軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

個室と生徒

寮の中を三人で歩きながら、食堂、トイレ、大浴場、書庫といった共用施設を教えてもらい、エレベーターに乗った。

この世界で初のエレベーターだったが、元からその存在は知っていたが、地球のエレベーターとはかなり違う乗り心地だ。

滑らかに上昇する為、一瞬無重力になったのかと錯覚する。

学園に入ってから、あまり人を見なかったが、寮内にはちらほら黒い服を着た女性を見かけた。大体の人が私を物珍しそうに見ている。

「ここだよ」

と、そうこうしている内に私は自分の部屋に辿り着いたらしい。

顔を上げると、冗談みたいに大きな扉があった。白い石壁の中に、金の装飾が入った黒い扉がある。

「わぁ、私、初めて上級職員の方の部屋に入ります!」

何故か一番テンション高く付いてきたエライザが後ろからそんなことを言った。

「開けて良いよ」

グレノラに言われて、私は扉の取ってを手にした。少し重いが、扉はスムーズに開く。

部屋の中から廊下に向かって光が差し込み、視界は一気に開ける。

「……凄い!」

エライザの歓声に思わず頷いてしまった。

部屋は正面が大きなガラスの壁となっており、美しいフィディック学院の尖塔と青い空が見える。また、一部屋が広く天井も高い。

中に入って見回すと、その一部屋に出入り口以外で後三箇所戸があることが分かった。

丸いテーブルと一人掛けの椅子の脇を通り過ぎ、入り口に一番近い戸を開けてみた。中は脱衣所らしく、更に奥に洋式トイレとシャワー室があった。

「個人用にもあるんですか?」

そう聞くと、グレノラが首を左右に振り、エライザが両手を上げて大声を出した。

「ありませんよ! 個室にトイレやシャワーがあるのは上級職員だけです! それに、なんで部屋が他に二つも!?」

「寝室と書斎だよ」

「私の部屋、寝室一つですよ」

グレノラの返答にエライザが泣きそうな顔でそう呟く。

それを鼻で笑い、グレノラは腕を組んだ。

「悔しけりゃ上級になるんだね。もしくは街の宿に寝泊まりしな」

「宿高いです……それに、グレノラさんのご飯美味しいから……」

素直な様子で嘆くエライザに、グレノラの口の端が僅かに上がった。憎めない性格だ。

私はそんな様子を見て、グレノラに向き直る。

「私なら寝室だけでも大丈夫だし、エライザさんの隣の部屋でも良いですよ」

そう告げると、グレノラは私の顔を一瞥し、踵を返した。

「学長が部屋を割り振るんだ。文句なら学長に言いな。まぁ、部屋をわざわざ一般にするのは、上級にあがりたくて仕方がない職員からすると嫌味かもしれないがね」

それだけ言って、グレノラは部屋から出て行った。

その背を見送り、私はエライザを見る。

「……最後のは、助言ですよね」

「はい、グレノラさんは厳しいけど優しいんです! ストラスさんも同じです! あ、私も実は優しいと評判なんですよ! さぁ、それではこの寮のルールを教えましょう!」

気持ちを切り替えたのか、エライザはまた元気な声でそう言うと、寮のルールについて教えてくれたのだった。

寮の中を案内してもらいながら説明を受け、一緒に食堂を利用して夕食を共にした。

それだけで、あっという間に夜になってしまい、エライザとはまた明日と言って別れる。

研究室に篭ってしまう魔術師が多いことから教員寮に門限などは無いらしい。これ幸いと、私は夜の学院内を散歩してみることにした。

中心に城のような校舎があり、右手側に男性の寮がある。左手側が女性の寮だ。学院の敷地外は街が広がっており、出入り口は東西南北の四箇所にある。ただし、通常は南の城門のみが出入り口として常時開放されている。

ちなみに研究室は北側に集中しているらしい。

夜の学院内は基本的に人が出歩いておらず、店なども無いが、いたる所に街灯があり、幻想的な空間となっていた。

空気も澄んでいて、散歩はとても気分が良い。

無数の光に照らし出される尖塔を見上げ、サグラダファミリアはこんな感じだろうかなどと思いながら歩いていると、不意に物陰から啜り泣くような声が聞こえてきた。

まさか幽霊かと思って身を竦めたが、どうやらそうではないらしい。物陰に視線を向けると、そこには小柄な人影があった。

もこもことした白い髪、黒い服、白い尻尾。

「……尻尾?」

そう呟くと、もこもこの頭がビクンと震えた。人影は恐る恐る振り向き、私を見上げた。

獣人の女の子だ。顔や体は普通の人と同様だが、獣の耳と尻尾が生えている。頭がもこもこして見えたのは、獣耳がへたっていたからだったらしい。

年齢は十四、五歳ほどだろうか。細く小柄で垂れ目気味の目が可愛いらしい。

獣人の少女は涙に頬を濡らしながら、怯えたような顔で離れようとする。地面に座り込んだまま距離をとろうとする少女に、私は意識して優しく声をかける。

「……どうしたの?」

その言葉に、少女は息を呑んだ。

「私は何もしないから、出てきなさい」

そう告げると、少女は恐々とした様子で光の当たる場所へ出てきた。そして、その姿に私は驚く。

少女のスカートの一部は焼け焦げ、靴は履いていなかった。そして、左足には出来たばかりの傷が幾つも見えた。

イジメだろうか。

思わず、眉間に皺が寄ってしまう。

「……動かないで」

そう言って、私は少女の足に手を伸ばす。ビクリと震えた気配がしたが、構わず魔術を行使した。希少な光属性、癒しの魔術。

「 癒しの手(キュアケイル) 」

そう口にすると、ふんわりと暖かい空気に包まれたような感覚が手の先に現れる。

少女は目を見開いて私を見上げ、すぐに自らの足に視線を戻した。

傷はみるみる間に治っていき、表面に残った血液はパリパリと乾いて固まり、最後は粉になって崩れた。後には綺麗な肌の足が残る。

「……よし、治った。靴が無いのは……仕方ありません」

そう呟き、私は固まったままだった少女の体を背中に背負った。

「え!? あ、あの……!」

驚きの声を上げる少女に笑いかけ、私は自らの部屋がある寮へとつま先を向けた。

「靴がないのだから仕方ないでしょう。大人しくしていてね」

言いながら、自分の行動が不審に思われる可能性に気付く。知らない人にいきなり連れて行かれたら怖いだろうか。

そう思ったが、少女は意外にも私の言葉を聞いて大人しくなった。恐る恐るではあるが、私の肩に手を置き、身を預けてくれている。

さて、こんな小柄な子に合う服や靴があっただろうか。私も長身というわけではないが、彼女ほど小柄ではない。

そんなことを考えた時、ちょうど良い人物に思い当たった。

「エライザさんがいたわね」

服と靴を貸してもらおう。人が良さそうなエライザならば、少女に服と靴を貸してくれるだろう。

我ながら名案である。

そうして、私は夜に今日あったばかりの人物の部屋を訪ねたのだった。