軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

148話 戦士はビーストの国へ行く

白狼の屋敷に来て三日。

連日、俺達は手厚いもてなしを受けていた。

「お背中をお流ししまぁぁす!」

「ピカピカにいたしまぁぁす!!」

「あ、ありがと……」

風呂に行くと必ず、二人組の厳つい双子がお世話してくれる。

むさくるしい、と言う点を除けば非常に良い奴らだ。

質問にもなんでも答えてくれるし、気遣いができて要望にも即応えてくれる。

掛け流しの湯船では一足早くオビが浸かっていた。

俺が龍人と判明して以来、すっかり態度を改めている。

「自分めが先に入ってよろしかったのですかね」

「いいって。ぶっちゃけ気を遣われるの苦手なんだよ」

「ご命令なのでこうしておりますが、普通はありえないってこと理解しておいてくださいね。じゃないと自分の首が物理的に飛びます」

「分かってるよ。お前らも余計なこと言うなよ」

「「うっす!」」

ごしごし背中を擦る双子は威勢良く返事をする。

「そう言えばここってどういう場所なんだ。異空間、だったか?」

「遺物で別空間を作って維持しているのです。とは言っても自分も詳しいことは分からないのですがね。全ての天獣はこの遺物を使い隠れ里を形成しているそうですよ」

へぇ、じゃあ白狐の隠れ里もこんな感じなのか。

もしかして踏み込まれてはいけない領域にまで踏み込まれたってのは、異空間のことなんだろうか。

だとしたら白狐を襲った敵は、遺物に相当詳しいか、異空間に入ることができる何らかの特殊な力の持ち主なのかもな。

身体を洗い終わり、俺も湯船へと身体を沈める。

ふぅ、気持ちいい。

ここんとこ毎日入ってるな、俺。

「ヤツフサ様よりお聞きしました。明日、旅立たれるとか」

「本当は昨日にも出て行くつもりだったんだけど、もう一日だけとかじいさんが引き留めるから仕方なくな。捜索に役立つものを用意するって話がなきゃ、とっくに西に向かってた」

「あれほどおはしゃぎになるお姿は自分も初めて目にしました故、よほどトール様と離れるのが寂しいのでしょう。御身に深い感謝を」

ここの奴らはいちいち頭を下げる。

すでに慣れた俺は笑みで応じて見せた。

目の前に二つの物が置かれる。

これらはヤツフサが旅に役立てて欲しいと用意した道具。

「まずこちらは一万のマジックストレージじゃ」

「おおおっ」

受け取った布を広げる。

まさか本当に一万の容量を有したストレージがあったなんて。

これさえあればもう収納に困ることはないな。

「次に三級スクロール『導きの針』だ」

「三級スクロール?」

俺は引っかかりを覚えて首を傾げた。

カエデとフラウも疑問を抱いたらしく怪訝な表情である。

「なんじゃい、主殿はスクロールの等級も知らんのか」

「初めて聞いた」

「スクロールってのは、その効果と希少性から等級が付けられておってな、上から特級・一級・二級・三級・四級・五級と分類されている。見分け方は色じゃ」

特級(虹色)

一級(金色)

二級(銀色)

三級(銅色)

四級(白色)

五級(薄黄)

目の前にあるのは銅色、つまり三級のスクロール。

「三級のスクロールは永続的に使え、導きの針は使用者が探しているものの方角を示す効果があるんじゃ。難点は有効範囲がそれほど広くはないってことか」

「すげぇ、ありがとうヤツフサのじいさん」

「くっくっく、まだ礼を言うのは早いぞ」

じいさんはぱんぱんと手を打ち鳴らす。

それを合図にふすまが開けられ、奥から高さ二メートルのデカい卵が運び込まれた。

まさか、眷獣の卵!?

「主殿は眷獣を使役されているそうじゃの。これはちと特殊な卵で、製造されたシリーズをアップグレードさせる『強化卵』と呼ばれる代物じゃ」

「それってつまり、パワーアップするってことか?」

「そうじゃ。ただし、これでできるシリーズは決まっていてな、主殿の眷属で言えば――ロー助、サメ子、じゃな。一匹しか強化できんからよく考えた方がいい」

彼の口ぶりからするに、強化卵にも種類があるようだ。

しかしながら眷獣がさらに強くなるなんてちょっと驚きである。

どっちを強化するのか決めきれないので、とりあえず卵はストレージへと収納することにした。

「白狐の件は頼んだぞ」

「御意。天獣を襲うなどこの千年なかったこと、何者かは知らんが白狼族の総力を挙げて正体を突き止めて見せようじゃないか」

「そっちもいいが、生き残った白狐についても探ってくれよ」

「心得ておるわい。まぁ、あの九尾のババアが簡単に死ぬとは思えんからの」

ヤツフサと白狐の長である九尾のタマモは旧知の仲だそうだ。

彼は腐れ縁、と言ってずいぶんと嫌そうな顔をしていたが。

俺達は白狼達に見送られ、隠れ里を後にする。

山脈を越えて向こう側へと到達。

なだらかな丘が続く曲がりくねった道の傍らで、俺達は腰を下ろし昼食をとっていた。

「誰も反応しないなぁ」

「どうやら半径三十キロの範囲しか探せないようですね」

導きの針には誰の反応もない。

これで一気に捜索が進展すると思ったのだが、世の中そんなに甘くはないか。

引き続き地道に探すしかない。

「おにぎりって美味しいわよね。この中にある肉味噌がたまんないわぁ」

「きゅう」

「一つ寄越せって? ふっ、馬鹿言ってんじゃないわよ。あんたはそこの草でも食べてればいいの。おにぎりなんて贅沢なもの、白パンには勿体ないわ」

「きゅうううううっ!」

「ふぎゅう!?」

キレたパン太がフラウに体当たりして、抱えていたおにぎりが草の上を転がった。

すばやく大きな口でおにぎりをぱくりと食べる。

「きゅ~」

「ぢくじょう、おにぎりが」

悔しそうに地面を叩くフラウ。

何してんだお前ら。

ほら、俺のをやるよ。

「主様~!」

「いいから喧嘩するな」

フラウはおにぎりを囓って頬を大きく膨らませる。

さて、ここから先はビースト族の支配地域。

なんでも地下遺跡なんかが数多くあって度々遺物が出土しているらしい。

観光には事欠かない場所だとか。

ただ、先を急いでいるので今回はおあずけとなるだろう。

俺は古の魔王ロズウェルに会わなければならない。

仲間の安否も気掛かりだ。

ビースト族は大国を築き上げている。

名はガルバラン国。

大国と言うだけあって、地図上では俺達の島が何個も入るような領土を誇っている。

にもかかわらずこの大陸を支配するに至らないと言うのだ。

世界はとんでもなく広大で恐ろしいのだと今さらながらに再確認した。

そして、俺達は辺境の街へとたどり着いた。

「これがガルバラン……」

「立派な門ですね」

「ほへぇ」

「きゅう」

辺境の街、のはずなのだが、アルマンの王都くらいの規模があった。

街の入り口には、体格の良い兵士がきっちり制服に身を包み、中に入る者達の身分証明書を検閲していた。

一目で決まり事に厳しい雰囲気を感じとれる。

「看破!」

「ちくしょう」

「魔族だ、取り押さえろ」

「ルドラ様に栄光あれ!」

兵士に正体を暴かれた魔族が、逃げる間もなく拘束される。

列の最後尾にいた俺達は、その様子を見ながら戦々恐々とした。

「ご主人様、看破持ちと鑑定持ちがいます。どうしますか」

「まずいな。レベルがばれる……」

「ねぇ、今の魔族ってルドラの手下よね」

「それも問題だよな」

ルドラに俺達が知られているのかはまだ分からない。

だが、あの砦で魔族の兵士を数人逃がした可能性は十分にある。

もしそれがルドラに報告していたなら。

できれば魔王とは関わりたくないのだが。

特に厄介そうなルドラとは。

「次の者」

俺達の番が来たので、そっと偽装の指輪を外す。

こうなったら流れに任せるしかない。

もしかしたら鑑定されないってこともあるかも。

兵士に冒険者カードを渡す。

「普通の冒険者のようだな。街には何の用で?」

「水と食料の補給、それと宿に泊まりたくて」

「ふむふむ」

兵士は紙にさらさらペンを走らせる。

職務に忠実なのか、ヒューマンはさして珍しくないのか、彼らは好意も嫌悪感も抱いた様子はなかった。

「念の為、持ち物を確認させてもらいたい」

「え、持ち物を」

「何か問題が?」

「いや、ストレージに入ってて大量だから」

「なるほど。では身につけているものを確認させてもらう」

それなら、いいか。

大したものもないし。

ふと、近くにいる猿部族の兵士がぶるぶる震えていることに目が行く。

彼は検閲を行っている兵士に、何かを伝えようとジェスチャーをしていた。

端から見れば変な踊りをしているおかしな奴だ。

「せ、せんぱい! ヤバいっすよこいつら!」

「どうした鑑定で何か見えたのか」

「それは言えないです! 俺が死ぬ!」

「なんなんだ、はっきりしろ」

あ、こいつレベルを見たんだな。

だからぶるってるんだ。

察したカエデがその兵士に微笑む。

「よけいなことをしなければ、何も起きませんよ」

「了解! 何も申しません!」

「ええ、貴方のような賢い方は好きですよ」

「あざっす!」

「さっきからなにぶつぶつ言ってんだ! いいから邪魔せずに下がってろ!」

「はっ、了解であります!」

鑑定持ちの兵士は敬礼をしてから下がる。

そっか、このレベルを赤の他人が見るとあんな反応を示すのか。

やっぱ偽装は必要だな。

「問題ないようだな。通って良し」

「どうも」

門を通り抜ける際、鑑定持ちの兵士が俺達に敬礼をしていた。