軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

タイゴン 前編

『艦内の皆さんは、よく聞いてくださいね。

ブリッジのモリーです。

事前に伝えてある通り、これからこの給糧艦アマテラスと護衛のシールド艦クシナダは、ジンバニアとの戦闘へ入ります。

事前の訓練通りに配置して、皆で助け合いましょうね。

終わったら、アップルパイを焼きましょうか』

レッドアラートが灯され、堂々たる臨戦状態となった給糧艦アマテラスの通路に響くのは、通信士のモリー婆ちゃんによる艦内放送……。

気……気が抜ける……!

なんだろう。戦艦の艦内放送というよりは、町内会のアナウンス放送といった趣きだ。

しかしながら、ガッツリめに脱力させられた俺とは裏腹に、戦意を燃えたぎらせるのが頼れるアマテラスのクルーたち。

「おうおうおう、なんだか、盛り上がってきやがったなあ!

レッドアラートなんて浴びるのは、退役以来だぜ!」

「機銃座の一つもねえのが、残念でならねえ!」

「なあに、きっと敵の連中も搭載している菓子に目をくらませて、拿捕狙いで乗り込んでくるだろうさ!」

「そうなったら、こっちのもんだな!」

「おうよ! 武器なんかいるもんか!

ジンバニアのひよっこ共なんぞ、素手で捻り殺してやる!」

ギリギリまでいつもの製菓作業をしていたのだろう……。

食品工場用の作業着を着たお爺ちゃんたちが、通路で腕まくりなどしながら笑い合う。

その笑みの、なんと凶暴なこと……。

腕まくりして露わとなった腕の、なんとマッシブなこと……。

全員が全員、「ナメてた相手が実は殺戮マシーンでした」系映画で主演を張っていてもおかしくない迫力である。

……今になって思うと、どうして俺は、こんな決壊したダムみてーにやばいオーラ垂れ流してるジジイたち雇ったんだろう?

だが、殺る気満々なのは爺様たちだけではない!

「あらあら、うふふ……。

わたし、楽しくなってきちゃった!」

「一度、最前線で戦ってみたいと思ってたの!

この年になって、夢がかなったわあ!」

「いっひひ……。

孫への土産話ができたよ」

やはり作業着姿のお婆ちゃんたちも、何故か戦う気満々だったのである。

いや、元軍属を集めた爺ちゃんたちはともかくとして、あんたら求人サイトで集めたただのパートぉぉぉ!

もう駄目だ……おしまいだ……。

ここは狂気の世界だ。

俺は常識の通用しない場所に迷い込んじまったというか、自分でそれを作っちまったんだ。

「まあ、戦場なんだし、少しおかしいくらいで普通か」

自分に言い聞かせながら、ある扉の前に立つ。

そこには、マジックペンで「イラコの趣味コンテナ! 立ち入り禁止!」と書き殴ってあった。

加えてパスワード認証もかけてあるのだが、フェラーリン爺ちゃんたち元メカニックは即日で突破して勝手に入り込んでいたゾ!

「よう、待ってたぜ」

ほら、今も呼んでないのにいる!

U字禿げの鑑みたいな形で白髪を残した赤鼻のお爺ちゃんが、つなぎ姿でそれの足元にもたれかかっていた。

「……って、おいおい。

まさか、その格好のままいくつもりか?」

「ん? ああ」

言われて、自分の格好を見回す。

ブリッジに詰めている時と同じ、漆黒の帝国軍士官服。

普通のそれと異なるのは、正式な指揮系統に入っていない皇族ゆえ、階級を表す装飾が存在しないことだろう。

どんな整髪料にも屈しない縮れた黒髪をくしゃりと撫でながら、つぶやく。

「別にいいんじゃね?

パイロットスーツ必要になる状況ってことは、死んでるも同然だし」

「ハッ……!

死なねえ覚悟があるってことかよ?」

「んー……ちょっと違うかな」

面白そうに笑う彼へ、ありのまま答える。

「必ず、殺してくるつもりだ。

だから、パイロットスーツは今回いらない」

「はは……」

頭に残されたわずかな茂みをかきながら、ふと、フェラーリン爺ちゃんが真面目な顔になった。

「……おっかねえ笑い方しやがる」

「え? そうだった?」

いやん! まいっちんぐ!

両手で顔を揉みほぐし、ストレッチ。

リラックス、リラックス。

お気楽楽勝でいってみよう。

「そういや、聞いてなかったけどよ?

こいつの名前は、なんてんだ?」

そんな俺から目を逸らし、それを見上げたフェラーリン爺ちゃんが聞いてくる。

「ああ、イジッてもらって……いや、勝手にイジられてるだけか……。

まあ、とにかく名前を教えてなかったな。

――タイゴン」

「虎の父とライオンの母から生まれた雑種かよ。

まあ……らしいな」

何がらしいのだろうか?

俺と入れ替わりでドアの方に歩く爺ちゃんから、最後の質問。

「で、武器がねえけど、どうするつもりだ?」

「いやあ、連中を見た感じいらんでしょ。

せっかくの人型なんだし」

返答を聞いたフェラーリン爺ちゃんは、心底おかしそうに笑いながら退出していったのである。

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「我々はツイている……!

本来の攻撃目標である敵給糧艦が、自ら首を差し出しに来たのだからな……!

しかも、この状況ならば、情報になかったシールド艦も脅威ではない!」

白地に青いラインの入った 人型機動兵器(M2) ……。

ピノキオのコックピット内で、シレーネは興奮し歯を剥いていた。

もし、本日カジノでスロットを回したなら、ジャックポットが出ているに違いない。

生涯で数度訪れるかどうかという、最上の幸運……!

第三皇子という思わぬ獲物に加え、本来の標的であるアマテラスまでノコノコと現れたのだ。

しかも、情報にないシールド艦が随行しているものの、巨大な箱型をした給糧艦は明らかに撃沈寸前の味方艦を救助せんと動いているのである。

向こうから分断されてくれるなら、シールド艦の防御力も脅威ではない……!

「ん……?

あれは……M2か?」

と、そこでアマテラスの船体に起きた変化へ気付く。

食糧輸送と食品製造以外何も考えていないのだろう箱型の船体が、一角を開いたのだ。

本来、そこはコンテナなどを収めるための場所であるはず……。

だが、現れたのは堂々と腕組みし直立する人型のマシーンであった。

18メートル級の機体は、本来の帝国軍カラーならば黒と銀のはずであるが、こちらは黒一色で染め上げられている。

曲線を複雑に交差させたシルエットは優美そのもので、完成度の高い機械しか持ち得ぬ芸術品めいた美しさがあった。

見るからに関節可動域を重視した設計であり、装甲はさしたる厚みではない。

ただ、狩猟性の肉食獣を思わせるしなやかさと凶暴さが感じられた。

見るからに器用そうな五指を備えたマニピュレーターは、しかし、腕組みしていることから分かる通り、何も持たない――無手。

そして、機体各所のハードポイントにも何も装着されておらず、完全な非武装だ。

最大の特徴は、頭部。

そこに備えられたカメラアイは、合計で――四つ。

生物を模した機械でありながら、そこだけは完全に生命体から逸脱した特徴を持つパーツで睨み据えられると、ぞわりと背筋が粟立つ。

いや、これは……パイロットとしての本能が感じているのだ。

見たこともないこの黒い機体は……搭乗するパイロットは――危険!

『ジンバニア王立連合のM2部隊に告げる!

たった今、貴君らの前に姿を現したM2である!』

全領域波の通信が、黒い機体から発される。

何事かと思えば、続く言葉は驚きの内容だったのだ。

『搭乗するはこの俺、銀河帝国第四皇子イラコ・ジーゲルだ。

この首が欲しければ、人質など捨て堂々とかかってくるがいい』

黒い機体が、挑発的な手招きをしてみせた。