軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

イメージか、詠唱か

「全く別種の魔術ということですか」

そう確認すると、アウォードは軽く頷いて両手を広げた。その手の先は左右の診察台に向いている。

五小節の詠唱をしてから、アウォードは魔術を行使する。

「……ホワイト・グレイル」

魔術を行使した瞬間、はっきりと見えるほど可視化した白い光の魔力が、アウォードを中心に実験室中に広がる。

その光の及ぶ範囲全てが癒しの対象となるのか。白い光に包まれた診察台の二人も同時に癒されていく。

時間はかかるが、それでも十分もしたら全ての重傷者が完治した。

その様子にメイプルリーフの魔術師達は感嘆の声をあげる。

「流石ですな、アウォード殿」

そんな声が聞こえてくるが、アウォードは表情一つ変えずにこちらを見た。

「今のは聖女や聖人が使う中でも最上級の広範囲による癒しの魔術だ。はっきり言えば、もしアオイ殿が同様のことが出来るならば、我々から学ぶことは無いだろう」

と、アウォードが口にした為、皆が私に目を向けた。

「広範囲。それは、壁や物に隠れて見えない相手も対象となりますか? 例えば、見える範囲に五人いて、物陰に三人いた場合では、治る対象は五人でしょうか。それとも八人でしょうか」

「八人だ。範囲内であれば人数も視認出来るかどうかも関係ない」

「……では、恐らく先ほどの範囲効果に関しては詠唱によるものでしょう。そちらについて情報を頂けたら有り難いですが」

そんなやり取りをしていると、クラウンが手を叩いて声を上げた。

「ほう! 癒しの魔術の詠唱は魔術師ごとで効果にズレが出てしまうというが、もしやその理由も解明できるだろうか」

興奮気味にそう口にするクラウンに、アウォードが鋭い目を向ける。

「……詠唱の解明。なるほど。確かに別種の癒しの魔術を使う者ならば、違う視点から研究を進めることが出来るかもしれん。うむ、それは興味深い」

と、呟いてから、アウォードは私を見下ろした。

「聖人、聖女しか閲覧できない魔術書を見せよう。過去、メイプルリーフにて認定された最上級の癒しの魔術師達の魔術の研究内容やオリジナル魔術について記載されている。我らは皆、メイプルリーフで癒しの魔術の基礎を学び、やがてその域に達する。それはつまり、どこまでもメイプルリーフで受け継がれてきた枠組みから脱却出来ないことを表しているとも言える。アオイ殿の視点からその枠組みや研究の仕方を見れば、もしかしたら飛躍的な進歩が望めるかもしれない」

アウォードにそう言われて、すぐに首肯する。

「それは願ってもない申し出です。最高の癒しの魔術を見せてもらいたいと思って来ましたから」

【ディアジオ】

夕方、慌ただしく執務室を訪ねて来た者がいた。

近衛兵が室内から外の者から書面を受け取り、こちらに歩いてくる。

「何用だ」

こちらの仕事を邪魔しないように立って待つ近衛兵に声を掛けると、書面を胸の前に掲げて答えた。

「宮廷魔術師団、ジェム・ウェストミーズ副魔術師長が面会を求めております。ヴァーテッド王国より来国しているアオイ・コーノミナト氏に間者の疑い有り。また、クラウン・ウィンザーがメイプルリーフ聖皇国の機密と共に亡命を企てている可能性も、と」

「……間者、亡命……? いや、良い。ここへ通せ」

「はっ!」

面会を許可すると、素早く振り返って扉を開ける。執務室までの長い通路の奥が視界に入り、近衛兵二人に挟まれる格好で待機するジェムの姿があった。

確か、あの男はクラウンと仲が悪かったな。心の中で留意すべき点を意識しつつ、片手を上げた。

暫くして近衛兵に囲まれたままのジェムが執務室に到着する。面会の決まり上、警護する近衛兵がジェムの背後と左右に二歩分ほど離れて立つ。

その状態で、ジェムが一礼して口を開いた。

「陛下、この度は急な面会を許可していただき、感謝いたします」

「うむ。それで、随分と不穏な話を持ってきたようだが?」

挨拶も早々に打ち切り、用件について確認する。ジェムはすぐに表情を引き締めて深く頷いた。

「はい。実は、先日クラウン・ウィンザーがフィディック学院の教員を連れているのを確認しました。あの魔術狂いがただの案内を引き受けるばかりか、随分と熱心に会話しているのを見て、何かあると踏んで独自に調査をいたしました」

「調査? 尾行でもしたのか」

何を突然言い出すのかと思って聞き返すが、ジェムは至極真面目な顔のまま首を左右に振る。

「アオイという者には陛下が特別な許可を与えていると聞いております。私一人が疑惑を持っているくらいで半端な報告は出来ません。その為、各方面に連絡をとり、見学の内容を確認いたしました。それぞれ同行した者などの報告書を提出させております」

そう言って、四枚の報告書を取り出した。精力的に調査をしたのだろう。報告書はきちんと筆跡が違い、それぞれ報告者の詳細も付けられている。

「……魔術学院では研究中の魔法陣を実際に見せて紹介し、魔術研究室では後日癒しの魔術の最高機密の閲覧をさせる、だと? 馬鹿な。そこまでの許可は出していないぞ」

報告書の内容に驚愕して見返していると、ジェムが悔しそうに口を開く。

「陛下がそのような軽率な許可など出すはずがありません。現在の魔術師長や学院長が全て悪いのです。彼らは聖皇国の利害や未来ではなく、魔術の探究にのみ目を向けています。故に、アオイという女、そしてクラウンに唆されたのでしょう」