軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

183話 戦士は偽物と出会う

奇妙な石像の並ぶ丘を越え、苔の生えたドラゴンの骨を超え、さらに森の中に沈む遺跡群を超えて俺達は先へと進み続けた。

進むほどに魔物の強さは上がり、異大陸固有の魔物もよく見かけた。

何度か人とすれ違い言葉も交わす。

彼らの話はとても面白く、強く俺達の興味を引いた。

古より存在するドラゴンの王がいるとか。

精霊王は四人いるが、内一人は行方知れずだとか。

古の魔王には常にノーパンの美女がいるとか。

十二人の勇者がいる大国があるとか。

各地を転々とする泣く悪霊がいるとか。

地下深くに古代の知識を収めた巨大図書館が眠っているとか。

魔王も恐れる金遣いの荒い聖女がいるとか。

海底には今も手つかずの遺跡が山のようにあるとか。

世界は広い。

ロマンに溢れている。

「――あれが次の街か」

朽ちた現代ゴーレムの上から先を眺める。

荒野の遙か先には、大きな街があった。

よっと。

飛び降りて着地。

「お水です、どうぞ」

「サンキュウ」

カエデから水筒を受け取り喉を潤す。

この辺りは乾燥していて異様なほどに暑い。

真上から降り注ぐ日光も針のようだ。

「あづ~い゛~」

「ぎゅ~」

フラウとパン太はぐでっとして、今にも溶けてしまいそうだ。

日よけとしてフード付きマントを羽織っているから、まだマシだが、それでも暑いことに変わりはない。

俺もこの暑さには参っている。

「カエデ~、涼しくして~」

「仕方ありませんね」

カエデの魔法でフラウ達を冷やす。

「あ゛ぁぁ、生き返るぅう」

「だらけてないで行くぞ」

「主様はよく平気よね。カエデも。実は二人だけ遺物で涼んでいるんじゃないの」

「じゃあマントの中に入ってみるか?」

「やた!」

「きゅう!」

隙間を空けてやると、フラウとパン太が喜んで飛び込む。

「あつ゛ぅう!」

「きゅぅう!」

が、すぐに泣きそうな表情で飛び出した。

そんな快適な物、俺達にはないんだよ。

俺もカエデも暑さを我慢しているだけだ。

さ、行くぞ。

「置いてかないで~、動けないの~」

「きゅう~」

俺とカエデはすたすた先を進む。

「とけるぅう」

「きゅ~」

……世話の焼ける奴らだ。

戻ってフラウを拾う。

パン太は刻印に戻した。

「ま~ち~!」

元気を取り戻したフラウが、叫びながら飛んで行く。

ここはノックスフッド領ビープスと呼ばれる辺境の街だ。

古の魔王ベルティナが支配する地域である。

いかにも強そうな名前だ。

きっと厳つい大男に違いない。

街は思ったよりも整っていて、荒野のど真ん中にあるとは思えないほど。

至る所に水路があって、地下水なのか綺麗な水が流れていた。

暮らしている住人は主にビースト族だ。

他にもドワーフやリザードマンを見かける。

意外にも魔族はほとんど見なかった。

「うげ、トカゲの丸焼きとか売ってるじゃない」

「美味そうだよな」

「ご主人様!?」

屋台のおっさんに声をかけ、トカゲの丸焼きを一つもらう。

ちゃんと処理しているみたいだ。

肉もきちんと火を通しているみたいだし。

一口囓ってみる。

うん、いける。

ほどよく脂がのってて美味だ。

「どうだ?」

「い、いただきます」

受け取ったカエデも一口。

「美味しい!」

だろ。

意外に美味いんだよ。

フラウは「おえっ」と拒絶反応を示す。

お前には絶対にやらないからな!

「生き返るぅうううう!」

「きゅう!」

冷たい飲み物を飲んだフラウが満面の笑みとなる。

適当なカフェに入ったのだが、当たりだったようだ。

テラス席も良い眺めで、冷たいコーヒーも仄かに甘く実に美味い。

なにより屋根があるのがいい。

「ふぅ、汗と砂埃でべとべとです」

――!??

カエデが胸元を濡れタオルで拭いている。

盛り上がった二つの丘と深い谷間。

滴る汗は谷間へと流れる。

おおお、これは。

くっ、止めるんだトール。

見てはいけない。

久々に現れる欲望のドラゴン、理性の俺は歴戦の戦士として鼻の下を指で擦る。

『久しぶりだな、本能』

『今度こそ勝つ。負けぬぞ理性よ』

『馬鹿野郎。お前に出番なんてねぇょ』

『木っ端がほざきよるわ』

戦いが開始される。

本能と理性の激闘、理性の腕が折れるが、本能も片目を斬られる。

長い長い戦い。どちらが勝ってもおかしくない状況。

最後の最後に勝利を収めたのは、理性だった。

『まだまだてめぇには譲らねぇよ!』

『くそぉ……おっぱい……』

カエデがハッとする。

それから顔を赤くして腕で隠してしまった。

「あの、できれば見ないでください……恥ずかしいので……」

「悪い!」

慌てて顔を逸らす。

脳裏で本能のドラゴンが『今回はこれで満足してやろう』といい笑顔だった。

「で、ここからどうするの?」

「とりあえず数日滞在して発つつもりだ」

この街での主な目的は情報収集。

偽の漫遊旅団について探る。

それと観光&補給だな。

この先も荒野が続く、食料と水を大量に確保しておきたいところだ。

紙袋を抱えて市場を回る。

先を歩くカエデは尻尾を揺らしながらご機嫌だ。

「ご主人様、このお野菜初めて見ます」

「面白い形をしてるな」

彼女は店主のおばさんに調理方法を聞き、数個手に取って購入する。

俺の持つ紙袋がまた膨れる。

「やはり私に持たせてください。ご主人様にそのようなことをさせては、奴隷として申し訳ないです」

「いいって。これくらい」

「しかし」

「俺には食材の目利きとかできないし、なによりカエデの買い物を楽しむ姿を見ていたいんだよ」

そう言うと、カエデは「ごしゅじんしゃま……」と涙目になる。

それくらいで泣くなよ。

いつでもどこでも俺の奴隷は可愛いな。

「はぁぁ、漫遊旅団!? あんた達が!??」

この声は、フラウか?

騒ぎは市場の先で起きているようだ。

俺とカエデは急いで向かうことに。

通りのど真ん中で、フラウと数人の男女がにらみ合っていた。

「あんた達が漫遊旅団なんて冗談でしょ!?」

「なんだこのフェアリー、いちゃもんつける気か!」

「つけるわよ! 本物なんだから!」

「お前が本物? ぶふぅ! それこそ冗談だろ!」

無精髭を生やした男とフラウが「あーん?」とメンチを切る。

フラウには情報収集を任せていたのだが。

「きゅう!」

「あ、パン太さん」

ようやく見つけたとばかりに、パン太が俺とカエデの方へ飛んできた。

カエデの前で説明らしき鳴き声をあげるが、さっぱり理解できない。

まぁ、だいたいの事情は見れば分かるが。

「あんた名前は何よ」

「俺はトールだ。漫遊旅団のトール」

「ぶふぅうう! そのツラとナリで主様のフリ? じゃあカエデとフラウはどこよ。ちゃんといるんでしょ」

「はぁ? 誰だそれ。漫遊旅団って言えばトールだろ。あとは知らん」

「あんたよくそれで漫遊を名乗れるわね」

だんだんと男とフラウだけの喧嘩になる。

言い合いはヒートアップし、周囲の人々は足を止めて見物していた。

そろそろ止めないと不味いかもな。

彼が死んでしまう。

「はいはい分かりました。じゃあどっちが本物か勝負しましょ」

「その喧嘩、乗ってやるよ生意気フェアリー」

フラウがハンマーを抜き、男が剣を抜く。

戦いが始まるその刹那、俺は素早く二人の間に割って入った。

「カエデも止めてくれたのか」

「ご主人様ならこうすると思いましたので」

俺はフラウのハンマーを手で受け止め、カエデは男の剣を鉄扇で受け止めていた。

「ひぃ、主様!?」

「な、なんだお前ら!?」

青ざめた顔でガクガク震えるフラウ。

言わなくても分かるよな?

ニコッ。