軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

聖皇国の機密

「馬鹿なことを言ってはいけません。人体の知識も、魔術の一つずつも全てメイプルリーフが積み重ねてきた重要な機密です。そんな簡単に……」

言いながら、キャメロンはハッとした顔になる。

「……そうか。そういうことですね」

何かに納得したような反応をするキャメロン。

「何がでしょうか?」

尋ねると、キャメロンは眉尻を上げて私を真っ直ぐに見返してきた。

「そういう手で、各国の魔術の情報を集めているのですね?」

すでに、キャメロンに大きな誤解を与えてしまったようだ。完全に詐欺師と思われている。

ならばと、私は片手を上げた。

「では、申し訳ありませんが先ほどの特別室へ戻ってもらって良いでしょうか。私が先に自身の魔術をお見せします。それで、話を聞くに値すると思ってもらえたらで結構です」

提案をすると、キャメロンは難しい表情で固まったのだった。

特別室に戻ると、先ほどの青年がいた場所にもまた新たに重傷者が運び込まれていた。

一番右の奥が最も重傷の者が運ばれると聞き、私は再度そちらに案内される。流れで断れなかったのか、ストラスやコート、アラバータも同じように連れてこられた。

白いカーテンの向こう側で聞こえる悲鳴や呻き声に意識を向けた。

「では、実際に見せましょう。申し訳ありませんが、カーテンをすべて外してください。一方向からだけでも良いですが、出来たら見通しが良い方がありがたいです」

そう口にすると、キャメロンは険しい顔でしばらく逡巡したが、やがて学生たちを見て口を開く。

「……フィディック学院より来られたアオイ殿が癒しの魔術を実演してくれるようです。カーテンを一時的にすべて開放してください。もちろん、無理な時は私が何とかします。お二人は各生徒達にそれを伝えてください」

キャメロンが指示を出すと、二人の学生は私とキャメロンの顔を交互に見てからそれぞれ返事をし、走り出した。

警戒心や疑念の晴れていないが、私がどうするのか見てみたい。そういうことだろうか。キャメロンは意外にもすぐに協力をしてくれた。

「感謝します」

きちんとそう伝えてから、私は特別室内を見回す。

カーテンが手前から次々に開かれて、柱に括り付けるようにまとめられていく。どうやらテントを張るために等間隔に短い柱が設置されていたようだ。カーテンはそれを使って張られていたらしい。

遠目からでも重傷の人々が診察台に横に寝かされているのを見ることになってしまい、エライザ達が体を寄せ合って震え上がる。

そして、診察台の傍に待機している学生たちは視線とともに、様々な感情を向けてきていた。不安や焦りが主だったが、中には真っすぐに怒りを向けている学生もいる。周りでカーテンを開けていくのは他の魔術を勉強中の学生だろうか。

その場にいる人々の視線が徐々に私に集まるのを感じながら、私は怪我を負った人々を確認する。先ほどの青年ほどの大怪我をしている人はいなさそうだ。

これならばと、私はその場から全員を視界に入れながら魔力を集中する。

「 命の風(ライフウィンド) 」

魔力を薄く風のように広げ、治療をすべき相手を選んで包み込んでいく。魔力の風は徐々に勢いを増していき、怪我をした人々の体の内部へと入り込んでいった。体内に入った魔力は私の知識による正常な人体へと体を修復していく。

特別室反対側の奥まで、合計十人の同時治療となった。しかし、見た感じではそれほど危機的状況の人がいないようである。

薄っすらと全員の体が発光し、一分ほどで全員の傷を回復することができた。

皆が唖然とした表情で治療の終わった怪我人たちを見て回る中、私はキャメロンへと振り返る。

「治療は終わりました。殆どが深めの裂傷や軽度の内臓損傷、骨折などの軽傷で良かったです。ただ、真ん中で意識を失っている大柄の男性は内臓の大きな損傷であった為、少々危なかったですね。一応すべての内臓は正常になっていると思います」

それだけ口にしてから、私は「どうだっただろうか」と言外にキャメロンに問いかけた。

キャメロンは目を見開いたまま治療が終わった怪我人達と私の顔を見比べる。そして、無言で怪我人たちの下へ歩いて行った。

学生たちに声を掛けて、治療を終えた人々の状態を確認していく。呼吸、心音、瞳孔の確認など、現代医学にも通じる方法で確認していくキャメロンに、確かに医学知識がきちんと学ばれているようだと感じた。

暫く様子を見ていると、若干疲弊した様子のキャメロンが戻ってくる。

「……確かに、治療は完全に終了しているようです。信じられないことですが、見たことを誤魔化すことは出来ませんからね。広範囲にいる複数の怪我人を同時に治療する……聖女や聖人とされる最高位の癒しの魔術師にしか出来ない大魔術です。これをメイプルリーフ以外の国の方が行うとは……」

その言葉に、私は首を左右に振ってキャメロンの言葉を否定した。

「いえ、私の魔術は怪我人の診察を目視で行った範囲内の治療を行う魔術です。もし、聖女や聖人の方が広範囲の人々を無制限に治療する癒しの魔術を使うことが出来るのならば、それは私の考え方とは違う方法で研究された魔術でしょう。検証できるならば検証したいところですね」

そう答えると、キャメロンは顎を引いて俯く。

「……現在の聖女は広範囲での癒しの魔術は不得意です。それでも同時に五人以上の重傷者を治療することが可能です。一人一人を集中的に治療する癒しの魔術は最大で目や耳だけでなく、腕や足などが失われていても完全に復元することが出来ます。そのどちらも大量の魔力を消費する為、日に一、二度程度しか使うことが出来ないそうですが……」

と、キャメロンは最初に会った時とは打って変わって低いトーンで聖女と聖人について語ったのだった。