軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1話 戦士、裏切られる

パーティーリーダーであり勇者となったセインが告げる。

「悪いが今日でクビだ」

「どうして。ずっと一緒にやってきたじゃないか」

セインとは幼なじみだ。

故郷の村を出てからずっと支え合いながらここまで来た。

彼だけじゃない。他の三人も同じだ。

武闘家のネイ。

聖職者のソアラ。

魔法使いのリサ。

五人揃ってこのSランクパーティー『 白ノ牙(ホワイトファング) 』は成り立っていたんだ。

確かに最近の俺はお荷物感があった。

急成長した四人に能力が追いついていないのは事実だ。

でもあまりにも突然すぎる。

「自分でも分かっているだろトール」

「まだ、まだ伸びしろはある。お前が勇者に選ばれて、これから大きな舞台に出るかどうかのところじゃないか。俺も戦士として連れて行ってくれよ」

「だからこそだろ。勇者としてデビューするには最初が肝心なんだ。華々しい成果を上げなくてはいけない。なぁ分かってくれよ、親友のお前が死んだら僕は悲しいんだ。この気持ちをどうか汲んでくれ」

それにしては言葉が軽く感じる。

なぜなのだろうか。

大切に想ってきた親友の言葉なのに。

俺は恋人であるリサに目を向ける。

きっと、彼女なら俺を引き留めてくれる。

「私もセインの言うことが正しいと思うの。トールはもうこのパーティーではいられない。きっと近いうちに死ぬわ。実際、それだけの開きができているのよ」

「リサ……?」

彼女がそんなことを言うとは思っていなかった。

それよりも気になったのは、なぜか俺と目を合わせないことだ。

ふと、彼女の右手に目が行く。

薬指には見覚えのない指輪がはめられていた。

おかしい、そこには俺が贈った指輪がいつもあったはずなのに。

リサは視線に気が付き右手を慌てて隠す。

俺は他の三人にも視線を向ける。

四人とも、同じ指輪をはめていた。

隠れた背景を悟って目の前がくらくらした。

つまり……そういうことなのか。俺が邪魔になったと。

俺は親友に最愛の彼女を寝取られたのだ。

だがいつの間に?

気が付いていないだけでずっと前から関係があった?

分からない、思い当たる節があるような気もするし、単なる思い込みかもしれない。

どちらにしろすでにここには俺の居場所はなかった。

「もうはっきりしただろ。大人しく村に帰って僕達の活躍を応援していろ」

「このクソ野郎!」

怒りのままにセインの顔面をぶん殴る。

手を上げてはいけないと分かってはいても我慢できなかった。

こいつは俺とリサが結婚の約束をしていると知っていてやりやがったんだ。

なにより自分の底抜けのお人好しに嫌気がさした。

親友だと信じていた奴の本性を見抜けなかった自分に。

セインは鋭く口角を上げて笑う。

滑稽な俺をあざ笑っているのだ。

何をしても優秀で、顔も良くて、強くて、おまけに勇者に選ばれた。

殴ったはずの俺は敗北に打ちのめされる。

「やめて! 最低よ!」

「見損なったぞトール!」

「貴方はクズです!」

三人の幼なじみが一斉に奴を庇う。

あの気丈で優しいリサが俺を睨み付けていた。

それだけで心は荒む。

「こんなもの返すわ! どこかに消えて!」

「!?」

リサは俺が贈った指輪を投げつけた。

指輪は胸に当たりテーブルの上で転がる。

酒場にいた客達は一斉に俺達へ目を向けた。

「……彼を許してやってくれリサ。トールだっていきなりのことで混乱しているんだ」

「そ、そうね。私も悪かったわ。ごめんねトール」

言葉が出ない。完全に俺が悪者だった。

しかもリサは裏切ったことに対する罪悪感を抱いていない様子。

あれほど想い合った日々が急速に色あせて行く。

もういい、もうたくさんだ。

もうお前達とは関わりたくない。

いいさ、出て行ってやるよ。こんなパーティー。

「今まで世話になったな。四人とも元気で」

「気持ちは決まったみたいだね」

「ああ、せいぜい世界を救え。じゃあな」

指輪を握り、俺は酒場を出て行く。

さようなら俺のかつての仲間と恋人。

街を出て草原を道なりに進む。

行き先は決めていない。ただただ一刻も早くあいつらから離れたかった。

完全に負け犬だな……俺。

右手を広げて指輪を見つめる。

これを贈った時、彼女は心から喜んでいた。

プロポーズにだって頷いてくれたんだ。

泣きそうになって歯を食いしばった。

「これからは新しい道を進む。そこにこれは必要ない」

立ち止まり、大きく振りかぶって草原へ投げ捨てた。

死ぬほど悔しい。今すぐセインをぶっ殺したい気分だ。

けど、そんなことはしない。あんなクソみたいな奴でも元親友だからな。

それに殺したところでリサが戻ってくるわけでもない。

「うぉおおおおおおおおおおおおっ!! くそ、くそ、くそ、ふざけんな!」

座り込んで地面に拳を殴りつける。

処理しきれない感情が渦巻き思考を乱した。

普段はこんなことはしない。温厚な俺でも耐えられない苦痛だったのだ。

身を引き裂くような痛みに心が悲鳴をあげている。

俺の何がダメで、あいつのどこが良かったのか。

彼女にとって俺は何だったのだろうか。

どう思ってあいつと寝たのだろうか。

俺を裏切って平然としてられるのはどうしてなのだろうか。

湧き出す疑問に答える者はいない。

拳に血がにじむまで殴り、ようやく気持ちが落ち着いた。

これで少しくらいは心の整理できただろう。

もちろん悲しいことには変わりないが。

「まずはこれからのことを考えるか」

とりあえず隣国に行って仕切り直すとしよう。

この国にいるとセイン達と顔を合わす可能性が高いしな。

確認のためにステータスを開く。

Lv 20

名前 トール・エイバン

年齢 25歳

性別 男

種族 ヒューマン

ジョブ 戦士

スキル

ダメージ軽減【Lv2】

肉体強化【Lv3】

経験値貯蓄【Lv9】

魔力貯蓄【Lv9】

スキル経験値貯蓄【Lv9】

ジョブ貯蓄【Lv8】

スキル貯蓄【Lv8】

スキル効果UP【Lv10】

大したステータスじゃないのは自覚している。

スキルも数こそ多いが使えないものばかり。

使えるのはせいぜいダメージ軽減、肉体強化、スキル効果UPだ。

この謎のスキルである貯蓄系――俺はそう呼んでいる――は揃って役立たずだ。

スキルの専門家に聞いても使用方法は不明、おまけに能力も不明、自動発動型スキルなのか自己発動型スキルなのかも不明。不明不明不明全て不明のスキル。

俺にもセインのような強いスキルがあれば、あんなことにはならなかったのかもしれない。

そりゃあ勇者であるアイツと比べれば、俺のステータスなんてゴミみたいなものだ。

悔しいが俺が足手まといなのは紛れもない真実なんだよ。

……三人ともLv四十台だし。セインに至っては六十台。

二十台の俺をお荷物扱いするのはごくごく普通だ。

「がうっ! がるるる!」

魔物のブラックハウンドが目の前に現れた。

こいつには悪いが、ストレス発散に付き合ってもらうか。

背中の大剣を抜き放ち構える。

「でりゃああっ!」

「きゃうん」

一瞬で斬り捨て魔物は地面に横たわる。

村を出たばかりの頃はずいぶん手を焼いた敵だが、今では数の内にも入らない敵。

ぱきっ。ぱきぱきぱき。

俺の中でガラスが割れるような音がした。

《報告:経験値貯蓄のLvが上限に達しましたので百倍となって支払われます》

《報告:スキル効果UPの効果によって支払いが十倍となりました》

《報告:Lvが300となりました》

《報告:現在の種族では肉体を維持できません。肉体の再構築を行います》

《報告:肉体の再構成完了。種族が龍人となりました》

視界で文字が流れる。

俺……ヒューマンじゃなくなったの??