軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

71話 戦士、暗黒領域へと旅立つ

迎えた旅立ちの日。

ここから俺達の新たな旅が始まる。

見送りには国王、ルーナ、それにマリアンヌが来てくれた。

「どうかお気を付けて、いってらっしゃいませ」

「なにかあればメッセージのスクロールで知らせてくれ」

「またねー、トール君! ばしっと片付けて戻ってきてよ!」

三人の言葉に頷く。

結局グレイフィールドを存分に満喫することはできなかった。

だが、ここで得られた物は大きい。

もし無事に戻ってこられたら、必ずみんなで風呂に入るつもりだ。

「トール殿」

「まだなにかあるのか」

歩き出す前に国王に引き留められる。

彼は声のトーンを落として耳元で語りかけた。

「暗黒領域に入った際は、フォーメリア国を訪ねるといい。そこの魔族なら金次第で魔王城へ案内してくれるはずだ」

「どうしてそんな情報を?」

「ここだけの話、我が国は魔族と秘密裏に取引をしている。今は魔王の出現で交流は途切れているが、きっと余の名前を出せば協力してくれるはずだ」

彼は俺にそっと封筒を差し出す。

協力を求む手紙が収められているのだろう。

表向き魔族と対立しているグレイフィールドとしては、あまり大きな声で交流があるとは言えないらしい。

敵に内通しているととられかねないからだろう。

俺は国王に一礼して街を出た。

首都を旅立ち、魔族の砦を越える。

ほどなくして俺達は魔族の支配する暗黒領域へと足を踏み入れた。

「普通というか、のどかですね」

「暗黒って言うからとんでもない場所かと思ってたわ」

「きゅう」

砦から続く道は草原を横切るようにあり、時折蝶々を見ることができる。

目が痛いほどの青空にぬるい風が吹いて気持ちが良い。

暗黒領域――名前は不気味だが、実際はただ単にヒューマンが支配をしていない土地の総称である。

そこでは魔族がそれぞれの国を創り、ヒューマンと変わらない生活を営んでいる。

「なんだか不思議な感じですね」

「そうか? 自分ではそこそこイケてると思ってたんだが」

「いえ、そのようなお姿のご主人様も素敵だと思った次第で」

「見えないだけで実際に角があるわよね」

「お話しするかフラウさん?」

「ひぇ」

今の俺達は、偽装の指輪で魔族の姿となっている。

俺は普段の姿に額から角が生えている。

カエデは狐の耳と尻尾を消し、同様に角があった。

フラウに関しては偽装は行っていない。

いつでもリュックに隠れられるので不要だと判断したのだ。

最悪、六将軍のミリムが付けていた偽装の指輪があるので、いざという時はそれを付けてもらうつもりだ。

「魔族の兵は見当たりませんね」

「一気に後退したんだろうな」

確かに魔族は強い。

けど、その代わり総数が少ないのだ。

おまけに彼らはいくつもの派閥があって一枚岩ではない。

自己中心的で荒々しくまとまりが悪いのが魔族という種族。

だからって大群で押し寄せれば無用に刺激する。

少数で魔王討伐に行くのは、魔族側につけいる隙があり成功率が高いからである。

「カエデ、マップのスクロールを出してくれ」

「はい」

スクロールを受け取り発動させる。

紙の上に半透明な窓が開き、詳細な地図が表示された。

俺は指で進行方向を確認する。

フォーメリア国は……こっちの方角になるのか。

「こっちに行くぞ」

「フォーメリアには行かないのですか?」

「そっちは草原が続いている。もし見つかったら逃げ場がない。国王には悪いが、ここは回り道をしながら、見つからないように動く方が得策だ」

それにフォーメリアが俺達に必ず協力するとは限らない。

もし正体を明かした上で裏切られたら、旅はより厳しさを増すだろう。

できるなら国王の手紙は最後まで使わずにとっておきたい。

――そんなわけで、予定進路とは逆の方向へと歩き出した。

俺達は森を抜け、小さな山を越え、大きく回り込むように進んだ。

時折、魔族とすれ違うこともあったが、向こうは俺達に違和感を覚えておらず、特にトラブルもなく旅は順調だった。

そして、目的の街へと到着する。

地図によるとその街の名は『コーゲハイン』。

詳細は不明だが、そこそこ大きい街のようだ。

高い外壁に囲まれた街へと入る。

「ヒューマン側と違ってずいぶんと雑多ですね」

「なんだか混沌としているな」

魔族の街は物が多い印象だ。

見かける店には山積みになった魔物の素材が置かれ、よく分からない干物とかが無数にぶら下げられている。屋台の前では昼間から酒を飲む男共がたむろし、その脇には狩っただろう魔物が粗雑に置かれていた。

さらに街のど真ん中を、虎系やトカゲ系の魔物が人を乗せて闊歩する。

生活レベルはヒューマン側とそう変らない印象だが、雰囲気にはかなりの隔たりがあった。

「しまった」

「どうしましたか?」

「こっちの金がない」

最近は金の心配をしなくていいので、すっかり気が緩んでいた。

よくよく考えてみれば魔族側の金を持っていない。

これじゃあ何も買えないではないか。

食事の為に財布を取り出してようやく気が付いたよ。

どうする?

適当なアイテムでも売って金にするか?

くいくい。

フラウに服を引っ張られる。

「ねぇ、あれなんなの」

「あれ?」

フラウが指さしたのは大きな金属の檻だった。

それを中心に人だかりができている。

看板には『30分耐えられた者には100万進呈』と書かれていた。

ほう、100万ももらえるのか。

どれどれ。

人を掻き分け檻の中を覗く。

「ひぃいいいいっ!」

「フシャー」

「出してくれ! リタイアする!」

魔族の男が悲鳴をあげて檻から飛び出した。

中には五メートルほどのソードキャットがいた。

ソードキャット――尻尾に剣のような硬質化した皮膚を有し、近づく者を斬り殺す。性格はどちらかと言えば臆病な分類に入り、攻撃されない限りは威嚇に留まることが多い。

ソードキャットは確か、暗黒領域にのみ生息する強い魔物だったはず。

へぇ、こんなところで見られるなんて幸運だな。

毛並みも薄茶色でなかなか可愛い見た目だ。

「誰か挑戦しないのか。参加料は後払いでもいいぞ」

「!!」

後払いと聞いて手を上げてしまう。

参加料は1万だが、100万が手に入れば問題ない。

今は少しでも金が欲しい。

資金なしではまともな旅なんてできない。

「ご主人様が行かずとも私が……ごくり」

「あんた猫を触りたいだけよね」

「そ、そんなことはありません! ここは奴隷としてですね!」

「でもあの猫、大きくて可愛いわよね」

「やっぱりフラウさんもそう思いますか!」

はっ、とカエデは誘導に引っかかったことに気が付いた。

どうでもいいがもう入るぞ。

誰が挑戦しても100万は変わらないんだ。

俺は檻の中へと入る。

「ふしゃー!」

「落ち着け、何もしない」

両手を挙げて見せ無抵抗の意思表示をする。

だが、ソードキャットは檻の隅に身を寄せ威嚇を続けた。

魔物に人並みの知性を求めるのは無理があったか。

できればプライドを傷つけずにクリアしたかったのだが。

「ギブアップしてもいいんだぞ」

「まだ一分も経ってないだろ」

「無駄無駄。ウチの猫に五分以上耐えられた奴はいないんだよ」

……五分ね。

もしかすると特に警戒心の強い性格なのかもしれないな。

しゅっ。

近づいた瞬間、ソードキャットから尾を突かれる。

「なんだとっ!?」

外がざわついた。

店主も驚きに檻にしがみつく。

俺は尻尾の剣を、二本の指で挟んで止めていた。

レベル300台にもなれば、このくらいの芸当もできるようになる。

猫は尻尾を引っ張るが、俺の指からはピクリとも動かない。

すかさずテイムマスターを発動。

俺の発する空気が魔物の心を落ち着かせる。

さらに近づいて首の辺りを撫でてやった。

ごろごろ。すりすり。

ソードキャットはごろんと転がってお腹を見せる。

さらに撫でてやると喉が鳴った。

「ご主人様、私も触らせてください!」

「あ、こら」

「じゃあフラウもー」

「勝手にすり抜けるな!」

鍵を開けてカエデが檻に入ってくる。

フラウは小さいのでそのまま中へ。

三人で猫を撫でてやる。

なんだこいつ、可愛いな。

もふもふしてるぞ。

「100万やるから帰ってくれ!」

え、もう終わりなのか。