてくださいー!』

「はあ?

周りが呆れ果ててるから、俺が同意を求める形で代弁してあげただけですー!

つーか、どっちが兄で姉なのか話してたところなのに、いきなり論点ズラそうとしないでくださいー!

それで論破とか気取るの、くそダサいんですけどー?」

『ズラしてないですー!

そっちが卑怯なことしようとしたから、咎めただけですー!』

「はあ?」

『何よ!』

それから……。

ヤイヤイギャイギャイと短編小説一本分くらいの言い合いを行う俺たち兄妹に、メケーロ爺ちゃんとモリー婆ちゃんが肩をすくめてみせた。

一方、首をひねりながら質問してくるのが、俺の背面壁際に陣取っているシレーネさん。

「済まないが……。

彼女――ディート殿が第三皇女だというのは分かったが、これはどういう事態なのだ?」

そんな彼女の質問に対し、俺と通信ウィンドウ先の超愚妹に挟まれる形となったエステが、ややうんざりしながら答えたのである。

「ディート 姉(ねえ) は、イラコと同年同月同日同時間同分同秒に生まれた第三皇女。

ディート 姉(ねえ) とイラコは、生まれたその時からいがみ合ってきた間柄」