軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ネヴィス一家のボス

通路に入ると、まずはロックスが左の扉を開けた。

だが、中に入っても古びた棚や木箱が並ぶばかりで、到底カジノのような華やかな場所には見えない。

棚に陳列された商品も確かに在庫らしき品々ばかりである。

「ちっ、反対側か!」

ロックスは素早く反転、通路に戻って逆側の扉を開けた。

「うぉ、なんだお前!?」

厳つい男の声が聞こえる。

立ち止まったロックスの後ろから中を覗き込むと、大柄な男が十数名休んでいた。机の上には飲み物や食べ物が並び、その周りには長椅子や一人用の椅子など、雑多な椅子が並んでおり、そこに一人ずつ腰掛けている。

入り口近くには一人の男が立っていたが、ロックスに驚いたのか、こちらを振り返りながら後ずさっていた。

少し薄暗い室内を見回すロックスに、男達は露骨に嫌そうな顔をする。

「誰だ、お前」

「何しにきた」

男達は一斉に立ち上がり、睨め付けるような視線を向けてきた。

屈強な体躯の大人達の明確な敵意に、ロックスも思わず口籠もる。

「こちら、ネヴィス一家で間違いありませんね?」

ロックスと護衛の二人を片手で少し移動させ、私が前に出て確認した。

「はぁ?」

「なんだ、そのネヴィス一家ってのは?」

馬鹿にしたような笑いが起こる。

「目つきは悪いが、良い顔立ちしてるな? 嬢ちゃん、ここで働くか? 金なら弾むぞ。ちょっと服脱いでりゃ良いだけだからな。馬鹿でも出来る簡単な仕事だ」

「はっははははっ!」

下品な冗談を一人が口にして、皆がまた笑い出す。嫌な空気だ。

私はそれらを無視して、周りを見回した。壁は石と木の壁だが、かなり凝った内装だ。灯りは薄暗いが、壁や天井には灯りの点っていない照明も多い。

それに、椅子の並び方があまりに乱雑過ぎる。

違和感を感じて入念に調べていると、顔を真っ赤にしたロックスが一歩前に出た。

「貴様ら、無礼だぞ! 我らは一流の魔術師だ! 生きながらに焼かれたくなければ今すぐ命乞いして頭を地につけろ!」

と、怒髪天を衝く勢いで激昂したロックスが貴族らしい脅し方をした。これではどちらが悪者か分からない。

男達の表情が一気に剣呑なものになり、一触即発の空気となる。

私は無言でロックスの後頭部を拳で殴る。

「っつぁ……っ」

大袈裟な悲鳴を挙げて、膝をつきながら呻くロックス。思わず護衛二人が体を支えに走った。

「この子が失礼いたしました。とはいえ、先程の男性も自白しましたが、ここがネヴィス一家の隠れ家なのは間違いなさそうです。皆さん、正直に質問にお答えください」

そう言うと、男達はポカンとした後、吹き出すように嗤い出した。

「この子だってよ!」

「さっきの男だぁ? そいつはそこから出て行ったぞ!?」

笑いながら男達は後方の壁を指し示す。

壁際に立っていた男三人が移動すると、そこには黒い金属の扉があった。裏口だろうか。

「なんだと!? あの男、我らを謀ったか……!」

護衛の一人が悔しそうに呟いた。

「いえ、あの人はそこにいますのでご安心を」

私はそう言って、部屋の奥を指さした。

すると、男達は再び剣呑な空気を纏い、私を睨んできたのだった。

【逃げる男】

なんだ、この女。

最初の印象はその程度。王族を名乗る赤髪の小僧より年下に見えるのに、明らかにロックスとやらより立場が上だ。王族という話が本当ならば、ロックスが第二、第三王妃の次男以下の立場。あの女が正妃の長女か何かだろうか。

しかし、ロックスの髪の色は赤であり、あの女は珍しい黒髪である。

いったい何なんだ、この二人は。

そう思っていたが、目の前で岩を握り潰され、その手で頭を掴まれた瞬間理解した。

この女は悪魔か何かだ。掴まれた頭は必死に振り解こうとしても微動だにしなかった。笑みを浮かべながら俺を見る女の顔に、人生で最大の恐怖を知る。

気が付けば、今使ってる会場の場所を話してしまっていた。本来なら偽の倉庫や店舗として使ってる店に案内するのだが、あまりの恐怖からかそんな当たり前のことも出来なかった。

だが、普通ならば建物に入ってもカジノまで辿り着かない。

わざとそれらしく作った裏口は偽の商会に続いており、無理に押し入っても戸惑うばかりだろう。

その間に、報告は二階のカジノまでいく。後は裏口に客と一緒に逃げれば良いだけだ。この建物には三箇所出入り口がある。通常の裏カジノの入り口が最も怪しまれるだろうが、逃走用の裏口は別だ。

俺は素早く商会の商人を演じる仲間に目で合図を送り、音を立てずに棚の裏から店の奥へと走った。

通路の右側の扉を開けると、俺の焦った姿に皆が眉根を寄せる。

「おい、なんだ?」

「騎士団でも出てきたか?」

集まってくる奴らに片手を振り、さらに奥に向かう。

「散らかせ! 面倒な奴らが来る! カジノは今日は終いだ!」

そう答えると、皆は一斉に動きながら口を開く。

「なんだ、どんな奴だよ」

「今日は売り上げ良かったってのに」

「おい、そっち持て」

騒がしくしながらも慣れた動きで室内の見た目を変えて行く。

「俺はボスに報告してくるぞ」

それだけ言って、急ぎ奥の棚を横に動かし、階段の前に立った。床も壁も全て真っ黒に塗った階段は、離れて見ると壁にしか見えない。

辛うじて二人同時に通れるほどの階段を上りきり、すぐに階段上の扉を叩く。三回、二回、三回のノックで、扉は即座に開かれた。

「どうした?」

怪訝な顔で扉を半開きにした仲間に、俺は出来るだけ冷静に事実を伝える。

「王族と護衛と悪魔みたいな女が揃ってきやがった! 逃げるぞ!」

そう告げると、仲間は怪訝な顔をしながらも中へ通してくれた。

「ボスが判断することだ。直接言え」

「分かってる。ボスは奥か?」

「そうだ」

返事を聞き、すぐさま奥へと向かう。

カード、ルーレットなどの台があり、周りには一般の者達より良い身なりの奴らが群れを作って我先にと金を落としていた。

不思議なもので、全体を薄暗くして台の上に灯りを点けると、皆が吸い寄せられるように灯りに集まる。

通路や壁際には喜怒哀楽様々な表情の奴らが灯りから逃れるようにしているが、その目は一様に灯りが降り注ぐ台に向けられていた。

こいつらは大半がもうダメだ。ギャンブルに狂ったら、もう離れられない。

そして、もうどうしようもなくなった借金を抱えた奴らも同様だ。台の一つには魔術学院の制服に身を包んだ少年が三人いるが、目は血走り冷や汗を流していた。

やはり、貴族の子は楽に金を産む。

しがらみの多い貴族は誰にも相談出来ず、借金で首が回らなくなれば焦りから甘い言葉に騙される。

こんな楽な商売辞められない。

俺は音を立てずに室内を進み、奥へ続く扉の前に立った。

「ボス、失礼します」

声を掛けてから、返事を待たずに扉を開ける。

部屋に一歩踏み込んだ瞬間、カジノの光に誘われるように出てきた濃い煙と中身の入ったガラスのコップが飛んできた。

開かれた扉の角に当たってガラスが砕け散る音を聞きながら、深く頭を下げる。

「突然すみませんが、緊急です! 今、下に……!」

「黙れ、クソ野郎……俺が返事をする前に開けてんじゃねぇよ、おい。もっかい、一から教育してやろうか」

怒りの滲む声をぶつけられ思わず身震いしてしまうが、今はそれを我慢してでも報告しなくてはならない。

「すみません! しかし、今は本当に緊急事態です! 話を聞いてください!」

そう言ってその場で跪き、奥のソファーを見る。

薄暗い部屋の奥で、赤いソファーに腰深く座る大柄な女が目を光らせていた。