軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

【別視点】ガローヌの誤算

【ガローヌ】

大国の一つであるヴァーテッド王国。その中でもウィンターバレーは特別だ。世界最高峰の魔術学院を有する学院都市は、大国だけでなく様々な国の人と財が集まる。

金が集まれば、その地の闇も深くなる。つまり、他の国の大都市と比べても明らかに濃く深い闇が広がっているのだ。

深すぎるその闇を一つの組織が統べることは出来ず、複数の大きな組織がしのぎを削り、熾烈な争いを繰り返してきた。今は拮抗状態ということもあり縄張り争いも落ち着いているが、いつまた殺し合いが始まるとも限らない。

その時までに人員を増やし、財を蓄えておかねばならないだろう。

そう考え、傭兵や冒険者、借金奴隷となった衛兵や盗賊まで部下として組織に加えている。中には元宮廷魔術師候補となった魔術師までいる。

準備は万全であり、油断も慢心も無い。最後に残る組織があるとすれば、私の組織となる筈だ。

その考えの元、今回はあえて胡散臭いネヴィス一家の甘言に乗った。

曰く、バカでかい儲け話、だ。これほど下らない誘い文句は無いが、口にしたのはネヴィス一家だ。

規模は中規模の組織だが、この街にあっては古参の勢力である。構成員も設立時からヴァーテッド王国の民だ。それ故に、我々とは別種の情報源や儲けの糸口を持っている。

そのネヴィス一家が大きな儲けの話があると言えば、気にならない組織は無いだろう。それに、人数は数十名程度のネヴィス一家が人手が欲しいというのは、至極納得のいく理由でもある。

「……ボス。ネヴィス一家の頭、カリラが来ました」

思案していると、鋼鉄製の扉をノックする音と共に部下からの報告があった。

想定していたよりも随分と早い。

「構わない。開けてくれ」

そう答えると、扉の左右に立つ我が組織の精鋭二人が扉を開錠し、押し開く。

重々しい音を立てて、扉は開かれた。そこに立っていたのは大柄な女だった。長い茶髪を揺らし、腕を組んで太々しくこちらを見ている。その隣には、場違いな黒髪の少女が立っていた。小柄で華奢な少女だが、臆した様子はない。

一般的な人間なら、いや、仮令屈強な兵士であっても、この空間は恐ろしいと感じるのが普通だろう。そうでなくとも、威圧くらいはされるものだ。

なにせ、この広い地下室には精強な部下達が控えている。それに地下室の作りもそうだ。尋問や威圧を行う為に重苦しい石壁の薄暗い空間を作り出しているのだから。

カリラと少女が室内に足を踏み入れると、左右に控えていた部下が四人、音もなく二人の斜め後ろに立つ。さらに、通路の奥には暗殺が得意な者が潜んでいる。

正面で椅子に座している私の左右に立っているのは、我が組織でも最も腕が立つ元冒険者と魔術師の二人だ。

ネヴィス一家はカリラを頂点とする一枚岩だ。今ここでカリラ達を制圧して尋問し、無理やり儲け話とやらを聞き出しても良いくらいだろう。そうすれば、ネヴィス一家をそのまま吸収することも可能かもしれない。

そんな思惑もあり得ると、カリラとて考えている筈なのだが……なぜ、これほど余裕のある表情が出来るというのか。

「……久しぶり、というには最近は顔を合わせる機会が多いね、ガローヌ」

半笑いでそんな挨拶をしてきたカリラに、部下の一部が眉根を寄せる。無法者同士が顔を合わせる時、どちらが力を持っているか、その一点に着目する。舐められたら終わり。それはどの国の裏側でも共通の常識だ。

だから、私は対等であるという態度で話をするカリラに、余裕を見せて微笑んだ。

「……また会えて嬉しいよ、カリラ。それに、今日はとても魅力的な話を聞かせてくれるとか……私の期待に応えてくれる内容であることを祈るよ。君の為にも、ね?」

そう告げると、カリラが肩を竦めて苦笑する。

「格好つけてるところ悪いけど、あんまり偉そうにしない方が良いぜ。俺たちは所詮街の陰に巣くう寄生虫だ。宿主が死ねば共倒れになるし、暴れ過ぎれば探し出されて捻り潰される……その程度の存在だ」

「なんだと?」

カリラの発言に、一気に空気が張り詰める。だが、その言葉は我々だけでなく、自らをも卑下するような内容だ。

何故、こんな話をする。これから協力関係を築こうとしている相手に怒らせるようなことをわざわざ言う理由があるのか。まさか、真っ当な商会を共に立ち上げようとでも言うつもりか。

そんなことを思いながら様子を窺っていると、カリラは面白くなさそうに肩を竦め、皆を見回した。

そして、最後に私を見る。

「……白き灰のガローヌ。残念だが、祖国に帰ることを提案する。それが、アンタが最も儲けられる唯一の道だ」

カリラがそう言うと、その場の空気が固まった。数秒後、部下達の何人かが怒りの声を上げる。

「ふざけるな!」

「今すぐ潰されたいのか!?」

「ネヴィス一家ごときが……!」

怒鳴り声と、剣を鞘から抜く音。カリラからすれば、状況は最悪だ。たった二人。それも、片方は小柄な少女だ。カリラ一人ならば、もしかしたら脱出の目もあっただろうが。

「落ち着け」

私が一言口にすると、全員が武器を手にしたまま、動きを止めた。

無数の殺気に射抜かれている筈のカリラは不敵な笑みを崩さずにいる。むしろ、我らを憐れむような目でさえ見ていた。

そこへ、隣に立っている小柄な少女が口を開く。

「……約束は、ここまでで良いですか?」

意味の掴みづらい言葉だ。それを理解できずに顔を見合わせる我々を尻目に、カリラが困ったように笑う。

「いや、もう一度……って、無理だろうな。極悪人を自称する俺も、流石にガローヌが可哀そうになってきたぜ。一度でも説得する機会をもらっただけ良かったよ。これで、仕方ないと自分を納得させられる」

溜め息交じりにそんなことを言って、カリラは首を左右に振った。怒りよりも、困惑の方が大きい。まるで、カリラが我らの身を案じていたかのような言動。いや、それよりも、あの少女の方が我らの命運を握っているかのような……。

「……カリラ。気になる点がいくつかあるが、一つだけ答えて欲しい。その女は、誰だ」

尋ねると、カリラは面白くなさそうに口を開いた。

「魔術学院の先生だよ。新任のな」

「学院の、教師……?」

ますます分からない。単純に教師には見えない容姿にも疑問は残るが、それは種族の違いの可能性もある。最も気になるのは、何故こんな場所に学院の教師なんてエリートが訪ねてきたのか、だ。

「……教師。たとえ、その話が本当だとして、どうして我々のところへ? まさか、高い魔術師としての技能を持つ学院の教師殿は、たった一人で我々に勝てるとでも?」

確認するように聞くと、少女は目の前に突き付けられている剣を摘まむように掴んだ。

そして、小枝をそうするように鋼鉄の剣をへし折った。

「な……っ!?」

「な、なんの魔術だ!?」

一気に警戒心が跳ね上がる。私も、腰を上げて杖を取り出す。

「……本気で、我々と戦うつもりか? たった一人で」

冗談だろう。そう思って通路の奥に立つ部下を見るが、否定の動作が返ってくる。つまり、この隠れ家に騎士団などが迫っているなどということは無いということだ。

だが、少女は穏やかな微笑みを浮かべると、一歩前に出てきた。

「聞きたいことは三つ。現在、どんな商売をしているのか。他の組織の隠れ家はどこか……そして、我が魔術学院の生徒が貴方達の商売の犠牲になっていないか、です」