軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

209話 戦士は古き都へ到着する

倒したはずのイオスが口角を鋭く上げる。

ただ、前回とは少し姿が違う。

デザインが変わった左腕の義手は、素人の俺でも分かるほど異質。マントの下に纏う服も上質ではあるが、彼の趣味とは思えないほど落ち着いた色合いをしていた。

「戦いに来たわけではない。ほんの偶然、たまたま見かけたので挨拶に来ただけだ」

「貴様が襲ってこないなんて保証どこにある」

「もっともな意見だな。だが、本当に戦う気はない。そうだな……あの黒い魔物について情報提供をすると言えばどうだ?」

しばし考えを巡らせる。

こいつは何か知っているのか。

何が狙いだ。気になるのはどうやってあの戦いから生き延びたのか。

聞きたいことが多すぎて参るぜ。

カエデが震えながら俺の腕にしがみつく。

「レベルが、58万……」

驚愕の数字にざわつく。

どうなってる。前回と数字が違い過ぎる。

この短期間でレベルアップしたとでも言うのか。

それとも偽装されていたと?

こちらの動揺をイオスは腹を抱えて笑う。

「はははははっ、良い反応だ。その顔を見たかった。話をする前に種明かしといこうではないか」

「教えてくれるのか……?」

「隠すことでもない。何より戦場ではよく使われる手でもある」

彼は羽のように軽く橋の柵に飛び乗った。

それから演劇を始めるがのごとく、大げさに手を広げて見せる。

「端的に言えばアレは俺様が丹精込めて作った影武者だ。よく似ていただろう?」

――影武者だと?

似ていたなんて話じゃない。あれはうり二つだった。

実際左腕も義手だったし、レベルだって馬鹿みたいに高かった。

「俺様には記憶を操作する遺物があってな。それを使ってアレの意識を俺様だと誤認させていたのだ。しかし、それだけでは鑑定の目を誤魔化すことはできない。アレが俺であると世界に認識させる為に二十年以上フリをさせてきた。どうだ手間がかかっているだろう」

言葉が出ない。記憶を操作され二十年以上も人形にさせられていたなんて。

俺が倒したのは、まったくの別人。

なんなんだこのもやもやした感じは。

「気に病む必要はないぞ。アレは元は罪人であった魔王だ」

「俺を知っているってことは、あの場にいたのか」

「見ていたとも。必死に抗うタマモをこの目で愛でる為にな。とは言えアレは少々やり過ぎた。あのような過激な行動に出るとはな。いくら姿形は似せようと本質の部分で違いが出てくるようだ」

イオスは「花とは触れず目で愛でるものだ」などと意味深に微笑む。

「本題だ。あの黒い魔物について語ってやるとしよう」

ごくりと喉が鳴る。

俺だけでなくカエデもフラウも緊張しているようだった。

「あれは俺様が飼っていた道化であった。正確には影武者が飼っていたと言うべきかな。一目で気が付いたよ、あれが醜悪な存在を抱えていることに」

「もっと分かりやすく教えてくれないか」

「よかろう。あの漆黒の武具は、古代種の意識を宿した禁忌の兵器だ」

禁忌の兵器?

古代種の意識を宿しているってどういうことだよ。

イオスは慌てるなと手で制する。

「俺様のいた陣営が開発した兵器の一つであった。一時はその性能に期待もされたが、後にコントロールが難しい代物であると発覚し、何重にも封印を施し眠らせたはずなのだ」

彼は話を続ける。

「あれは時間の経過と共に所有者へ根を潜り込ませ乗っ取る。いいや、乗っ取るなど生ぬるい話でないな。完全に取り込まれその一部となってしまう」

セインの様子がおかしかったのも同化が進んでいたからなのか。

古代種も恐れた禁忌の武具がなぜリサの元にあったのか、その点には引っかかりを覚えるが、今はどう対処すべきか聞かなければ。

「弱点とかないのか」

「ないな。あれは一片まで滅しなければどのような形だろうと復活する。だが、全く勝ち目がないわけではない。貴様の持つ聖武具が切り札だ」

「これが?」

大剣の柄に触れる。

異大陸に来てから聖武具を知る者に会ったことはなかった。

イオスはこれについて何か知っているのだろうか。もしそうなら教えて貰いたい。

「それらはかつて古代種が自ら使用していた兵器だ。しかし、戦争が終わると厳重に封印された。直接聞いたわけではないが、古代種ですら持て余していたのだろうな。その強力すぎる性能を」

「古代種が使用していた武具……」

「タマモも犬っころも何も教えてくれなかっただろう。奴らも恐れているからだ。それらの真の姿はこの平和な時代を混沌に落とすだろうからな。俺様はその方が楽しめそうではあるが」

「じゃあ聖武具の真の力を使えば、セインを葬ることができる……?」

意外な事実に驚きを隠せなかった。

こいつは龍人による龍人の為に造られた武具だったのか。

道理で異様なまでに手になじむわけだ。

今は封印されているようだが、それを解くことができれば馬鹿げた再生能力を持つあいつにも勝つことができる。

気になるのは、敵であるはずのイオスがペラペラと伝えた点だ。

「なぜ教えてくれる」

「あれは俺様にとっても目障りなのだ。これから自由気ままに旅をしようというところで、無粋な者によって旅先を荒らされては敵わん」

「旅って、お前王様じゃないのか」

「こう見えて飽き性でね。この数百年、王の座に居続けたことはなかなか耐えがたい苦痛だったよ。故にこれは影武者を始末してくれた貴殿への礼だ。これで俺様は晴れて自由の身となった」

飽きたって、国をまるで玩具を捨てるように。

こんなやつを野放しにするのは世界に良くない。ここで始末するべきだ。

刹那に抜剣、イオスに振るう。

だが、奴はすでに後ろへと跳んでいた。

「機会があればまた会おう。運命の子よ」

「くそっ」

不敵な笑みを浮かべたまま真下の森へ消えた。

騒がしさに一斉に鳥が飛び立つ。

逃がしたか。

運命の子ってなんだよ。訳知り顔で気に食わない奴。

しかし、俺も頭に血が上りすぎたか。

レベル差を忘れて斬りかかってしまうなんて……反省しないとな。

「追いますか?」

「今は放って置く。勝ち目もないだろう」

「古の魔王って油断ならないわよね。まさか生きてたなんて」

機会がどうとか言っていたが、二度と会わないことを切に願う。

数日を要し、橋の終わりが見えた。

地上に降りたところからも道は続いている。

都が近いからなのか時折、道の両側には朽ちかけた石像があって行く人の目を楽しませる。古代の人々はこれらを目にしながら都への期待で胸を膨らませていたのだろう。

馬で並走するピオーネが声をかけてきた。

「たぶんこの先には他国の冒険者も来ていると思う。セインの討伐にはとんでもない額の報酬が支払われるそうだからね」

「一攫千金のチャンスってところか」

「軍を動かしてるところもあると思う。どの国もセインを危険視してるからね。できれば正規軍みたいなのとは揉めないでもらいたいかな」

外交的な問題になると。

おかしな話になったものだな。

これじゃあセイン争奪戦。

不人気だったあいつが今では高額報酬の人気者だ。

国家としては国民の鬱憤を晴らす目的も兼ねているだろう。軍を動かしているってことはそれだけ被った被害が大きいってことだ。

ちなみにこの中央はどこの国家にも属さない空白地帯となっている。

古の魔王達がそう取り決めたらしい。なので他国の軍が侵入しても何ら問題は無い。

その後、俺達はボロボロの巨大な壁を抜け、無数の剣が突き立った草原を抜け、苔のむしたオリジナルゴーレムの残骸が転がる森を通り過ぎた。

そして、古代種の都へと至る。

朽ちた古の建物群。崩れた壁や屋根、雨風によりすり減った石像や柱。巨大な人骨が至る所に横たわり、巨大なオリジナルゴーレムも同様にあった。古の都はとんでもなく広かったらしい。ここでまだ外縁だ。

出てくる魔物を追い払いながら、俺達は遺跡の奥を目指した。

「――水?」

中心を目指すほどに水たまりが増える。

それは次第に数を増やし、最後には浅い池を歩いているような状態となる。そこで俺達は馬車を捨て、自分達の足で進むことにした。

程なくして遺跡の中心に到着する。

「まだ終わりって訳じゃなさそうだな」

目の前には大きな湖があり、その中心にぽつんと緑に覆われた島があった。

水面からは無数の遺跡が顔を出していて、飛び石にして向こう側に渡ることも可能に思えた。

水の中を覗き込んだ。水位はそこまで深くはないらしい。しかし、魚や水棲の魔物が住み着いていて、泳いで渡るってのは避けた方が良さそうだった。

周囲を見渡すと、他国の冒険者や騎士らしき集団が目に入る。

全員セインが目的らしい。

「トール達は別の目的があってここまで来たんだよね」

「まぁそうだな」

「セインはボクらで探しておくから行ってきなよ」

ピオーネの提案に逡巡する。

あの島、母さんが俺に伝えたかった何かがあるような気がする。

なんつーか、意識があそこに引っ張られている感じがするんだ。来い来いって呼んでるような。

タキギがドンッと背中を押した。

「用事があるならさっさと終わらせてくるじゃん。ここはオイラ達に任せてさ」

「悪い。できるだけ早く戻ってくるつもりだ」

「先に倒してたらすみませんってことで」

「……危なくなったらピオーネ達を連れて退いてくれ」

俺の言葉に彼は「団長のご命令とあらば」と真剣な表情となる。