軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

48話 戦士は男爵の家に招かれる

炎斧団(フレイムアックス) の面々を先頭に遺跡内を進む。

中央にはスコッチェル卿を配置し、後方の守りは俺達漫遊旅団が引き受けた。

どこまでも続く薄暗い通路。

先頭を行くオルロスがランタンで先を照らし続ける。

「貴殿らと出会えたのは奇跡じゃ。危うくわしは最愛の孫を亡くすところだった」

「その毒ってのはそんなに強力なのか」

「ガーゴイルの毒といえばお主にも分かるのではないか」

すぐに理解して頷く。

ガーゴイル――人型の魔物で外見は悪魔のような姿をしている。表皮は石のように硬く、その爪には人を石のように硬直させ、最後には死に至らしめる猛毒が備わっている。

解毒方法は三つ。

一つ目は解毒のスキルを使用する。

二つ目は解毒のスクロールを使用する。

三つ目は上級から最上級の解毒薬を使用することだ。

稀に毒に耐えて生き残る者もいるが、侵されればほぼ確実に死ぬ。

「我が家は金がない。薬もスクロールも手に入れる余裕がなかった。おまけに解毒のスキル持ちは大変貴重で現在この国では存在していないのじゃ」

「それで藁にも縋る思いで遺跡に……」

「うむ、だがわしは特大の藁を掴んだようじゃな」

ニカッ、と老人は笑う。

なんとなく人柄が良いのが分かる。

俺も年を取ったらこんな年寄りになりたい、そう思わせる雰囲気が彼にはあった。

「ところで漫遊旅団、あんたらはどの程度戦えるんだ」

オルロスの質問には少し棘があった。

「そこそこには」

「嘘つくんじゃない。英雄になるような奴がそこそこなわけないだろ。実際のところどうなんだ、ドラゴンはやったことあるのか」

「レッドドラゴンを一頭だけ」

「マジかよ!?」

ウチ以外のメンバーがざわつく。

その反応は理解できるよ。

レッドドラゴンはバカみたいに強いくせにそれなりに頭数もいるからな。

街や村を襲うのは大体レッドドラゴンだ。

言うなれば恐怖の象徴。

同時に冒険者達の倒したい魔物、堂々のナンバーワンだ。

カエデがこそっと耳打ちする。

「私の薬の時ですか?」

「そうそう、お前もハンバーグ食っただろ」

「あー、あれは美味しかったですね」

ドラゴンのステーキの味を思い出すと涎が出そうになる。

もう少し肉を持って帰るべきだったな。

「すっごーい! フェアリーなんて初めて見たにゃ!」

「ふふん、フラウの可愛さにメロメロみたいね」

「この下の白いのはなんなのにゃ?」

「こっちはパン太よ。フラウの下僕なの」

「きゅう!?」

猫部族のリンとフラウが楽しそうに会話をしている。

ただ、パン太は不満そうだ。

「でもあんた、どうして語尾に『にゃ』とかつけてるわけ?」

「こっちの方が男が入れ食いだからにゃ」

「な、んだと!?」

「困っちゃうにゃ~、男はすぐにちやほやして貢ぎたがるにゃ~」

「ぐぬぬ、なんだこの敗北感」

フラウががくっとうなだれる。

だが、リンの言うことは的を射ている。

男はなぜか語尾が猫っぽいと興奮するのだ。

なぜなのだろうな。大いなる疑問だ。

一日かけて地上に出た俺達は、朝日を浴びながら空気を吸い込んだ。

「やっぱ日を浴びないとすっきりしないな」

「遺跡の中は埃っぽかったですからね」

「ほんと、はやく水浴びしたいわ。体中がベトベト」

「きゅう」

遺跡の入り口は森の中で埋もれるようにして存在していた。

傾いた石像にはツタが絡みつき、一部には青々と苔が生えている。

石畳があっただろう地面からは草が生い茂り、朽ちた石柱が対照的に二列に並んでいる。

「ここでひとまず休憩をしましょうかスコッチェル卿」

「いや、帰りを急がねばならん。休んでいる暇などない」

「しかしすでに体力の限界が」

「パン太」

スコッチェル卿の前にパン太が出る。

楕円形だった形状がさらに大きく広がり、人一人乗せるほどとなった。

「パン太は人を乗せる眷獣なんだ。家まで送るから遠慮なく使ってくれ」

「ありがとう。助かる」

ぐにょん、老人は乗るなり目を丸くする。

初めての感触に驚いたのだ。

パン太はふわふわで柔らかく少し温かい。

「眷獣とはこのような生き物なのか……興味深いな」

「あんまり揉まないでやってくれ、そういうのは嫌がるから」

スコッチェル卿がパン太をもみもみするので注意する。

案の定、パン太の目は嫌がっていた。

俺達は遺跡を出発、グリジットの首都へと移動を開始した。

「あれが我が家じゃ」

「元英雄にして男爵の屋敷、の割にはこぢんまりしてるんだな」

「でかけりゃいいってものでもない。生活するだけならあれくらいで充分じゃ」

「同意するよ」

スコッチェル卿の屋敷は大通りに面した二階建ての建物だった。

ただ、横幅は広く二軒分はありそうだ。

外見はお洒落でどこか可愛らしい印象を受ける。

奥さんの趣味だろうか。

「それでは自分達はこれにて」

「うむ、わざわざ付き合ってくれて感謝するぞ。これは謝礼だ」

「こんなに!?」

「頑張ってくれた仲間に美味いものを食わせてやれ」

「ありがとうございます! 師匠!」

炎斧団(フレイムアックス) は俺達にも軽く手を振ってから去った。

「師匠って?」

「あのオルロスはわしの弟子なんじゃよ。今じゃすっかりわしより強くなってしまったがなぁ。はな垂れたガキが立派になったもんじゃ」

師匠と弟子か……なんかいいな。

俺の場合、基礎は親父に習ったけど途中で死んでしまって、それからはほぼ独学で戦いを学んだ。まともに師匠って呼べる人はいない。

オルロスが羨ましいよ。

俺達は家に招き入れられる。

「お父様、どうでした遺跡の方は!?」

「収穫はなかった」

「そうですか……やはり」

家に入るなり中年の女性が奥から走って出てくる。

恐らく床に伏せっている孫の母親なのだろう。

スコッチェル卿の報告を聞いて彼女は落胆した表情を浮かべた。

「その代わり、遺跡で出会った者達から最上級解毒薬を譲ってもらった。これでアンナは助かるぞ」

「あああっ、よかった! これであの子が!」

「すぐに飲ませてくるといい。わしは客人をもてなさないといけない」

「はいお父様!」

小瓶を受け取った母親は、俺達に一礼してから二階へと行く。

これで彼の孫も助かるだろう。

ダイニングへ招かれ椅子に腰を下ろす。

「茶を淹れてくるので少し待っていてくれ」

「気を遣わなくても構わないのだが」

「馬鹿を言うな。可愛い孫の命の恩人だぞ、お主達は大人しくそこに座っておれ」

台所へと消えたスコッチェル卿に、俺達は顔を見合わせる。

貴族にお茶を淹れさせるなんて初めてだ。

ずいぶんと距離が近くて調子が狂う。こっちは平民だぞ。

淹れたてのお茶が置かれスコッチェル卿も腰を下ろす。

「この度は本当に感謝する。この気持ちは言葉に言い表せないほどじゃ」

「いいって。たまたま解毒薬があっただけなんだからさ」

「お主達にはそうであってもわしにとっては違う。返しきれない恩ができてしまった。どのようにこの気持ちを形にするべきか実に悩ましいところだ」

彼は「あ! そうだ!」と手の平に拳を打つ。

部屋を飛び出すと、家中にどたどた足音が響いた。

元気なじいさんだ。

先ほどまでへばっていたのにもう走る気力があるとは。

戻ってきた彼はテーブルに箱を置く。

「ひとまず今はこれで納得してくれ!」

「いや、なんなんだこれ」

「ぐふふ、気になるか? 気になるだろう?」

「急に意地悪になるな」

箱は長方形で木製だ。

ぱっと見では何が入っているのか分からない。

しかし、このサイズ感……どこかで。

スコッチェル卿が箱を上へと開くと、そこには布にくるまれた何かがあった。

ぱさり。布がめくられ下にあった物が露わとなる。

「まさか」

「そうじゃ、これは眷獣の卵じゃ」

そこには薄い青色の異質な卵があった。