軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三皇子と書いてアホと読む 前編

「なんだかなあ……。

アマテラスって、基本無防備なのが問題だったはずなんだが……。

これじゃあ、看板に偽りありじゃねえか?」

まあ、「僕たち無防備です!」なんつーアホな看板、掲げた覚えはないけど。

とにかく、姿見じみた大きさの正面メインモニターに映し出されたのは、それほど圧倒的な光景であった。

ただ――一撃。

アマテラスオオカミ・サンダーの右腕部を構成する電磁シールド付きマシンアームが、白地に青いラインの入った流線形ボディの真芯へと、深々と突き刺さっているのである。

位置的に見て、この隠密艦を動かしていたブリッジクルーはこの一撃で潰され……。

いやさ、電磁シールドから発されているスパークを思えば、何を感じる暇もなく蒸発したことであろう。

そして、名も知らぬ隠密艦そのものも、この雷拳により、中枢部へ致命的なダメージを受けている。

それを察しないメケーロ爺ちゃんではない。

右腕部を引き抜いたアマテラスオオカミは、ゆっくりと敵艦から距離を取った。

それを待っていたかのように――爆発。

宇宙空間ゆえ、隠密艦のリアクターが起こした爆発は球形となり、艦そのものを包み込む。

圧倒的な熱量でもって、これまで自身を構成していた装甲も命も何もかもを飲み込み焼き尽くしていく様は、まるで小さな太陽のようである。

「さーて……。

決着がついたな。

で、面倒なのはここからだ」

これが何かのアニメであれば、ここからEDに突入! 皆でダンスした 後(のち) 、陽気なコントを交えながらの次回予告!

来週のアバンタイトルでは、あらかたの事後処理が終わった状態でさあ新展開という場面だ。

しかし、残念ながらこれはアニメじゃない。

そういう地味ーな仕事からは逃れられないし、むしろ、そっちの方が精神的な疲労は大きいのであった。

『……ようやく通信機が直ったか!

聞こえるか、黒いM2のパイロット。

こちらは名乗るまでもなかろう――第三皇子ヴォルフ・ジーゲルである!

貴様、イラコめの部下である割には、あっぱれな腕前よ!

破壊された観測機器の不調により映像は不鮮明であったが、生身で宇宙に身を晒す度胸と、本艦から敵を引き離す機知も見事!

褒めてやろう。

そして、オレたちを救助した 後(のち) 、我が麾下に加わる栄誉を与える』

ほら、どっかのバカが、さっそく俺の精神を削りにきてるし。

あーあ、やだやだ。拝金運営のSNS覗いて、インプレッション目当ての対立煽り投稿とか、無限増殖するインプレゾンビ見ちゃった時のような気分。

これはよくない。

俺のエモーショナルなエネルギーは、こんな無駄なことへの対応で削るべきではないものだ。

「あーあー……。

我、通信機が不調なり。我、通信機が不調なり。

何か言っているようだが、応答できず。

――通信終わり」

『おい――』

プツリ、と、サウンドオンリーの通信を断ち切る。

なんだかなー。助ける気しなくなるなー。

まあ、俺が助けると決めたのはヴェルダンディのクルーたちであって、親愛なる 兄上(バカ) 殿ではないのだけど。

ようし! こういう時は気分転換だ!

なんとなくトドメ刺さずに放置プレイしていたジンバニアの指揮官機! 君に決めた!

漆黒の人型を躍動させ、無力化したそいつの眼前へと移動した。

白地に青いライン……均整の取れたスマートなボディに五本指のマニピュレーターを備えた機体は、頭部を失ってもなかなかの格好良さだ。

確か、ペットネームはピノキオだっけ?

騎士を自認するジンバニアのM2乗りが操る機体であることを思えば、なるほどというデザインである。

かようにヒロイックな敵量産機に対し、四つあるタイゴンのカメラアイを向けながら、指向性のレーザー通信照射。

さあ、最初の挨拶はにこやかに!

「ジンバニアのパイロット、聞こえるか?

こちらは――」

『――くっ!

殺せ!』

……うん。

なるほど、くっ殺と言っちゃう高貴なる女騎士様か。

人類が銀河に進出して久しいこの時代に、そんなもんとエンカウントする羽目になるとは思わなかった。

ただ、戦闘中ならばともかく、なんもかんも終わった状態で殺せと言われて、はい殺しますとなるほど俺は外道ではない。

つーか、脳が思いっきり拒否反応を起こしている。

大体がだね。俺は生粋の平和主義者であるわけで……。

第四皇子イラコ・ジーゲルの座右の銘は、ラブ&ピースなのだ。

というわけで、再度のトライ。

「あー……。

こちらには、貴官を捕虜とする用意が――」

『――殺せ!

栄光あるジンバニアの騎士は、貴様ら帝国に屈さぬ!』

「いや、別に屈する必要はなくてだね。

とりあえず、話を――」

『――殺せ!

話すことなど、何もない』

「………………」

プツリ、と、サウンドオンリーの通信を断ち切る。

なんだかなー。

疲れるなあ、疲れるなあ。

そういや、大破状態のヴェルダンディからは、まだ通信が入りっぱなしだ。

さしもの ヴォルフ(アホ) といえど、いつまでもバカな呼びかけし続けてられないだろうし、通信士と代わってくれているだろうか?

『――おい! 聞こえているか! 黒いM2のパイロット!

通信機の故障など嘘だろう! 貴様、かすり傷一つ負っていなかったではないか!

どうした? 何が欲しい?

愚かなる第四皇子などではなく、このオレに仕えられると言っているのだぞ!』

プツリ、と、サウンドオンリーの通信を断ち切る。

全然元気でしたわー。どこからきますのん? そのエネルギー。

「はぁー……」

深く……そして大きく、溜め息を吐き出す。

「……面倒臭え」

そして、一言。

母から受け継いだ旧式の試験機は、俺の愚痴に何も応えることなく、ただリアクターの稼働音のみを響かせていた。

--

そして、諸々の回収作業パートをすっ飛ばし、今に至る。

「お茶をお淹れしました」

そう言ったマミヤちゃんが、俺と眼前の相手に紅茶のカップを供する。

相手に対しては、一つ。

俺の前に置かれたカップは、二つである。

なぜなら、俺の膝にはいつも通りテディベアを抱いたエステが、ちょこんと座っているからだ。

「ふん……なかなか気が利いているではないか」

そして、俺の対面に座った人物が、そう言いながら大仰な仕草で足を組む。

そのような傲慢な仕草が、しかし、この男の場合は画になった。

何しろ――イケメン。

彫りの深い端正な顔立ちをしていて、輝かしい銀髪はオールバック。

軍服を内から押し上げる肉体も、隆々としていて筋肉質である。

そう……俺は今、22歳のイケメンマッチョ皇子――ヴォルフ兄貴を、アマテラスが誇る無機質な談話室へと招いているのだ。

なお、クシナダとの合体はとっくに解除し、いつもの二隻へと戻っていた。

今頃、両艦の外側では、船外作業服に着替えたフェラーリン爺ちゃんを始めとするアマテラス整備チームのお爺さんたちと、全然個人の見分けがつかない黒髪眼鏡ズなクシナダ整備チームが、総点検を行っているはずだ。

すでに、両艦の内部でも一部エネルギーバイパスが機能しなくなっていたり、グラビコンが効いているというのに第六感で異常を察知した牛たちがビビリ倒していたりと、小さな異変が発見されている。

戦艦同士の変形合体という、前例にないことをしたのだ。しっかりと点検し、修理と改善に努めてもらいたい。

さておき、問題は目の前にいる2コ上の兄貴であった。

俺が、天下無敵の縮れっぷりを誇る自分の黒髪をいじっていると、絶体絶命の危機を切り抜けたばかりのヴォルフは、芝居がかった仕草でこう言ったのだ。

「何はともあれ、オレの身を救ったこと……大義である。

特に、あの黒いM2を駆るパイロットの手際と、戦艦同士の変形合体は見事だった。

イラコ、お前にあのパイロットと、そこにいるエステを献上する栄誉を与える。

腹違いの弟ゆえ確執もあったが、全て水に流そうではないか」

今この場で新たな確執を生み出したお兄ちゃんの笑顔ってやつは、たまらないね。

最高の笑顔ってのは、これのことだ。

だから俺は、負けないくらいのにっこりスマイルでこう言ったのである。

「やです」