軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

古代種の旅立ち

さらに数年が過ぎ――俺は四十代となった。

漫遊旅団はその規模をさらに大きくし、南方大陸に建設した拠点もいつしか街と呼ばれるほどに発展と拡大を続けている。

クリスナダムはあれ以来、目立った動きもなく大人しくなった。

俺としては次に何かあればクリスナダムへ直接乗り込むつもりだったのだが、意外にも危機察知能力は高かったようだ。一連の出来事は全てスパイクの独断となり、漫遊旅団に謝罪と大量の金貨が送りつけられた。その後もスパイクの後任を送るに留め、漫遊旅団を刺激する行動は一切とらなくなった。

もちろん警戒は続けている。クリスナダムの思想と相容れないことはすでに明白だ。向こうもこのまま終わらせるつもりはないだろう。

一方で赤ん坊だった子供達は、成長して日々元気に走り回っている。

中でもネイが産んだ双子の姉妹は抜群の戦闘センスを有し、すでに大人の冒険者と肩を並べるほどの近接格闘の使い手となっている。他にも戦闘以外で開花しそうな子供もちらほらいてみんな個性豊かだ。

長女のクララは修行と称し、単身で南方大陸の奥地へと向かった。

ノックスとカイトは二人であちこちふらふらしている。

三人ともたまに戻ってきたかと思えばすぐに旅立つので、ここしばらくまともな親子のスキンシップができていない。お父さん寂しいぞ。

あと、チバが漫遊旅団に入団した。イーザス拠点にあった遺物を全てイーザス本国に送ったら『寛大な措置に深く感謝しているでござる。しばし貴殿への恩返しにこの力振るわせていただく所存』などと言いながら眼を潤ませていた。現在は直属の部下として精力的に活動している。

そんな感じでそれなりに順風満帆に過ごしているわけだが、実は一つだけ気掛かりなことがあった。

現代に目覚めた古代種達である。正確には俺が目覚めさせただが。

彼らは不自然なくらい静かにひっそりと古都で暮らしていた。何をするわけでもなく本当にただただひっそりと。高度な知識と技術を有する彼らを危険視すると同時に心配もしていた。

「――古都に来るのは久しぶりだな」

「仕事に子育てと忙しかったですからね。トールはよく頑張っています」

「そうかな。どうすれば父親らしくなれるのか日々悩んでいるいる感じだけど」

「誰だってそうですよ。初めから何でもできるのは私のような超高性能なゴーレムくらいです。そう、私は超高性能」

なぜ二回言った。まぁ実際そうなんだけど。

ネーゼばあちゃんはどや顔で普段の臆病ぶりが嘘のようである。古都に近づくほどに本来の自分を取り戻しているようだ。

俺とばあちゃんはゲートを越えて、古都の存在する例の不思議な世界へと足を踏み入れた。

「なんだよあれ」

二つの月が輝く空に数え切れない数の白い長方形の箱が浮いていた。

遠すぎて小さく見えているが、実際は一つ一つとんでもなく巨大なサイズだ。箱は空に縫い付けたように静止しており動かない。

「あれは・・・・・・まさか!」

「ばあちゃん!?」

ネーゼばあちゃんが街に向かって駆けた。

「これはどういうことでしょうか!? なぜ船を!?」

三体の像が並ぶ部屋には、白い髪と髭を生やした巨躯の老人が椅子に腰掛けていた。

彼こそ中立派をまとめる三王家の一人。中立派の王。

つまり俺のご先祖様だ。

ばあちゃんの問いかけに彼は表情を変えず返す。

「我らもこの地を去ることにした。これより安住の地を探し星の海に出ることにする」

「ここが安住の地ではないのですか!?」

「かつてはそうだった。だが今は違う。目を背けることすら許されぬ膨大な罪と罰を刻みし地である。居場所はない。もはや母に抱かれる資格もない。たとえあろうとこの罪悪感が拒絶を強いる。再び戻るには永き時が必要だ」

過ちから逃れるべく過ちを犯した。永遠の鎖から解放されたとしても記憶は残り続け苦しみ続ける。直視するにはあまりに醜すぎ愚かすぎた。悪夢から覚めても余韻は永く続く。彼らにとってこの地は目を背けることも許さない罪と罰の象徴なのだ。

しかし、ネーゼばあちゃんは造物主たる彼らが離れることをよしとしなかった。

「もう一度お考え直しを。どうかご再考を」

「すでに覆せぬ決定事項だ。希望者のみを残し我らは新天地を求め旅立つ。いつか末裔が帰還するやもしれぬ。それまでこの地は其方らに預けるとしよう」

相変わらず会話ができているようでできていないおっさんだ。

鍵を使って寝覚めさせた時もこの調子だった。むかついて一発殴ったんだが、感情が死んでいるのか表情も変えず「すまぬ」とだけ返事しやがった。しかもおっさんだけじゃなく全員似たり寄ったりだ。怒る気力も失せる。

「我が末裔よ。其方にこの古都に眠る全ての遺産を託そう。知識を欲するならば探すが良い。地上人に与えるもまた其方の自由だ」

「また重たいものを押しつけやがって」

「ふむ、そうかもしれんな。しかし自由と伝えた」

もう一発殴っておこうか。また腹が立ってきた。

ふと、ネーゼばあちゃんの目に迷いのような色があるのに気がつく。

「一緒に行きたいならそう言えばいいだろ」

「・・・・・・そのつもりはありません。私は、トールと共に人として在ると決めたのですから」

彼女の目から迷いが消え、王は彼女をはっきり瞳で捉えてからその場から消え失せた。

直後に外からラッパを鳴らしたような音が響く。

二人で外に出ると、船団がゆっくりと動き出していた。

天高くどこまでも昇って行く。

ネーゼばあちゃんはずっと見送っていた。

「星の海ってどんなところだろう」

「長生きできればいつか行けますよ。貴方がその気になれば今すぐにでも」

残された知識には船の設計図も含まれているってことか。

もしかしたら船そのものがあったりとか。

けど、今は探す気にもなれない。

様子を見に来ただけだったのだが、思いもよらぬ出航を目撃するはめになってしまった。

「帰ろうか。ばあちゃん」

「ええ、子供達にクッキーを焼いてあげないとですからね」

ネーゼばあちゃんは柔和に微笑んだ。