軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

エピローグ

「それで話とは……?」

ドアが閉まるのと同時に口を開いた。

親友であり側近であるパイロンの父親を見送ったクファニックは、ベリリント伯爵が座っていた場所に移動する。

さっさと用件を聞いて、この場を去りたいと顔に書いてある。

「パイロン卿の交友関係ですわ」

女性の名前が書かれた書類を一枚、第二王子に渡す。

見えた限りでも相当の数に上る。私との婚約が決まる以前から、女性関係が華やか、というかだらしなかった。

「女性の中に第一王子と関係を持っていた方もいます」

「もしかして………………」

「ええ、高確率で第一王子も不妊になられているでしょうね」

男性の女性遍歴というのは令嬢たちの間に、あまり回ってこない話題だ。

それにも関わらず、パイロンと第一王子マーセルは割と有名だったのだから、相当なものだろうと察するのは難しくなかった。

「早急に検査と、家族会議をお薦めしますわ」

「もしかして、王女を国外に出さないことに、あっさり同意されたのは………………」

「娘以外に王位を継げない可能性を考慮しました」

後継を作れないのは、王として大きな瑕疵だ。

未だ第一王子が立太子しないのは、スターリング伯爵家を先頭に貴族たちの反対が強いからだが、王子が独身で子がいないのも大きい。

とはいえ後継者を産むという理由で何人も妃を娶るのは一昔前の話。

最近では二人以上の妃を持つのは現王くらいで、その前は五代以上遡る。その所為で「女好き」とか「好色王」と呼ばれている。

「殿下も覚悟された方がよろしいでしょう」

お母様の言葉に、第二王子が言葉を詰まらせた。状況的に自分も疑われていると察したのだろう。

辛うじて「戻って確認する」と言い終えると、普段とは違って礼儀正しく退室した。

* * *

臨時の御前会議が行われたのは、デビュタントの翌々日。

戻ってきたお母様は私をお茶に誘った。四阿に菓子などを用意させた後は、使用人をすぐに全員下げさせた。

「仕込んだのでしょう?」

お母様の第一声は、穏やかだけれど確信があるようだった。

外でお茶をするには不向きなほど寒い季節。

とはいえ庭にはこの時期にしか咲かない花もあって、昔からお母様と二人で楽しんでいる。

初春の庭は肌寒いとはいえ、陽射しは柔らかい。

お母様に言葉を返す前に、お茶で喉を潤す。

――お茶が美味しい。

蜂蜜が入ったお茶は寒い季節によく合う。

厚みのあるクッションにはしたなくならない程度に身体を預けた。二人でゆっくり過ごす、いつも通りの楽な体勢。

座席に温石、足元に携行ストーブ、そしてひざ掛けまで用意すれば、十分快適だった。

「梅を一枝、贈りました」

「そう、見事な手腕ね」

二人して扇子で口元を隠しながら、ウフフ、オホホと取り澄ました笑い声を漏らす。

少しの間笑った後、お茶で喉を潤した。

「お母様も、贈られたのでしょう?」

私は皮膚症状が出る病に感染するように仕向けただけで、不妊にはなりにくい。

「瑕疵をつけるなら、感染の事実だけでは足りないもの」

「マーセルに差し向けたのも、お母様ね?」

異母兄であり第一王子であるけれど、敬意は欠片も持ち合わせていない。

女好きで両親の悪い所だけを煮詰めたような人物だ。

「そうよ、交友関係を洗ったら女性を共有していたの。本人たちは気付いていなかったけれど」

世間話でもするような気楽さしか見えない。

私とは半分だけしか血が繋がっていないし、お母様からすると血のつながりはないから他人でしかない。気遣う必要も感じなかった。

そして――――――私は次代の王になった。

「結局、王冠が回ってきてしまったわ」

王子たちが国王になるのは反対だったけれど、別に私が女王になりたかったわけではない。

国王には自身より優秀な弟がいる。

そちらに王冠が行くと思っていたのだ。

「仕方ないでしょう、ミスリエル公爵は独身なのだから」

「私ではなく、私の子が王位を継ぐという選択もありましたわ。……お母様と再婚して生まれた子が継ぐというのも」

無能な兄ではなく、その弟と結婚するという話もあったと聞いている。

「今だってお二人で政務の大半を担っているではありませんか。再婚したところで何も変わりません」

顔だけ正妃の代わりに公務を行っているのはお母様だ。孤児院への慰問など面倒臭いこともすべて。

貴族の夫人たちとの交流と情報交換を兼ねたお茶会は、結婚直後に手酷くいびられたと言って親しい友人たちとだけ。

「むしろ余計な手間が省けてよろしいのでは?」

「そうかもしれないわね。でも建前があるでしょう?」

「王族を増やすという意味では最適です。特に王子たちの父親が怪しくなった今では」

性病に罹患したのは、パイロンと第一王子だけではなかった。既に完治しているとはいえ正妃も。そして国王に罹患した形跡はなかった。半ば嫌がらせのように側妃も調べられたけれど、こちらも罹患していない。ついでに先代国王の侍従だった者が、正妃の頭の緩さ故の懸念と、そのため殊更貞節さを求め警備と監視の目を厳しくされた側妃が、不貞を犯せるはずがないと証言して終わった。

「弟か妹がほしいと願っては駄目ですか?」

やや上目遣いでお母様を見つめる。「そんな顔をしても……」なんて言うけれど、不愉快には思っていなさそう。

「仲がよろしいのだし、王家の結束のためにも必要だと思います」

私はにっこり微笑んだ。

第一王子は子が為せないからという理由で失脚し臣籍降下した。王妃は罪を犯した王族を住まわせるための離宮に隔離。国王は退位したら妃の元に行くらしい。第二王子は急転直下の展開についていけず呆然としているところを、臣籍降下させほかの家族たちと離れた地方の鄙びた領地に放り込んだ。

すべてはお母様とミスリエル公爵の手によって。

厄介な人たちがすべていなくなった王宮で、二人に物申すことは難しい。

「駄目かしら?」

もう一度、同じ問いを繰り返した。

「考えておくわ……」

澄ました顔だったけれど、存外悪くなさそうだった。