軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

19話 勇者の計算外その2

僕はルンタッタで愕然とする。

あったはずのダンジョンがすっかり消え失せていた。

残されているのは巨大な縦穴だけ。

「何が起きたんだ……」

街の住人はもはや慣れた光景なのか、普段と変らない生活を送っていた。

「大丈夫ですか、セイン」

「僕に触るな! この雌豚がぁ!」

「きゃ!?」

ソアラの手を払いのける。

溶岩のようなどろりとした怒りが吹き上がり、僕は馬乗りになって彼女の首を絞めた。

「ぐる、ぐるじい……ゼ、イン」

「なんなんだ! どうして邪魔をする!」

「やめてセイン。これ以上するとソアラが死んじゃうわ」

ハッとした。

慌てて手を離す。

周囲からは軽蔑の目が向けられていた。

これ以上ここにいるのは不味い。

僕が勇者だとバレればデビューする前から評判は最悪となる。

僕は鮮烈に輝かしく賞賛されなければならないんだ。

この程度のことでつまずくわけにはいかない。

「ソアラ、ちゃんと意識はある?」

「少しふらつくだけです」

「セイン~、仲間をあんな風に扱うのはよくないぜ~」

三人からも拒絶の色が見え隠れしていた。

誘惑の魔眼が効いているとはいえ、さすがにやり過ぎた感は否めない。

ここで一度上掛けしておくとするか。

三人の目へスキルの力を送り込む。

「ふぁ」

「へぁあ」

「あへ」

すぐに効果が現れ惚けた表情となった。

これで僕を裏切ることはない。

いずれ捨てる手駒だが、今はまだ必要だ。

「行くぞ」

「「「は~い」」」

早々にルンタッタを後にした。

街を出た僕らは適当な場所で話し合いを行うことにする。

議題はこのまま進むか、一度国へ戻るか、だ。

勇者である僕は各国共通の切り札的存在なわけだが、基本的には祖国であるバルセイユ所属となっている。

あくまでもこのアルマン国には派遣という名目で来ている。

しかしだ、この国は冒険をするにはうってつけの素材が揃っている。

複数のダンジョンに強い魔物、魔族の国とも比較的近く、とにかく戦いには事欠かない。

おまけに美人が多いと評判の国でもある。

このままおめおめと帰国するのはどうだろうか。

さらに言えば、僕はバルセイユ王室からずいぶんと期待されている。

魔王を討伐した暁には爵位と領地が約束され、場合によっては姫君との縁談もあり得るとされているのだ。

ここで転ぶわけにはいかない。

僕は全てを手に入れるんだ。

もし邪魔する者がいるのなら確実に殺す。

「セイン、私は一度国へ戻って仕切り直す方が良いと思うの」

「理由を聞こうか」

「私達の予定は全て、聖剣を所有している前提で立てられているわ。でも失敗した現在、このまま先へ進むのは危ういと思うの。まずはプランの練り直しが先決じゃないかしら」

リサはもっともらしいことを述べる。

確かにその通りだ。

だが、それは僕が国王に失敗しましたと頭を下げなければならないことを意味する。

冗談じゃない。どうしてそんな羞恥に耐えなければならないんだ。

聖武具ならほかにもあるじゃないか。なんならそれを取りに行けばいい。

幸い最も近い場所は、アルマンを横断した先にある。

少し失敗したが、まだまだ取り戻せる段階だ。

今度こそ盛大にデビューを飾ってやろうじゃないか。

「そういえばさ、この先にアイナークって街があったじゃん。そこに大きな未探索の遺跡があったはずだから、すんごいお宝見つけてデビューを飾ろうぜ」

「それは名案だね。もしそこを踏破することができれば、きっと注目を浴びるに違いないよ。勇者が作る話題としては充分だ」

三人は結論は出たと揃って了承する。

けど、気になるのは聖剣を奪った奴の動向だ。

この先で今までと同じことが起きないとも限らない。

さすがにあの遺跡は領主の許可が必要なので潜っていないと思うが、二度起きたことは三度起きる、ここは急いでアイナークへ向かうべきか。

まったく忌々しい奴め。

宿で女共をのんびり抱いている暇もない。

「なんと、おっしゃったのでしょうか」

「だから遺跡は踏破された」

ロアーヌ伯爵の言葉が理解できず意識が虚ろとなる。

聞いた話では、流れの冒険者が街に訪れ魔族の幹部を倒したそうだ。

しかも未探索だった地下遺跡を短期間で踏破し、さらに貴重な遺物を山のように見つけて地上に戻ってきた。

街の住人も伯爵も、この街の全ての存在がその謎の冒険者を称えていた。

「あら、お父様。ここにいらしたのですわね」

「マリアンヌか」

部屋に美しい女性が入ってきた。

豊満な胸が歩く度にゆさりと揺れ、僕の性欲を激しくかきたてる。

せめて、この女だけでも僕の物に。

誘惑の魔眼で女の目を見つめる。

《警告:魔眼所有者よりもレベルが上である為、効果を及ぼせません》

僕の魔眼が……きかないだと?

またもや愕然とした。

僕の魔眼は、対象者が自身よりレベルが低いことが使用の条件だ。

つまり目の前の女は手に入れられない。

怒りで歯噛みする。

「セイン君と言ったかね、君は勇者に選ばれた人物だそうだが、あえて人生の先輩として助言をしておこう。神は時として予想すらしなかった者を愛するのだと」

「それは僕よりもその冒険者の方が、神に愛されていると言いたいのでしょうか」

「今はまだ分からん。だがしかし、彼はそう思わせるだけの強さと運を持ち合わせていた。そして、心もだ」

僕に説教を垂れているつもりかクソジジイ。

今すぐ殺してやろうか。

「殺気が漏れてますわよ」

「!?」

目の前に切っ先を向けられていた。

この僕がいつ抜いたのかも分からなかった。

勇者でありレベル63である僕がだ。

なんだこの女。

何かがヤバい。確実に。

下手なことはしない方が良さそうだ。

「お話を聞かせていただき感謝いたします。それでは失礼」

「うむ」

僕はロアーヌ伯爵の屋敷を後にする。

「どうしてだ! どうして上手くいかない! 僕は勇者だぞ、お前らが崇めるべき英雄なんだ! どいつもこいつもぶち殺してやる!!」

街の外に出ると、手当たり次第に岩や樹を殴りつけた。

樹をへし折ってようやくほんの少し鬱憤を晴らす。

僕に触れれば殴られると分かっているのか、三人は遠目で心配そうに見つめていた。

なんなんだその顔は。

見ているだけでイライラする。

まるで僕が感情の抑制もできない子供みたいじゃないか。

言いなりになるしかできない人形のくせに。

再び湧き上がる怒りを抑え込み、なんとか冷静さを取り戻す。

「セイン、やっぱり一度国へ戻りましょ」

「聖剣はどうするつもりだ」

「それは……」

「予定通りアルマンの先にある聖武具を手に入れる。戻るならそれからだ」

その冒険者はすでに聖剣を持っている。

つまり二つ目の聖武具を手に入れる必要はない。

このまま行けば確実に聖剣は手に入るんだ。

そうすれば今までの僕が戻ってくる。

ありとあらゆる全てを思いのままにしていたあの僕が。

そうだ、聖剣を手に入れたら村に戻ってみるとしよう。

恋人を寝取られ一人で慰めているだろう、あの愚かで馬鹿なトールに会いに行くんだ。

きっと嫉妬の籠もった目で見てくれるに違いない。

それから目の前でリサを抱いてやろう。

ネイにソアラも。

あいつが怒り狂うのを見ながら最高に気持ちよくなるんだ。

あー、たのしみだなー。

「なぁ、リサ。トールのことをどう思う」

「やめてよ、あの人と付き合ったことは間違いだったんだから」

「だよね」

彼女はうっとりとした顔でお揃いの指輪を撫でた。