軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

原始魔術主義

クラウンの案内を受けながら街の中を楽しく見て回っていると、十字の刺繍を施された白いローブの集団に出くわした。白い靴、白い手袋をした全身真っ白な出立ちだ。

その集団を見て、クラウンはそっと案内ルートを変えるように爪先の向きを変えた。

「さぁ、皆。こちらに行くとしよう。奥に行けばメイプルリーフ聖皇国を代表する魔術学院があり、講義の見学も……」

少し早口気味にそんなことを言って我々の向かう先を変更しようとしたクラウンだったが、その姿を見た白いローブの集団の先頭を歩く男が声を掛けてきた。

「む、そこを行くのはクラウン・ウィンザー殿ではないか。誰を案内している?」

その声に、クラウンはあからさまに嫌な顔をして振り返る。どうしたのだろうと思っていると、クラウンは硬い声で返事をした。

「……ジェム・ウェストミーズ副魔術師長。今は大事な来客の相手をしているので」

面倒だから関わらないでくれ、というニュアンスが多く含まれた言い方で、クラウンが会話を拒否しようとした。それに目を吊り上げて、ジェムと呼ばれた男はこちらへ向かってくる。近づいてくる内に、その男が意外と歳がいっていることに気が付いた。恐らく、五十歳前後だろうか。暗い茶色の髪と赤みがかった目をしている。

「クラウン! なんだ、その言い方は!? 基本魔術も完全に扱えないような分際で、誰にそんな口を……!」

怒鳴りながら、ジェムはクラウンに詰め寄った。だが、クラウンがその相手をしないでいると、ジェムの目はこちらに向く。

「……他国の者か。クラウンが案内役を受けたならば魔術師であろう?」

「ジェム殿! その口の利き方こそ問題でしょう! そちらの方々は皇帝陛下の来客です!」

ジェムの言い様に、クラウンが顔を若干紅潮させて声を荒げる。それを受けて、ジェムが苛立たしげに眉根を寄せた。

あまり面倒ごとになっても困る。そう思い、袖を捲って皇帝から借り受けた腕輪を見えるように出した。幾重にも線を重ねたようなデザインの金の腕輪だ。それを見て、ジェムの顔が笑みの形に歪む。

「……なんと、お若く見えますが第二等級とは……大国の公爵家御令嬢でしょうか。私はメイプルリーフ聖皇国の宮廷魔術師団副魔術師長のジェム・ウェストミーズと申します。聖都で何かお困り事がありましたら、是非とも私にご相談ください」

「……ありがとうございます。ただ、私は爵位も無い若輩者ですので、そんなに畏まらないでください。私の名はアオイ・コーノミナト。他の皆さんと同様でヴァーテッド王国から来ました」

そう答えると、ジェムの眉根寄り眉間に深い縦皺が刻まれた。

「爵位も無い、とは……では、如何にして陛下から王族を除くと最上級のリングを下賜されたのでしょうか」

改めて尋ねられて、思わず答えあぐねる。

「……私が、新しい魔術を使えるからでしょうか?」

思わずそう尋ね返してしまった。すると、クラウンが慌てて否定する。

「い、いやいや、違う。アオイ殿はフィディック学院の上級教員であり、他の皆もそれぞれ優秀な教員と生徒の方々です。特にアオイ殿は、初めて最初から上級の教員として招かれた才女で……」

クラウンがそんな説明をすると、ジェムの目が鋭く尖った。

「……フィディック学院の……陛下の新しいモノ好きにも困ったものだ……」

ぶつぶつと何やら呟き、ジェムは下手な微笑みを顔に貼り付ける。

「いや、お時間をとらせた。それでは、聖都の観光を楽しんでくだされ」

途端に興味を無くしたように、ジェムはそれだけ言って我々に背を向けた。歩き去っていく白いローブの集団を眺めて、クラウンはホッとしたように小さな溜息を吐く。

「苦手な方ですか?」

そう尋ねると、クラウンは肩を竦めて首を左右に振った。

「今の僅かな雑談で分かっただろうが、あの集団は宮廷魔術師団の中でも極端な原始魔術主義の連中だ」

「原始魔術主義?」

聞きなれない言葉に首を傾げる。クラウンは目を丸くして何度か瞬かせた。

「聞いたことがないか? あぁ、ヴァーテッドでは違う言い方をするのか。魔術の歴史の長さを考えて、新たな魔術を開発する時間なんて無駄だと断ずる奴らだ。確かに、完全に新しい視点から作られた魔術で有用なものは少ない。それこそ、百年に一度あるかないかかもしれない。しかし、原始魔術主義の奴等のように既存の魔術を洗練していくばかりでは大きな進歩は望めないだろう」

何かのスイッチでも押してしまったのか、クラウンは原始魔術主義者への解説と不満を噴出させた。

「なるほど。既に重用されている魔術を更に昇華させるのを良しとする考え方、ということですね。それも必要なことではありますが、新しい魔術の研究者を馬鹿にしてはいけません」

そう答えると、クラウンは輝くような笑顔で私の手を取り、何度も頷いた。

「そうだろう! 流石だ! 我が国ではもう百年近く新たな魔術が常用魔術とされていない。全く嘆かわしい限りだ。それに比べて、ヴァーテッド王国にはフィディック学院があり、様々な国の魔術師が集まるという素晴らしい環境がある……なんて羨ましい! 出来ることなら今からでもフィディック学院の生徒になり、各国の魔術師から魔術を習いたい!」

と、メイプルリーフ聖皇国の魔術の最高峰に位置する筈の宮廷魔術師が叫ぶ。それには私たちだけでなく、周りの人々も目を丸くしたのだった。