軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三皇子の危機 中編

「――全艦に告げよ!

総員戦闘準備!

これは訓練ではない!」

「アイサー!

総員に告ぐ!

本艦は敵隠密艦ならびに、M2三個小隊と会敵せり。

各所、ただちに戦闘用意!」

半ば反射的に発したヴォルフの指示を受け、通信士が艦内放送を行う。

「リアクター戦闘出力!

砲手は敵の隠密艦を狙えい!

主砲の一撃をもって、撃沈せしめるのだ!

さすれば、コバンザメとなってくっ付いて来ているM2共も、よすがを失うことだろう!」

ヴォルフがそう命じたのには、二つの理由がある。

一つは、単純にこの火力艦ヴェルダンディから見て、18メートル級の人型機動兵器であるM2は、あまりに小さい的だから……。

ならば必然、艦首の大口径荷電粒子砲を向けるべき相手は同じ戦艦――敵の隠密艦ということになった。

もう一つは、この隠密艦こそが、M2たちにとっての仮宿であるから。

何しろ、たかが18メートル級のマシーンであるから、コックピットの容積というものは限られている。

そんな狭苦しい空間に籠って、長期間軍事行動――それも敵勢力圏で――を行うというのは、現実的ではなかった。

ゆえに、こういう敵地奇襲部隊に属するM2隊というものは、隠密艦をパイロットの仮宿として利用し、交代制で機体の運用を行うのである。

だから、隠密艦さえ撃沈すれば、敵はまとめて無力化可能。

チェスで言うならば、チェックメイトの手だ。

問題があるとすれば、隠密艦レベルの標的であっても、火力艦たるヴェルダンディからすれば、圧倒的に小回りがきく相手であるということ……。

「砲手! 何をやっている!

さっさと敵艦を捕捉し、宇宙の藻屑としてやるのだ!」

「やっています!

やっていますが……。

敵艦は動き回っていて、射線に入れられません」

専用コンソールを備えた席に座った砲手が、悲鳴のような声を上げる。

「操舵手! 急ぎ艦の向きを変えろ!

艦首だ!

艦首さえ向ければ、そこから放つ大口径の荷電粒子砲が、隠密艦ごとき一撃で粉砕する!

何も、真芯を捉えよと言っているわけではないのだ!

本艦の砲撃は、かすめただけでも致命傷になるだろうからな!」

「取り舵は一杯です!

本艦は、あくまで火力に傾倒した調整を施されています!

相手のスピードに……ついていけない!」

火力艦ヴェルダンディにとって運動の頼りとなるのは、船体フレームに取り付けられた拳銃のグリップを思わせるウィングバインダー……。

それは今、操舵手のステアリング捌きに従い、必死で艦全体を旋回させているはずだ。

だが、それでも――追いつけない。

そもそも、相手はステルス性能に特化した艦種である隠密艦。

そして、ステルス性能の要件には、当然ながら艦そのものの機動性も含まれているのだ。

「やむを得ん!

レーザー機銃、射撃準備!」

冷や汗が浮かんでくるのを感じつつ、ヴェルダンディに存在する唯一の副兵装を準備させる。

このヴェルダンディは、構造上の強度を確保するため、砲口の可動機能も持たない艦首荷電粒子砲を放つことに特化した艦。

当然、内部構造もこの砲に全てを捧げており、他の武装といえば、レーザー機銃しか存在しないのであった。

銀河帝国軍の艦船は高度にモジュール化されており、いかなる艦においても同様のブリッジを持つ。

そのブリッジ内に、冷たい戦慄が走る。

新任の士官を中心に構成されたこのヴェルダンディは、つい先ほどまで意気揚々と実戦を求めていたはずだ。

だが、いざ実際に遭遇したそれは、抗えぬ死の香りを内包していたのであった。

「くうう……っ」

「敵M2部隊接近!

隠密艦、回避運動を取りながら光子魚雷の発射準備を行っています!」

ブリッジ内に存在するサブモニターに、敵――ジンバニアのM2と隠密艦が映し出される。

両者とも、黒と銀を主体とした帝国軍のカラーリングとは対照的な、白地に青いラインの入った塗装……。

敵M2――ペットネームはピノキオだったはずだ――は、曲線を主体としたスタイリッシュなシルエットをしており、デュアル型のカメラアイと五指を備えたヒロイックな機体。

隠密艦の方は、帝国軍の同艦種と同様、さながら巨大化した光子魚雷のような艦影をしている。

接近する九機のピノキオが携行する粒子小銃は、幼児に持たせる玩具のようなチープさでありながら、静かな迫力を宿しており……。

こちらに顔を向けた敵隠密艦の艦首に備わった魚雷発射口が開放される様は、死の宣告をせんとしているかのようであった。

もはや、疑う余地など一切無し。

自分たちは……この火力艦ヴェルダンディは、狩られる獲物でしかないのだ。

ヴェルダンディの艦首大口径荷電粒子砲から極太の荷電粒子ビームが放たれたが、それは砲手の……ひいては、全乗員の悲痛な叫びそのものであった。

--

「おや、これはあれだね……。

救難信号ってやつじゃないかねえ?」

通信士を務めるモリー婆ちゃんが、のん気な顔で首を傾げた時、俺はくるべきものがきたと思ったものだ。

フェラーリン爺ちゃんが警告していた不測の事態である。

「んん……?

味方の艦で、この辺通る予定のやつはいねえはずだけどなあ?」

真面目に操舵用のステアリングを握ったメケーロ爺ちゃんが、顎に手を当てながら考え込む。

祖父に助け舟を出すのは、自分の役割ということだろう。

俺の傍らという定位置に立つマミヤちゃんが、手にしたタブレット端末を操作する。

そして、すぐに答えを得て、腰まで伸びた黒髪を払った。

「識別信号確認。

これは……第三皇子殿下の火力艦ヴェルダンディです!」

「ヴェルダンディ……?

確か、あの艦はポイント219へ派遣されたはずだぞ?

なんで俺らの帰路に……いや、想像はつくな」

銀髪をオールバックにしたイケメンマッチョ。

2コ上の兄貴であるヴォルフを思い出しながら、つぶやく。

あいつのことだ。

寄ろうと思えばアマテラスの航路へ寄れるから、なんかイチャモンつけていこうと思ったのだろう。

そこに、理性的な打算などは一切ない。

あいつはやりたいことをやるタイプであり、かつ、俺のことが大大大っ嫌いな第三皇子様である。

それが、救難信号を発しているということは……。

「小回りのきかない火力艦でノコノコやってきて、対アマテラス用に派遣された敵の隠密隊と接敵したか……!」

うめくようにつぶやく俺の膝で、テディベアを抱えたエステが、銀髪のツインテールをピョコリと動かした。

「相性最悪。

どんなにパンチ力のある艦でも、相手に当てられないのなら意味はない。

そして、ヴェルダンディは火力こそあるけど、シールド出力と対空防御は平凡な艦。

隠密艦の光子魚雷とM2隊の攻撃に晒され続ければ、長くはもたない」

「イラコ殿下……」

エステの言葉を聞いたマミヤちゃんが、フリル付きのミニスカートを軽く翻す。

そして、印象的な翡翠の瞳を俺に向けてきたのだ。

「――ご決断を」

決断。

つまりそれは、ヴェルダンディを助けに行くかどうかの決断。

いや、より正確に述べるならば、だ。

「……ヴェルダンディから脱出するだろう帝国軍の兵士たちを、見殺しにはできないか」

決して足が速くないクシナダを急行させたとして、おそらく、平凡な防御力しか持たないヴェルダンディは持ち堪えきれない。

到着する頃には、すでに撃沈されているはずだ。

そして、対ジンバニアの戦争において、紳士的な協定というものは存在しない。

まして、捕虜の収容能力などないだろう隠密艦なのだ。

残酷なのは戦争。

敵の戦力は、減らせる時に減らそうとするだろう。

「決断したぞ。

メケーロ! 本艦はこれより、味方の救援に向かう。

エステ、クシナダもそれに付き合わせてくれ」

「ん……」

エステが、いつも抱いてるテディベアの背中をいじると、そこがタッチパネルとなる。

そして、彼女の恐るべきタイピングスピードによって、向こう側へメッセージが送り込まれた。

普段、俺の膝なんぞに座ってどうやって自分の座乗艦を指揮しているのかというと、こうやっていたわけだ。

「クシナダ単独で救助行動は不可能……。

わざわざ、無防備な給糧艦で敵の前へ出ることになるとはな……」

そうつぶやく俺は、確かに感じていた。

このアマテラスへ持ち込んだ ア(・) レ(・) が、凶暴なうねりを発していると……。