軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

最終話 戦士の幸せな日々

ザウレスとの戦いから数ヶ月が過ぎ――。

俺達はラストリアに一度報告に戻った後、再び異大陸へ戻ってきていた。

理由は仲間を手助けするためだ。

なにせソアラもピオーネも要職に就いていて簡単には辞められないし、ネイも信頼を寄せてくれる第二漫遊旅団の団員を放り出すわけにもいかず、区切りが付くまで活動を継続させるといってきかない。あとアリューシャが観光したいとごねて五月蠅いのだ。

そんなわけで俺達はビックスギアで仮の居を構え、調査団や仲間達の活動を手助けしながらのんびり生活していた。

「買い物に行きたい~、美味しいもの食べたい~」

「アリューシャの言う通りデース!」

「五月蠅い……」

アリューシャとモニカが両側で訴えてくる。

エルフ同士仲良くなるのは全くもって構わないが、その仲の良さを武器に俺を連れ出そうとするのは反則ではないか。

だいたい昨日も一昨日も散々買い物に付き合ったじゃないか。

「お二人とも我が儘はいけませんよ。どうぞコーヒーです」

「サンキュウ」

エプロン姿のカエデがカップをテーブルに置く。

嗅ぎ慣れた香りが漂いやや気持ちが高ぶる。やはり朝はこれだ。

「はい、新聞」

猫用の出入り口を通って家の中に入ってきたフラウが、表のポストからとってきた新聞をテーブルに放り投げた。

ちなみに猫は飼っていない。

前の住人がとりつけたものらしいが、外すのも面倒なのでそのままにしている。

「ちゃんとドアを開けて入れって言ってるだろ」

「いいじゃん。サイズ的にぴったりだし使わないと勿体ないじゃない」

「パン太が詰まるんだよ」

フラウが通り抜けた猫用の出入り口にパン太がみっちりはまっていた。

あの穴、ちょっと小さめなんだよなぁ。

「きゅ~!」

「あんたは二階の窓から入るって決めたばかりでしょ。仕方ないわね」

フラウはパン太を強引に引っ張り中へ入れる。

最強の眷獣となったパン太だが、実は完全に変わったわけではなかった。

あの戦闘が終わった後に普段の姿に戻っていたのだ。

まぁ先輩らしい活躍を見せることもできて、今では他の眷獣との仲もそこそこ良好である……サメ子を除いて。

新聞を開いて目を落とす。

そこには聖女ソアラの民衆へ訴えかける姿が描かれ、でかでかと『聖女王誕生!!』の文字が一面を飾っていた。

完全に国を乗っ取ってしまったらしい。

相変わらず絶好調のようだ。関わり合いたくない。

「おはよ~」

「おはようございます」

二階からパジャマ姿のピオーネが下りてくる。

彼女はそのままソファに寝転がり、猫のように丸くなって眠り始める。

……ずいぶんだらしなくなったな。

強引に長期休暇を取ってソアラのもとから逃げてきたのはいいが、目も回るような忙しさから解放された反動かずっとだらだらしている。

「おい、ピオーネ! お前もトールに言ってくれ!」

「起きるデース。起きるデースよ」

「ちょ、ゆら、さないでぇええええええ」

今日も覚醒するまでエルフ組に玩具にされているようだ。

そろそろと思っていたところで、目の前にバターを載せたパンが置かれた。それから目玉焼きとベーコンも置かれる。朝食を運び終わったカエデは微笑みながら隣に座った。

「今日も賑やかですね」

「そうだな」

左手に指輪をはめた彼女は幸せそうだ。

その首には首輪はなく、主従契約の紋もすでにない。

つい先日、俺達は夫婦となったのだ。

今は新婚期間を楽しみながら過ごしている。

フラウとパン太もテーブルに乗り、がぶりとパンに齧り付く。

「フラウも早く結婚したいわ」

「すいません」

「カエデが謝ることじゃないわ。皆で決めたことだし。一番は煮え切らない主様が悪いのよ」

「うっ」

それを言われると辛い。

まさか全員が結婚したいと言い出すなんて予想もしていなかったんだ。

お礼に贈ったはずの指輪がいつの間にか婚約指輪になってて、ソアラに「期待させておいて裏切るつもりですか? 天罰が下りますよ?」なんて脅されてさ。

マリアンヌにも「一夫多妻は珍しくありませんのよ?」と詰められ。

ネイには「アタシと結婚したくないんだ……ひぐっ」と泣かれる始末。

あれは断れる雰囲気じゃなかった。

それでもなんとか『カエデと最初に結婚させてもらいたい』って約束を取り付けたんだよなぁ。

二人だけの新婚生活を楽しむ時間も与えて貰ってさ。

実際は御覧の通り賑やかな集団生活だが。

「おはー、今日もみんな元気だねー」

一際明るいオーラでルーナが帰宅する。

遅れてマリアンヌも戻る。

「これ、副団長さんがお礼にって」

「まぁクッキーですか」

「お菓子作りを趣味にされているそうですわよ」

カエデがルーナから甘い匂いのする紙袋を受け取った。

あのお堅い印象しかない調査団の副団長がお菓子作りとは。

人は見かけによらないんだな。

ルーナとマリアンヌは調査団本部で働いている。調査団は現在、異大陸の各地へ団員を送り出し調査を進めている。目的は異大陸に張り巡らされた物流経路を調べることだ。その地の特産や工芸品も調査し、島――主にラストリア――の品々を売り込めないか探っているらしい。

逆に近々こちらからもラストリアやアルマンへ使節団が派遣されるそうだ。

東の諸国で形成された『漫遊友好の会』の代表達もそう遠くない内に外海を渡ることとなるだろう。

ルーナとマリアンヌは二人で台所に立ちお茶を淹れる。

二人は婚約者と言うだけでなく国の命令もあってここにいる。

異大陸の情報はあちらにとって黄金にも等しい大変貴重なもの。場合によっては直接的な利益にも繋がるだろう。しかし、現状はラストリアが一歩も二歩も先を行っている。そこで両国は二人を傍に置くことで、ラストリアを出し抜こうと考えたのだ。

難しい話はよく分からないが、マリアンヌが言っていたので確かだろう。

ばさばさっ。表の道でワイバーンが着地する。

通りを歩いていた人達は悲鳴をあげて逃げ惑っていた。

ワイバーンから飛び降りたのは紅の制服を身につけたネイだ。

俺が見ているのも気が付いていないのか、スキップしながらウキウキ気分で玄関のドアを開ける。

「来たぞー!」

「いらっしゃいませ。朝食は食べられましたか?」

「まだだ。お腹ペコペコだ」

「ではお作りしますね」

カエデが気を利かせ台所へ向かう。

ネイは週に一回この家へ訪れる。第二漫遊旅団は国のお抱えになっているのでビックスギアに拠点を移すこともできず、今はこうして時折遊びに来るに留めている。

席に着いたネイは俺の腕に抱きついた。

「トール、ああ、トールだぁ」

「お疲れ様。仕事は忙しいのか?」

「今は落ち着いてる。リンが抜けた穴埋めもできたし」

ネイを支えていたリンは祖国へと帰還した。

彼女には『炎斧団』という居場所があり帰りを待ち望む人達がいた。

今回の転移騒動で彼女はより幼なじみである仲間を大切に感じたそうだ。

ソアラのように戻らない者もいれば再確認して戻る者もいる。だけどそれでいいと思う。何かを求めて何かを失って、本当に大切なものに気が付く。回り道してもいいんだ。近道だけの人生なんて楽しくないだろ。だからリンの選択を俺は喜んでいる。

「あのさ、そろそろ団長として団員に挨拶してくれよ」

「え、それは……」

「皆会いたいって五月蠅いんだよ」

俺は会いたくないんだよなぁ。

今まで不在だった団長が現れれば良くも悪くも目立つだろうし、何より団員の中で俺が伝説の人になっている点が嫌だ。

いずれ会いに行かなければならないだろうが、もう少しだけ先送りにしたい。

「ごちそうさま。ねぇ主様、そろそろ武器が恋しいのだけれど」

「あー」

食事を終えたフラウがハンマーを振り下ろす仕草をする。

俺は部屋の隅に立てかけている聖武具――聖波動極大霊滅機二十七式をちらりと見た。

あれから聖武具は完全に一つの武器になってしまった。

否、元の一つに戻ったのだ。これが本来の形なのである。

おかげで俺は防具を、カエデは鉄扇を、フラウはハンマーをなくしてしまった。

そこそこレベルはあるので素手でも苦労はしていないが、いざとなれば武器も防具も必要となる。しかし普通の武具では俺達の身体能力に耐えられないだろう。

聖武具に代わる特別な品を見つけなければ。

「新しい武具を捜す旅に出ましょ。この大陸なら聖武具並の遺物もあるんじゃない?」

「それはいいですね。マリアンヌさんが行った北には、未探索の遺跡が沢山あると聞きますし」

「アタシは南方を勧めるかなぁ。誰も近づけない遺跡があるって耳にしたぞ」

仲間達が行き先の候補を次々に挙げる。

やっぱ本格的な定住はもう少し先になりそうだな。

さぁ、次はどこへ行こうか。

ぱきっ。

【完】