軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

211話 戦士と古代都市1

眩しさに目を細めつつ、光景を確かめる。

目の前には石造りの長い通路があって、遙か遠方には陽光に照らされ輝く街があった。青い空には見覚えのない月が二つ浮かび、空を漂う無数の島からは水が流れ落ちている。

ぱたぱたとカエデが走り、その後をフラウが追いかける。

二人は通路の下を覗いた。

「見てください、大きな滝です」

「ちょ、ここ浮いてるじゃない! どうなってんの!?」

俺も下を覗く。

眼下では手が届きそうな位置に美しい滝があった。真下では森が広がり滝壺に落ちた大量の水は、森を横切り地平線にまでぐねぐねと河が延びている。

先ほどまでいた場所を確認すると、球形の建物が支える柱もなく浮いている。

こんな景色見たことない。

何もかもが初めてだ。

「一度も来たことがないのに懐かしい感じがするんだ」

「はいはーい! フラウも! すっごく懐かしくてなんだか泣きそう!」

「実は私もなんです。先ほどから届く匂いが大婆様の匂いとよく似ていて」

会話をしつつ街へと向かう。

古代種の街は朽ちることなく存在していた。

どの建物も向こうで見たようなデザインで、水路や噴水には綺麗な水が流れている。

だが、全く人の気配がない。

時が止まったように恐ろしく静か。建物の中を覗くと物や生活していたような跡はあるが、まったくと言っていいほど生き物の姿がなかった。

何があったんだ。全ての古代種はどこへ。

そもそも俺は龍人がなぜ消えたのかよく分かっていない。

かつて大きな戦争があったことはタマモのばあさんから聞いた。けれど生き残った者達がいたはずだ。そうでなくては俺がここにいる説明がつかない。

眷獣を呼び出す。

「しゃあ!」

「ちゅぴぴ」

「くら~」

ロー助、チュピ美、クラたん、三匹に指示を出した。

なんでもいい街にいる生き物を探せ、と。

三匹は三方に散らばった。

「よく考えればここってお宝だらけよね。いくらでも遺物が手に入るじゃない」

フラウが店のガラスにへばりつく。

店の中にはスクロールの山があり、記憶にない道具も至る所にあった。

確かにお宝の山、なんだろうな。

けれど手を付ける気にならない。遺跡と呼ぶにはあまりにも綺麗すぎて、なんつーか万引きしているような感覚に陥りそうだったからだ。

「ご主人様、こちらの家で休まれるのはいかがですか」

「お、おお……」

いつの間にかカエデは手近な家を漁っていたらしく、玄関から顔を出して我が家のごとく俺を呼んでいた。

ちょうど腹も減っていたのでここらで食事にするべきか。

持ち主には悪いが、少しの間だけ家を借りようと思う。

「思ったより普通だな」

古代種の家は俺の知る家とそれほど違いは無かった。

逆に現代より不便な生活を送っていたようにすら感じる。それでも随所にその技術の高さをうかがい知ることができた。

「この鍋、すごく軽くて硬いですよ」

台所で鍋を見つけたカエデが驚愕している。

その鍋は羽のように軽く、レベルが万に至った俺達ですら破壊できなかった。

古代種の技術力は進歩を続け、とうとう破壊困難な調理器具を創り出すに至ったらしい。しかも恐るべきは一般人が当たり前に所有している点だ。

「ご主人様……これ、欲しいです」

古代種の鍋に魅了されたカエデは、持って帰っていいかと許可を求める。

大きな目はキラキラ輝き、尻尾はいつも以上にふぁっさふぁっさ揺れていた。

いや、でも人の持ち物だし。とは言え可愛い奴隷のお願いを断るのも。

人を見つけられれば事情も聞くことができるんだが。

「むにゃむにゃ……白パン、美味しそうになって帰って来たわね」

酔い潰れたフラウはパン太の夢を見ているようだった。

カエデも寝息を立てて熟睡している。

俺はそっと身体を起こし、窓際に立った。

深夜だというのに街は暗く静けさだけがたたずんでいる。

ここが母さんの生まれ育った地なのだろうか。まだ確証はない。しかし、この古都に何かがあるのは間違いないだろう。

空を見上げると二つの月が輝いていた。

転移したんだよな……?

天獣域みたいな鏡の中にある世界とも違うようだし。

ま、いくら考えても俺みたいな馬鹿には理解できないだろう。

「――!?」

不意に視線を感じ取り、向かいの建物の屋根に目を向けた。

けれど人らしき影はない。

気のせいか?

寝床へと戻り毛布を被る。

ちょっと寒いな。そうだ、カエデの尻尾を一本借りよう。

隣にいるカエデの尻尾を毛布の中へ引き込んだ。

あったかーい。触り心地も最高だ。

すやぁ。

本日は屋根の上でランチタイムである。

カエデの作ってくれたサンドイッチを片手に、三匹の眷獣の帰りを待っていた。

かれこれ捜索に出して一日以上が経過している。

古都がとんでもなく広いことは一目で分かるものの、いくらなんでも帰還が遅い。

次第に不安が沸き起こる。

「ねぇ、あそこお城っぽくない?」

フラウが指さした方角には、一際大きな神殿のような建物があった。

あそこに行けば、何か手がかりが得られるかもしれない。

向こうではピオーネ達も待ってくれている。セインだっていつ現れるか不明だ。できる限り早く戻りたい。

手早く食事を済ませた俺達は、大通りを抜けて例の建物へと向かう。

「――見てください、人がいます!」

建物の入り口で人を見つけた。

その人物はこちらに気が付いているようで、尚且つ接触の意思があるのかその場から動かない。

近づくほどにその人物の外見がはっきりする。

女性、それもヒューマンのようだ(龍人とヒューマンの見分けが付かないので、ここはあえてそう述べておく)

目を見張るのはその容姿。作り物のように整った美しい顔に、みすぼらしいボロボロの衣類を身につけている。まるでつい先ほどまで姫君だった女性が、奴隷の身分に落とされたかのような姿である。

そして、その首には不細工な木製の首飾りが下げられていた。

「遙々遠き地よりお越しいただきありがとうございます。本機はM2KK-00742でございます。呼称として『ネーゼ』とお呼びください」

ネーゼと名乗った彼女は恭しく一礼する。

まさか、ゴーレムなのか?

一度だけだが人間そっくりの生活支援型を見たことがあった。

しかし、あの時は僅かに違和感があったが、目の前の彼女にはそれが一切ない。どう見ても人である。

彼女はにっこりと微笑み何かを待っていた。

「もしかして自己紹介を待ってるんじゃない?」

「あ」

うっかりしてた。

つい目の前の彼女に目が奪われていた。

振り返れば、カエデが何やら不満そうに頬を膨らませている。

未だに彼女の怒るポイントが掴めない。

「俺はトール・エイバンだ。こっちはカエデで、あっちはフラウ」

「トール様ですね。メモリーに登録いたしました。それではこちらへ」

促されて例の建物へ。

中へ入った瞬間に、ここが特別な場所であると瞬時に悟る。

磨き上げられた純白の壁や床に、無数の光の線がうっすらと血管のように走っていた。

さらにエントランスでは天井を貫くガラスの筒があって、その中にはエメラルド色に輝く世界樹を小さくしたような樹があった。

外も別世界のようであったが、建物の中もまた別世界である。

常識を越えた光景に俺達は言葉を失っていた。

「もしよろしければ、質問などさせていただいてもよろしいでしょうか?」

「あ、ああ、なんでも」

「どうやってここをお知りになったのですか? すでにこの都市は忘れ去られたものとばかり思っておりましたが」

「母さんの故郷を探してここまで」

彼女は納得したとばかりに一度だけ頷く。

「では、トール様はクオン様のご子息なのですね」